第361回 『きまぐれ オレンジ☆ロード』
今回から『きまぐれ オレンジ☆ロード』について触れる事にする。当時、僕はアニメージュで何度かこの作品について原稿を書いているのだけれど、今回もそれらは読み返さないで原稿を書く。読み返すと考えすぎて、書けなくなるような気がするからだ。だから、当時の発言と今回の原稿は、食い違いがあるかもしれない。
TVシリーズ『きまぐれ オレンジ☆ロード』は、まつもと泉の同名マンガを映像化したラブコメディだ。原作は「週刊少年ジャンプ」に連載されており、本作は、当時次々に世に出ていたジャンプアニメのひとつ。放映されたのは1987年4月6日から1988年3月7日。全48話。日本テレビ系列で、枠は月曜19時半から。同じく19時からは『CITY HUNTER』を放映しており、ジャンプアニメ2本立てとなっていた。
主人公の春日恭介(声/古谷徹)は超能力一家の長男で、自分の能力を隠して生活している。性格は自他共に認める優柔不断だ。彼が好意を持っているのは、元不良でクールな同級生の鮎川まどか(鶴ひろみ)で、彼にベタ惚れなのが、明るくて元気な下級生の檜山ひかる(原えりこ)。恭介とまどかは友達以上恋人直前の関係を続けており、ひかるはそれを知らない。恭介は、自分が超能力者である事と、まどかとの関係を隠している。
他の主要登場人物は、恭介の妹である双子のまなみ(富沢美智恵)、くるみ(本多知恵子)、恭介の悪友である小松(難波圭一)、八田(龍田直樹)、ひかるに憧れている下級生で、空手や柔道をやっている火野勇作(菊池正美)。恭介の従姉妹の幼稚園児で、やはり超能力者の一弥(坂本千夏)といった顔ぶれだ。
原作はいかにも1980年代的な、ライトな作品だった。その原作を大きく改変したわけではないけれど、アニメ版はぐっと渋い作りになった。演出的には、派手な表現を極力抑え、カメラワークもリアル寄り。キャラクターや美術の色遣いも、ラブコメとは思えないくらい落ち着いたものだった。主人公の立ち位置や、話の組み立ては享楽的なものだが、演出が心地よい方向に流れ過ぎないように、抑制している感じだった。
アニメ版のポイントになっていたのが、恭介のナレーションだった。原作でもモノローグが多用されているのだが、アニメ版でも彼の内面を語るセリフが多く、原作よりもはるかに饒舌だ。アニメ版では、その場の気持ちを語っているだけでなく、「その時、僕は……」と、後になって過去を振り返ってコメントしている体のものもあり、ナレーション的なセリフでもあった(以降、この連載では、恭介が内面を語るセリフを「ナレーション」と表記する)。
恭介のナレーションは「しかし……なわけで……」といったスカッとしない言い回しが多く、恭介の逡巡を表現する傾向が強かった印象だ。その言い回しは、当時、ドラマの「北の国から」的だと言われていた。確かに似ていた。ナレーション時には画面が静止し、黒い縁取りが入れるのがパターンだった。そういったナレーションの積み重ねが、恭介を内省的なキャラクターに変え、悩みながら日々を送っている事を強調した。また、古谷徹の芝居のナイーブな感じも効果的だった。
恭介のナレーションに関しては、単純にウザいと思った視聴者もいた事だろう。ではあるが、それがドラマに深みを与えていた。彼の内省的なキャラクター、落ちついた語り口、それから若さゆえのモヤモヤした感情を描いた事から、TV『オレンジ☆ロード』は、原作よりも、青春ものの色が濃い作品となった。「青春もの」と「若さゆえのモヤモヤ」については、また改めて触れたい。
メインスタッフは、監督が小林治、シリーズ構成が寺田憲史、キャラクターデザインが高田明美、総作画監督が後藤真砂子。オープニングとエンディング、そして、最終回の演出として望月智充が参加。制作スタジオは、スタジオぴえろ(現・ぴえろ)。シリーズ構成を除けば『魔法の天使 クリィミーマミ』のメンバーだ。
作劇に関しては、寺田憲史のカラーが強いと思われる。演出スタイルは『クリィミーマミ』の延長線上にあるもので、より完成度があがっている。僕のアニメ史観では「1980年代の生活感を重視したアニメ」の最後の作品になる。この後、アニメファンを対象にしたタイトルで、生活感を強調していくタイプの作品は、しばらくの間、アニメの歴史から姿を消してしまう。
また、ジャンル的な事で言えば、『うる星やつら』に始まった1980年代ラブコメアニメ末期の作品となる。1989年に『らんま1/2』が始まっており(ラブコメとは呼べないかもしれないが、ラブコメ的な作品『YAWARA! a fashionable judo girl!』も、1989年に始まっている)、厳密に言えば1980年代最後のラブコメアニメではないのだが、ここでひとつの時代が終わった感覚がある。これはあくまで、僕の印象の話だが。
第362回へつづく
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(10.05.10)