第303回 『タッチ 背番号のないエース』
TVシリーズ『タッチ』と同時期に、同じ原作を元にした劇場作品が3本製作された。今回の原稿では、その第1作『タッチ 背番号のないエース』のクライマックスについて書く。この連載では今まで、色々な作品のクライマックスや終盤の展開についても書いてきたが、『背番号のないエース』は終盤の展開が、TVシリーズや原作と違うのがセールスポイントの作品であり、話題にするのを少しばかり躊躇してしまう。しかし、それについて触れないと紹介もできない。いつかこの作品を観ようと思っている方は、今回の原稿は読まない方がいいかもしれない。
劇場版『タッチ』3部作は、第1作『タッチ 背番号のないエース』が1986年4月12日、第2作『タッチ2 さよならの贈り物』が同年12月13日に、第3作『タッチ3 君が通り過ぎたあとに —DON'T PASS ME BY—』が1987年4月11日に公開。監督の杉井ギサブロー(『タッチ2』『タッチ3』では総監督)をはじめ、スタッフはTVシリーズとほぼ同じ顔ぶれだ。それぞれ、斉藤由貴や国生さゆりが主演の実写映画と2本立てで公開された。
僕は、3本とも劇場には行かず、後になってレンタルビデオで観た。劇場に行かなかったのは、この連載の第294回「カウチポテトの日々」で書いたように、あまり劇場に足を運ばなくなっていた時期だったためでもあるし、アイドル映画と同時上映である事に「非アニメファンを対象にした興行」のオーラを感じとったためでもある。『背番号のないエース』に関しては、原作とは違うラストを迎えるという事を雑誌の記事で読んで「なんだかヤバそうだ……」と思ったから、というのもあった。
『背番号のないエース』は、中盤までは原作に沿った内容だが、後半の展開がまるで違う。この映画でも、甲子園大会地区予選決勝を前にして、和也が交通事故で命を落とす。そして、和也の死を知った達也は、そのまま球場に向かい、和也の代わりに決勝戦のマウンドに立ってしまうのだ。選手登録していない生徒が出場したのだから、たとえ勝ったとしても、この試合は没収試合になり、明青野球部は甲子園には行く事はできない。しかし、明青ナインは、和也のために力投する達也に同調し、そのまま試合を続けるのだった。キャプテンの黒木は、監督に「甲子園はどうでもいいです。この試合、俺たちのエースのために勝ちましょう」と言う。
ある意味、雑誌記事を読んで予想したとおりの展開だった。確かにドラマチックではあるが、乱暴な展開だとも思った。いくらボクシング部で身体を鍛えていたからといって、まるで野球経験のない達也が、強豪チームを打ち取るのはリアリティがない。また、達也が登板しなければ、明青野球部は甲子園に行けたかもしれないわけで、他人の事を気づかう達也がそんな事をするだろうかというのも引っかかった。
ただ、『背番号のないエース』企画時には、続編が作られるかどうかは分からなかったはずだ。作り手は、とりあえず1本の映画として完結させなくてはいけなかった。そのために、こういった大胆な展開を選んだのだろう。乱暴だなあと思いつつ、その思い切りのよさに感心した。杉井監督が、メジャーな映画を狙っているのも、よく分かった。それから、そもそもタイトルの『タッチ』とは、和也から達也へのバトンタッチの意味もあるはずだ。それをストレートに描いているのも面白いと思った。
第304回へつづく
(10.02.09)