アニメ様365日[小黒祐一郎]

第355回 『CITY HUNTER』続き

 この原稿を書くために、DVDで『CITY HUNTER』を視聴した。いつか仕事で使うかもしれないと思って、DVD BOXを購入しておいたのだ。「アニメ様365日」をやっていてよかったと思ったのは、買い溜めたDVDを活用できる事だ。買うだけ買って、結局再生しないよりはずっといい。これで「アニメ様365日」が別の仕事に繋がるともっといいのだけれど。これだけボリュームのある連載だと、そのまま単行本になるわけがないし、単行本にするつもりで書いているわけでもない。具体的に成果を出す事を考えないではじめた連載だけど、何か次の展開につながらないか。365回を前にして、ちょっとそんな事を考えた。遅いか? 遅いですね。
 前回触れたように「この人に話を聞きたい」で、こだま監督に『CITY HUNTER』についても話をうかがっている(2006年11月号・vol.341に掲載された第91回)。以下にその内容を引用する。


—— 『CITY HUNTER』に関しては、どのように作ろうと思われたんですか。
こだま うーん。もう言っちゃってもいいかなあ。作り方に関しては、かなりの枷をはめました。言ってみれば原作はセクハラ部分は多いし、拳銃は撃つし、人は死にますし。それをどうすれば、明るく楽しく見せられるだろうか。それで原作のコマの外にあるギャグ的なものまでも、映像に取り込むようにしました。
—— コマの外というのは?
こだま 例えば原作で、僚が自分で手を撃った後に、コマの外で「いてててて、いてぇよぉ」とか言っているギャグみたいなものが、ちょこっと書いてあったりするんですよ。そういうものも全部映像の中に取り込む。本当は面白いキャラクターなんだという部分を、見せていくようにしました。シリアスだけでは、多分、もたないだろうと思いましたし、そういうギャグ的な要素があった方がキャラクターが活きる。ギャグをやる人間がシリアスな事をやる。ギャグとシリアスの差が出れば出るほど、逆に魅力的になるんじゃないかなと思いましたしね。


 『CITY HUNTER』の原作はハードな路線で始まり、コメディ寄りになっていった。アニメ化がスタートした時点で、連載中の原作にはギャグは沢山あったはずだ。アニメで、原作にある細かいコミカルな部分を拾ったというのは一例であり、要するに、意識的に明るいタッチで押していったという事だろう。
 そして、こだま監督の話は、視聴率的に高い数字を求められていた作品だったので、女性ファンを取り込む必要があると考えた。女性の視聴者を意識して、アニメ『CITY HUNTER』の基本を考えたと、続いた。


—— さっきおっしゃった、枷というのは?
こだま 最初に考えたのは、中年目線を全部やめようという事でした。女性というのは敏感ですから、そういうものがひとつでもあったら、作品を拒否するだろうというのがありました。スカートがなびいた時に、アニメーターがちらりと下着が見えるように描いてしまう事がありますけど、そういうのはフィルムになった段階でカットして、作り直しました。その代わり、シャワーシーン等で裸を見せる時にはちゃんと見せます。そういう割りきり方をして作りました。シナリオの段階でも、セクハラであるとか、そういうものを表現してあるのは全部カット。で、主役の僚は、何か悪い事をしたら必ず罰を受けると。女性蔑視が感じられるシーンは可能な限りカットしたり、他に変更して作りました。


 アニメ『CITY HUNTER』で表現をやわらげていたのは、TV局による自主規制ではなく、こだま監督の判断だったのだ。「TV局の制約は、そういう意味では感じた事はありませんでした」と彼は語っていた(さすがに、モッコリの処理については、プロデューサーも絡んでいるはずだが)。彼は「絶対にやってはいけない事」を箇条書きにしてもって歩いていたそうだ。
 合点のいく話だった。過激なところのある原作を、TVという媒体にフィットさせるために、ややソフトに、より明るいタッチにしたのだ。明るいタッチになっているのは、僚を演じた神谷明の存在も大きい。こだま監督の持ち味も絡んでいるはずだ。そして、そういった作りにしたから、『CITY HUNTER』はメジャーな番組となり、長寿シリーズになったのだろう。
 ただ、こうして文章にすると、まるで原作を大きく改変しているようだが、微妙な匙加減の問題だ。むしろ、アニメ『CITY HUNTER』を、原作に忠実に映像化した作品だと捉えているファンの方が多かったかもしれない。
 原作終盤は、かつての僚の相棒だったミック、僚の育ての親で、麻薬組織の長老である海原神が登場し、ヘビーな展開になる。僕の思い違いでなければ、アニメで『CITY HUNTER 3』や『CITY HUNTER '91』を放映している頃に、そのあたりが連載されていたはずだ。事実上のクライマックスだと思うが、『CITY HUNTER '91』終了後も、TVスペシャル等が作られているにも関わらず、その部分はアニメ化されていない。それは、よりハードな展開が、アニメ版のタッチに合わなかったためでもあるのだろう。連載で海原とのあたりを読んで「アニメ版はライトな作りになっているから、この話はやれないだろうなあ」と思ったのを覚えている。

第356回へつづく

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(10.04.26)