第379回 『ミスター味っ子』
『ミスター味っ子』は、1987年10月にスタートしたTVシリーズ。寺沢大介原作の同名料理マンガを原作とした作品で、制作プロダクションはサンライズだ。監督は、当時まだ20代半ばだった今川泰宏。『聖戦士ダンバイン』『ブロゴルファー猿』などで各話演出として活躍し、この後、『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』や『機動武闘伝Gガンダム』等を手がける彼の初監督作品であり、代表作だ。
サンライズとしては『バツ&テリー』や『CITY HUNTER』に続くマンガ原作作品だった。放映が始まる前は、僕の周りでは、サンライズが料理マンガをアニメ化するという事で話題になった。『バツ&テリー』や『CITY HUNTER』は、アクション要素があるから、まだサンライズが作るのも理解ができる。だけど、どうしてサンライズが料理ものなんかやるんだ、そんなのはサンライズらしくないぞ、と思ったわけだ。ところが、ふたを開けてみたら、実にサンライズらしい作品だった。
1話からして、とんでもなかった。1話で主人公の陽一が作った料理は、カツ丼だった。味皇と呼ばれる老人が、そのカツ丼のフタをとった途端に、目もくらむばかりの光が丼からあふれ出した。ロボットアニメのビームのような派手な光が、丼から四方に放たれたのだ。ギャグではない。どちらかと言えばまじめなドラマで、カツ丼が光ったのだ。これが面白かった。周りの皆が「サンライズが作ると、カツ丼が透過光で光るのか!」と言って笑いつつ、感心した(実際には、その場面の光は塗りとブラシで表現されており、透過光は使われていないが、「料理の美味しさを表現する透過光を使うのが、メカもののサンライズらしい」という意味で「カツ丼に透過光」と言っていた)。
実際には、カツ丼が光ったから面白かったわけではない。料理勝負を、アクションアニメ的なノリで、テンションの高いドラマに仕立てているのが面白かったのだ。テンションの高い演出で、一番際立った部分が光るカツ丼だった。しかも、シリーズ全体から見れば、1話ではそんなに派手は事はやっていない。放映が続くにつれて、ドラマも演出もどんどんグレードアップしていった。最初は「サンライズらしい料理アニメ」だと思っていたが、かつてなかったタイプの作品に進化していった。途中からは、サンライズらしいかどうかなんて気にならなくなっていった。むしろ、それまでのサンライズ作品よりも派手になっていったくらいだ。それについては、次回以降で詳しく触れることにする。
登場人物を紹介しておこう。タイトルになっている「ミスター味っ子」とは、主人公である少年料理人の味吉陽一(声/高山みなみ)のニックネームだ。彼は中学生ながら、母親の法子(横尾まり)と2人で、亡き父が残した日之出食堂を切り盛りしている。陽一は、天才的な料理の腕とたゆまぬ努力で、次々と新しい料理を生み出し、料理勝負を勝ち抜いていく。
彼のライバルは“カレーの天才”堺一馬(鈴木みえ[現・一龍斎貞友])、“肉料理の天才”小西和也(鈴置洋孝)、“どんぶり兄弟”太郎と次郎(松井菜桜子)。あるいは、興奮すると頭が爆発するラーメン屋の甲山(笹岡繁蔵)、怪人オカダコゲロゲロに変身するお好み焼き屋の岡田(緒方賢一)、ウィーン少年料理団に瀬戸内少年料理団など、個性的な連中ばかり。劇中でそう呼ばれた事はないはずだが、僕はアニメージュの記事などで、彼らの事を“ヘンタイ料理人”と呼んでいた。
他の主要登場人物は、陽一の幼馴染みで同じ中学に通っている山岡みつ子(川浪葉子)、その弟のしげる(ならはしみき)。ふつうに考えると、みつ子がヒロインになるところだが、若くて美人の法子のほうが、ヒロイン的に扱われていた印象だ。そして、最初に陽一と対決した料理人であり、後に陽一の面倒をみることになるイタリア料理を専門とする丸井善男(飯塚昭三)。彼は「丸井のおっちゃん」と呼ばれていた。
忘れてはいけないのが、さっきも名前が出た、味皇料理会の味皇(藤本譲)だ。1話のナレーションによれば「日本料理界の至宝。全料理人を率いる総帥」であり、「長く日本料理界のドンとして君臨し、味に対して決して妥協を許さない男」だ。その芝居がかった言動も印象に残るものだったが、何よりもインパクトがあったのが、彼が旨い料理を食べたときのリアクションだった。「うまいぞー」と叫んで口から火を吐き、海の上を走り、巨大化する。本作では他のキャラクターも派手なリアクションを見せるのだが、味皇のリアクションの派手さは断トツ。本作最大の見どころとなっていた。今になって思えば、ヘンタイ料理人や味皇は、『ジャイアントロボ』の十傑集、『Gガンダム』の東方不敗に代表される今川キャラのルーツだ。
第380回へつづく
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(10.06.03)