第360回 雑誌を見る目が変わった
前回(第359回 原稿を書きはじめた頃)の続きだ。アニメージュの仕事を始めてしばらく経ってから、雑誌を見る目が変わった。特に感心したのが、映画の上映スケジュール等を掲載している「ぴあ」の原稿だった。僕は中学の頃から、この雑誌を愛読していたが、ある日、「『ぴあ』って、凄いじゃん!」と驚いた。
例えば、映画を紹介するための短い解説原稿を読んで、猛烈に巧いと思った。少ない文章量で、簡潔に情報をまとめていた。その情報も、単純に粗筋やデータを圧縮したものではなく、書き手の評価や好み、お勧めポイントを織り交ぜていた。さらに言えば、そういった原稿が、「ぴあ」という雑誌が読者に提供している価値観を表現しているように感じられた。それで「『ぴあ』って、凄いじゃん!」と思ったわけだ。
一番驚いたのが「ぴあ」だったが、他の雑誌を読んでも、原稿や記事の組み立てに感心したり、がっかりしたりするようになった。元々、雑誌を読むのは好きだったのだけれど、自分が雑誌作りに参加するようになって、個々の雑誌がまるで違って見えるようになった。それまで、考えなく読んでいた記事に、書き手のテクニックや、狙いが分かるようになったのだ。そんなふうに、ものの見え方が変わるのは、面白い体験だった。
当時のアニメージュでは、ページ構成もライターがやっていた。要するに、どんなかたちでタイトルを立てて、写真を選んでどう配置するか、どこにネームを入れるか、といったプランをラフに書く作業だ。ページ構成も、最初は悩まずにサクサクと上げていた。考えるよりも先に手を動かしていた。何をどう載せたいかという事に関して、揺らぎがなかったからだろう。それがしばらくして、悩むようになった。
コラムや1ページの記事では、ページ構成で悩む事はなかったけれど、見開き以上の記事になると、猛烈に悩んだ。悩むようになったのは、より凝った見せ方、より効果的な見せ方をしたいと思うようになったからだ。当時の僕は、間違いなく原稿を書いている時間よりも、ページ構成をやっている時間の方が長かった。
ページ構成について、鈴木敏夫編集長からアドバイスをしてもらった事がある。そのアドバイスとは「色んな雑誌を見て、自分がいいと思った記事をスクラップしておくといい」というものだった。そうやってページ構成の引き出しを増やしていく。敏夫さんも、同じような事をやっていた時期があったのだそうだ。アドバイスをしてもらった後、過去のアニメージュの記事や、他のアニメ誌の記事をチェックした。切り取ってスクラップするのは雑誌がもったいないので、気になった記事をコピーして、ファイルしていった。それらを参考にする事で、ページ構成で悩む時間が、ほんの少しだけ短くなった。
ページ構成と言えば、NEWTYPEのムックで、写真の並べ方が非常にかっこいいページがあり、写真の配置や空白スペースの活かし方を、そっくりそのまま真似てみた事があった。ライターの仕事を始めて4年くらい経った頃の事だ。しかし、元にしたムックのデザインのシャープさは再現できなかった。どうして同じにならなかったのか、当時は分からなかった。その理由が分かるのは、さらにその数年後、自分がNEWTYPEで仕事をするようになってからだった。
とにかく一所懸命に仕事をしていた。
第361回へつづく
(10.05.07)