アニメ様365日[小黒祐一郎]

第394回 業界からの反応

 僕が、なかむらたかしの仕事についてネガティブな事を書いたのは、アニメージュ1987年4月号(vol.104)。アニワルの「新人類あにめ診断」という企画で、4人の書き手が放映中のTVアニメについてコラムを書くというものだった。僕は2本の原稿を書いていて、そのうちの1本が『ドテラマン』17話「インチ鬼小僧とドテラじいさん」についての原稿だった。コラムのタイトルは「ありゃ、思わず期待はずれ。なかむらたかしのドテラマン!」だ。うーむ、振り返ってみると、あんまりにもあんまりなタイトルだ。
 原稿は、以下のように内容だった。なかむらたかしが『ドテラマン』に参加した。彼がTVアニメをやるのは『未来警察ウラシマン』以来だ。僕はなかむらたかしの“動き”のファンであり、彼の参加に期待した。彼は2回参加したのだけれど、2回とも並の出来だった。それが残念だった。作り手にだって何か事情があったかもしれないし、常にベストの仕事をしろなんて言えないけれど、僕個人としては、残念だった。もう『ドテラマン』の放映は終わってしまう。この欲求不満を、なかむらさんが次回作『ロボットカーニバル』で解消してくれる事に期待だ。といった事を、ネチネチとした感じで書いている(本当にネチネチと書いている)。
 悪口を書きたかったわけではなかった。僕は、本当になかむらたかしの『ドテラマン』に期待して、期待が外れてがっかりした。その気持ちをそのままコラムに書いてしまった。22歳の若者らしい躊躇のなさだ。がっかりした時には「がっかりした」と書いてしまうのが、作品やクリエイターに対して、むしろ誠実だと思っていたのだろう。今なら、同じ事を書くにしても、もっと上手に書けるはずだ。「常にベストの仕事をしろなんて言えない」などと、予防線を張ったおかげで、なんとか商業誌に載せられる原稿になっている(いや、なってないかも)。
 事件はそのアニメージュが発売されてから、数ヶ月経った頃に起きた。『ロボットカーニバル』の記事で、なかむらたかしに取材した時だ。彼に「小黒君、僕がやった『ドテラマン』について、アニメージュで書いたでしょ。大友さんに教えてもらったよ」と言われてしまった。つまり、大友克洋が、アニメージュの僕のコラムを目にして、それをなかむらさんにわざわざ教えたという事らしい。
 原稿を書く段階で、なかむらさん自身の目に触れるのは覚悟していた。むしろ彼へのラブコールのつもりもあった。だけど、面と向かって「読んだよ」と言われるとは思わなかった。しかも、大友さんが教えた? 実際には、スタジオで「こんな事を書かれているよ」と言って手渡したくらいの軽いやりとりだったのだろうけど、天下の大友克洋となかむらたかしが、自分の原稿について話をしたと知って、何やらオオゴトになってしまってるぞ、と思って焦った。
 説明しておくと、当時のアニメージュは業界誌的なところがあり、他の大物監督達も、よく記事を読んでいた。とある監督が全ページを隅から隅まで読んでいるという噂話を聞いた事もある。さらに余談になるが、当時からアニメージュにはビデオ評のページがあった。そのコーナーに僕は一度も関わった事はないけれど、現場スタッフから、辛口の評に対する苦情をぶつけられた事が数度ある。
 なかむらさんは怒ってはいなかった。『ドテラマン』は他の大きな作品の合間にやった仕事だった。だから、あまり動かしてない。小黒君が書いたとおりだよ。苦笑してそう言われた。その時に自分がどう応えたかは覚えていない。すいませんでした、とか言ったのではないかと思う。とにかく恐縮した。
 「がっかりした」と書いた事については反省しなかったけれど、もっと違った書き方があったのかもしれないなあ、とは思った。雑誌で原稿を書くという行為には、責任が生じる——頭では分かっていたけれど、それを身を以て理解した。そんな一件だった。

第395回へつづく

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(10.06.24)