アニメ様365日[小黒祐一郎]

第311回 『めぞん一刻』の路線変更

 前回(第310回 『めぞん一刻』)で触れたように、『めぞん一刻』は2度もメインスタッフが交代している。最初の入り替わりが27話だ。ここで、チーフディレクターが安濃高志に、シリーズ構成が伊藤和典に、キャラクターデザインが高田明美になった。それだけでなく、カラーコーディネーターとして、スタジオジブリの作品でお馴染みの保田道世が参加。音楽も杉山卓夫から、川井憲次に交代(さらに38話から、杉山卓夫と川井憲次の連名になる)。
 スタッフが入れ替わると同時に、映像の作りも変わっている。以前、「この人に話を聞きたい」で、高橋ナオヒトに登場してもらった時(第42回 2002年4月号 VOL.286)に、その話題が出た。以下に該当箇所を引用しよう。


高橋 レイアウトに対する見方、テクニックのようなものは『めぞん』である程度覚えました。当時『めぞん一刻』に参加した人は、忘れられない事だと思うけど、あの作品って監督が3人いるんですよ。2度、路線が変わってるんです。特に、1度目の路線変更が凄くて、キャラデザインも変わってるんです。あの時の(制作現場の)混乱ぶりは、凄いものでした。ただあの路線変更があったから、どうすれば日常芝居を魅力的に見せられるのかを各スタッフが覚えたと思うんです。
 安濃(高志)監督に変わってから、僕が担当した最初の回の演出が片山(一良)さんだったんですが、その時に僕がそれまでやってきたレイアウトを全部否定されたんです。ショックだったけれど、やっぱり片山さんの言っている事の方が正しいんですよ。それは認めざるを得ない。「レイアウトって、こういうふうにやればいいんだ」という事を学んだんです。
—— 具体的にはどういう事なんですか?
高橋 アニメのレイアウトって、結局見た目が良ければいいんですよ。理屈優先でレイアウトをとってもダメなものはダメ。レイアウトは、見た目が大事だという事を体感できたのが、あの話です。


 先日、『めぞん一刻』に参加した別のスタッフに、話をうかがう機会があったのだが、やはり、安濃高志CD時代になって、レイアウトのとり方、あるいはレイアウトチェックのシステムが変わったという事だった。
 ビデオで観直してみると、安濃高志CD時代の『めぞん一刻』は、やまざきかずおCD時代とはまるで別の作品だ。アニメ的な派手な表現はなくなり、画作りも落ちついたものとなった。実写を思わせるような個所もある。ドラマについてもしっとりとした部分を押すようになった。静的な作品になった印象だ(ただし、安濃高志CD時代の全エピソードが同じテイストであるわけではない)。最初からこういった方向性で作ってくれれば、僕はもっと『めぞん一刻』に入れ込めたかもしれないとも思う。
 ただ、放映当時、そういった演出の方向性について、ファンの間でもあまり話題にならなかったと記憶している。自分の事を振り返ると、スタッフが入れ替わって数話経ってから「あれ? いつの間にか、雰囲気変わったな」と思った。そういった感じだった。他のファンの発言でも、この路線変更について言及したものを目にした事がない。路線変更が話題にならなかったのは、26話までで、アニメ『めぞん一刻』に対する興味が薄れてしまったファンが多かったためかもしれない。
 安濃高志CD時代で、よく話題になるのは、演出ではなくて、むしろ、オリジナル編の内容についてだ。32話「玉子はミステリー? 四谷の危険な贈り物」は、五代が、四谷から正体不明の卵を預かった事から始まるドタバタ劇。タイトルが示すとおり、ミステリータッチの話だ。44話「賢太郎君もマッ青?! 四谷の恐るべき正体」は、アルバムに貼られた大昔の写真に、四谷が写っていたという謎をめぐるエピソード(安濃高志CD時代は、四谷がやたらとプッシュされている。これは伊藤和典によるものかもしれない)。そういった奇抜なオリジナル編で、アニメ『めぞん一刻』にネガティブな印象をもったファンは少なくなかった。
 安濃高志CD時代の話は、もう少しだけ続ける。

第312回へつづく

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(10.02.22)