アニメ様365日[小黒祐一郎]

第354回 『CITY HUNTER』

 『CITY HUNTER』の原作は、「週刊少年ジャンプ」に連載されていた北条司の同名マンガで、ジャンルとしては、ハードボイルドアクションだ。主人公は、悪党達を片づけるスイーパーの冴羽僚。彼の名前は、左部分が獣偏が正しいのだが、ネットでは正しく表示されない場合があるようなので、この連載では「僚」と表記する。いきなり話が脇道に入るが、アニメ雑誌の仕事では、タイトルや人名の正しい表記を心掛けなくてはいけない。僕も、自然とそういった事を気にするようになった。『CITY HUNTER』で言えば、僚の文字は間違いやすいポイントだったし、事実、よく間違えていた。カタカタでタイトルを表記する時に『シティハンター』と誤記してしまいそうになる事もあった。正しくは「シティ」の後に音引きが入って『シティーハンター』だ。さらに脇道に入ると、当時の原稿はまだ手描きが主流だったので、今のように間違えやすい語句を登録しておく、なんて技は使えなかった。
 冴羽僚は銃の腕前は天才的だが、無類の女好きであり、ニックネームは「新宿の種馬」。パートナーの槇村香は、ボーイッシュな女性であり、僚とは凸凹コンビだ。毎回、美女が依頼人として2人の前に現れ、それを解決していくのが、物語の基本フォーマットだった。TVアニメの放映が始まったのが、1987年4月6日。その後、『CITY HUNTER 2』『CITY HUNTER 3』『CITY HUNTER '91』と続編シリーズが3本、劇場版やTVスペシャルも作られている。後に『名探偵コナン』や『犬夜叉』等を手がける、よみうりテレビの諏訪道彦プロデューサーが初めて立ち上げた企画であり、僕のアニメ史観では、日本テレビ&よみうりテレビの「クライムアニメ」の1本となる。
 スタッフ的には、監督がこだま兼嗣、キャラクターデザインが神村幸子、総作画監督が北原健雄と、『ルパン三世[新]』『CAT'S EYE』といった東京ムービー新社の「クライムアニメ」を手がけてきたメンバーがメインを固めていた。しかし、制作会社は日本サンライズ(放映中にサンライズに改名)だった。第352回「『ダーティペア(劇場版)』と『バツ&テリー』」でも話題にしたように、『CITY HUNTER』は日本サンライズが初めて手がけた、マンガ原作のTVシリーズだったのだ。
 放映開始前に不思議に思ったのは「どうしてサンライズ作品なのに、メインスタッフが、このメンバーなんだ?」という事だった。それは制作準備段階のある事情のためだったようだが、いまだに、公式にはその事情が語られた事がないはずだ。放映開始時には、色々と不満を感じた。まず、原作で印象的だった僚の「もっこり」がアニメ版にはなかった。もっこりというのは、男性のアレが勃起した状態の事であり、原作では、女性の色っぽい姿を見たときになどに、僚のズボンやトランクスが立派に膨らんでいる様子が頻繁に描かれていた。アニメでは、僚が「もっこり!」というセリフを連発はしていたが、ズボンの前が膨らんでいる描写はなかったのだ。
 それから、全体に野暮ったいと思った。ドラマとしては、ハードさが薄まっていた。映像的にも垢抜けない感じだった。『CITY HUNTER』の初期エピソードよりも、同じ北条司原作、こだま兼嗣チーフディレクターの『CAT'S EYE[第2期]』の方が演出的、ビジュアル的に洗練されていた印象だ。必ずしも、制作が日本サンライズだから野暮ったかった、というわけではないのだろうが、作り手が慣れないタイプの作品をやっているようには感じていた。
 放映開始時にアニメージュの「TVアニメーションワールド」で、僕、データ原口、マンガ家ののつぎめいるの3人が、春の新番組についての座談会をやっている。タイトルは「新人類あにめ診断 春の新番総チェック」だ(1987年6月号・vol.108)。新人類というくくりが、今となってはくすぐったい。その記事を読み返してみたら、僕は「『CAT'S EYE』プラス『ルパン』っていうラインを狙ってるんだろうね。そのせいかムービー系のスタッフがメインに多くそろえられてるのに、サンライズカラーがにじみでている(笑)」と発言している。座談会中に「野暮ったい」とは言っていないが、当時の僕は、野暮ったくなっているのを、サンライズがこういったジャンルに慣れてないためだと決めつけていたのだろう。しかし、若造のくせに、言い方が偉そうだなあ。
 初期に感じた野暮ったさについては、作る側が慣れたのか、放映が進むうちに、気にならなくなっていった。ハードさが薄まった事については、後に「この人に話を聞きたい」で、こだま監督に話をうかがって納得した(2006年11月号・vol.341に掲載された第91回だ)。こだま監督は「うーん。もう言っちゃってもいいかなあ」と前置きしてから、語りはじめた。その内容というのは……それについては、次回で!

第355回へつづく

CITY HUNTER Vol.1 [DVD]

カラー/122分/スタンダード
価格/4200円(税込)
発売元/ソニー・ピクチャーズエンタテイメント 
販売元/アニプレックス
[Amazon]

(10.04.23)