アニメ様365日[小黒祐一郎]

第334回 『魔法のスター マジカルエミ —雲光る—』

 前回取り上げた『蝉時雨』との関連で、『マジカルエミ』のOVA版をもうひとつ紹介しよう。『魔法のスター マジカルエミ —雲光る—』だ。これは、2002年に『マジカルエミ』DVD BOXの映像特典として制作された、15分の短編だ。単独商品としてリリースされた事がないので、未見のファンも多いだろう。監督・脚本は安濃高志。他のスタッフは入れ替わっており、キャラクターデザイン・作画監督が海谷敏久、作画監修として西村博之が参加。アニメーション制作は亜細亜堂で、スタジオぴえろ(現・ぴえろ)は制作協力としてクレジットされている。舞のキャストも交代しており、久川綾が演じている。
 描かれているのは、TVシリーズの4年ほど前、舞の弟である岬が産まれるまでの数日間だ。舞は小学校に入ったばかりくらいの年齢であるはずだ。他に登場するのは、武蔵、舞の両親と祖父母。季節は、梅雨から夏にかけてだろうか。一家の団欒、自転車の補助輪を外してほしいと両親の頼む舞、舞を寝かしつける母親、母親が産気づいたかと勘違いして病院に急行する3人、父親と舞だけの朝食、雨の中を帰ってくる舞、母親の見舞いに行った父親と舞、店の手伝いをする舞……と、日常的な描写を淡々と積み上げていく。最後に舞が、産まれた岬と対面する場面があるので、話としてのまとまりがあるともいえるのだが、やはり、物語を見せるよりも、何かを感じさせるのを目的としたフィルムだ。
 演出と作画は、TVシリーズとも『蝉時雨』とも違ったものになっている。キャラクターはシンプルなフォルムで立体を表現したもの。つまり、今風のリアルなデザインとなった。芝居は細かく、よく動いている。演出的にはカメラをひいた構図を多用。全体として、より落ちついたトーンになった。安濃監督の演出の指向が変わったのか、亜細亜堂の作画スタッフなら、ここまでできるという信頼があっての演出だったのかが気になるところだ。
 作りは『蝉時雨』よりも緻密になっており、リアル感は上がっている。ただし、15分という短い分数で語れる事はあまりに少なく、1本の作品としては少々物足りないのも事実だ。舞が、家に帰ったものの誰もおらず、不安と孤独を感じて泣き出してしまう。それがクライマックスだ。誰もが子どもの頃に一度は感じたであろう感情を描き出している。誰もいない家の広さを感じさせ、また、祖父母の声が、遠くから少しずつ舞に近づいてくるという演出が効いていた。安濃監督はこの場面の感情を描きたくて『—雲光る—』を作ったのではないかと思うくらいだ。
 本編とエンディングの間に、エミによるマジックショーのシーンがある。イメージ的なもので、TVシリーズと『蝉時雨』の印象的な場面がリフレインされる。驚いたのがエンディングだ。なんと、『蝉時雨』と同じく、成長した舞が自分の部屋でアルバムを見ている映像なのだ。構図も似たものだし、今回も室内は薄暗い。『蝉時雨』と同様に、『—雲光る—』も成長した舞による回想だったのだ。ひょっとしたら『蝉時雨』と『—雲光る—』は、ある日の舞の回想を、ふたつの作品に分割したものなのかもしれない。演出や作画のスタイルは変わっているとはいえ、『蝉時雨』から16年経って、同じコンセプトで新作が作られた事に驚いた。安濃高志、恐るべし。

第335回へつづく

魔法のスター マジカルエミ
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(10.03.26)