アニメ様365日[小黒祐一郎]

第358回 『CITY HUNTER』の傑作

 僕が『CITY HUNTER』シリーズで、一番思い入れがあるのが『CITY HUNTER 2』の49話「さらばハードボイルド・シティー(前編)」(脚本/平野靖士、絵コンテ・演出/加瀬充子、作画監督/本橋秀之)、50話「同(後編)」(脚本/平野靖士、絵コンテ/山崎和男、演出/藤本義孝、作画監督/谷口守泰)の前後編だ。今回の敵は、東京に原子爆弾を仕掛けたテロリスト集団ブラックアーミー。香は、彼らによって洗脳され、敵に回ってしまう。僚と香の対決、作動を始めた原子爆弾の解体が、後編のクライマックスとなる。これが猛烈に盛り上がる。
 僚は、香を正気に返そうとするが、彼女は僚に銃を向ける。僚は反撃しない。傷つきながらも香に近づいていく。「お前が元に戻らないのなら、生きていてもしょうがない」と言って、あえて撃たれようとするのだ。香との熱い口づけもある。そして、僚は、銃を撃つ事で原子爆弾を解体する。どう考えてもムチャクチャなのだが、そのムチャクチャさがいい。クライマックスでは2曲の挿入歌が流れる。1曲目は僚のセリフ入りだ。もう一度言うけど、セリフ入りの挿入歌だ。目がくらむくらいにダサい選曲なのだけど、そのダサさがいい。ダサかっこいいのだ。2曲目の挿入歌は初代エンディング曲の「Get Wild」だ。僚と香が口づけをしたところで、イントロが始まり、銃で爆弾を解体する間、流れ続ける。こちらの選曲は完璧だ。作画監督の谷口守泰は、得意のハードなタッチのキャラクターを描いており、そのタッチが、物語をさらに盛り上げていた。まさしく「ハードボイルド・シティーハンター」。タイトルに偽りなしだ。
 これ以上はないくらいに盛り上がるし、香に対する僚の気持ちを描ききっているのもいい。「お前が元に戻らないのなら……」のあたりは、本放映で感動した。『CITY HUNTER』で涙腺がゆるくなるとは思わなかった。また、記憶を失った香の葛藤が、彼女が僚に対して素直になれない事を表現しているように感じられて、それもいい。僚が最後の銃弾を原子爆弾に向けて放った瞬間に、亡くなった槇村のイメージが浮かぶ。槇村はかつての僚の相棒であり、香の兄だ。最終回気分が高まる。一件落着した後の雰囲気の出し方も、どう考えても最終回のものだ。そもそもサブタイトルからして、最終回的なものだ。しかし、この前後編の後も『CITY HUNTER 2』は続いている。
 第355回「『CITY HUNTER』続き」でも引用した「この人に話を聞きたい」の記事で、こだま兼嗣監督は「辛かったのは、しょっちゅう最終回があった事でした(笑)」と語っている。人気番組だったため、『CITY HUNTER』は何度も放映が延長されている。最終回のつもりのエピソードを作っても、その後で延長が決まってしまい、続きを作る事になってしまう。「さらばハードボイルド・シティー」前後編も、最終回として予定されていたエピソードだったのだろう。
 もうひとつ、「さらばハードボイルド・シティー」前後編で感心した点がある。洗脳された香は、金髪のカツラをかぶり、セイラという名前を名乗っていた。『CITY HUNTER 2』後半のオープニング主題歌が、FENCE OF DEFENSEの「セイラ」。セイラという女性に語りかける歌詞だった。毎週、セイラってどんな女性なんだと思いながら主題歌を聴いていたら、この話で、セイラとは香の事だと示される。つまり、香に向かって語りかける歌だった事が分かったわけだ。それに気づいた時に「やられた!」と思った。
 『CITY HUNTER』シリーズの中で「さらばハードボイルド・シティー」は、珍しくこってりしたエピソードだ。僕はこのくらいこってりした話が好きだ。

第359回へつづく

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(10.04.30)