第362回 イベント版『きまぐれ オレンジ☆ロード』
TVシリーズの内容について具体的に触れる前に、イベント版『きまぐれ オレンジ☆ロード』を取り上げておこう。これは30分ほどの短編で「ジャンプ・スペシャル・アニメ大行進」のために制作されたもの。1985年の作品だから、TVシリーズの2年前に作られた事になる。「ぴえろ魔法少女もの」としては『魔法のスター マジカルエミ』放映中の作品だろうか。DVDソフトにはなっていないが、VHSソフトにはなっており、ビデオで観たファンも多いだろう。僕も当時観ている。
原作単行本6巻の「スノー・スケッチ!の巻」「ロマンチック・ナイト!の巻」「雪夜のふたり!の巻」を、雪山旅行を沖縄旅行に置き換えて映像化している。原作途中の話ではあるが、赤い麦わら帽子をきっかけにした恭介とまどかの出会いが、終盤に回想として描かれた。
スタッフは監督が望月智充、脚本が伊藤和典、キャラクターデザインが高田明美、作画監督が後藤真砂子。監修とレイアウトの役職で小林治がクレジットされている。TVシリーズには未参加の伊藤和典がいる上に、恭介役が水島裕、まどかを演じたのが島津冴子で、無闇に『クリィミーマミ』度数が高い。これで、美術が小林七郎で、ひかるを太田貴子がやっていたら、完璧だった。主題歌を『マジカルエミ』でもテーマソングを担当した山川恵津子が担当。「ぴえろ魔法少女もの」の主題歌と言われても、納得してしまいそうな歌だ。
キャラクターの色遣いが落ちついたものであり、カット割りに望月演出らしいトリッキーさがあった以外は、ごく普通のアニメ化だった。イメージシーンで、恭介やまどかがデフォルメキャラになったり、別シーンで、恭介が驚いた時に、背後で派手な爆発が起きたり、洪水が押し寄せてきたり、TVシリーズ『オレンジ☆ロード』ではやりそうもない描写があった。恭介のキャラクターに関しても、TVシリーズの繊細さはない。もっと男らしい感じだ。まどかのキャラクターも柔らかい。イベント版の彼女は、不良を叩きのめしたりはしそうもない。
キャラクターの性格だけでなく、全体の雰囲気もソフトだ。TVシリーズの後で観返すと、ヌルいと感じるくらいだが、初見時には、イベント版『オレンジ☆ロード』をよくできたアニメ化だと思った。特に不満はなかった。むしろ、その後、TVシリーズの1話を観て、あまりにも作りが渋いので驚く事になる。
望月智充は、TVシリーズの後に、劇場版『きまぐれ オレンジ☆ロード あの日にかえりたい』を手がけている。TVシリーズへの参加は少ないが、初のアニメ化作品だったイベント版と『あの日にかえりたい』を手がけた彼は、僕にとって「アニメ『オレンジ☆ロード』を始めて、終わらせた人」でもある。完結編かと思われた『あの日にかえりたい』の後にも新作は作られるのだけれど、一度あそこで終わっているのは間違いない。
第363回へつづく
(10.05.11)