アニメ様365日[小黒祐一郎]

第92回 なかむらたかし

 金田伊功に続いて、僕が熱中したアニメーターが、なかむらたかしだった。前回書いたように『Gライタン』に感動し、そこから彼の仕事を追いかけ始めた。金田伊功の時と同じように(第60回 スタジオZと金田伊功)、昔からアニメのスタッフクレジットをメモしている知人にリストをもらい、過去の作品をチェックした。『とんでも戦士ムテキング』で、お馴染みの岩石崩しを発見した時は、嬉しかった。ただ、金田伊功に比べると、なかむらたかしが参加した作品は、なぜか再放映される機会が少なかった。『まんが日本絵巻』を観る事ができたのは、今世紀になってからだ。『ザ☆ウルトラマン』の彼の仕事も、昨年DVD BOXがリリースされて、ようやく確認できた(「アニメ様の七転八倒」第99回 『ザ☆ウルトラマン』と『宇宙戦艦ヤマト』の関係)。
 確か『Gライタン』は本放映終了後、すぐに再放映があった。その再放映で、なかむらたかし回を全部チェックした。ビデオテープの背に「なかむらたかし」と書いたラベルを貼り、そのテープに『Gライタン』を録画した。1983年に公開された劇場作品『幻魔大戦』で、僕の中のなかむらたかしブームは、ピークを迎える。彼はこの映画で、新宿とニューヨークの原画を担当。特に新宿のシーンは素晴らしい仕上がりで、これも鼻血が出そうになるくらい興奮した。それと前後して、彼がキャラクターデザインを務めたTVシリーズ『未来警察ウラシマン』が放映開始。作画以外の部分も楽しめるシリーズだったが、彼の作画参加回が少なかったのが残念だった。
 その後、彼は、アニメーターとして『Manie-Manie 迷宮物語』『ロボットカーニバル』『AKIRA』等に参加。近年では、監督としての活動がメインとなり、『パルムの樹』『ファンタジックチルドレン』といった作品を残している。現在は、雑誌にマンガ「キングアビス」を連載中だ(アニメスタイルが出した単行本「TWILIGHT」もお勧めです)。彼は常に意欲的な仕事をしているのだが、やはり『Gライタン』や『幻魔大戦』の頃の仕事が一番好きだ。
 どうして彼の作画が好きだったかというと、驚くほどよく動き、その動きに快楽があり、リアルだったからだ。フルアニメ的に枚数をたっぷり使っているのだが、単に枚数が多いから快楽が生じているのではない。彼ならではのタイミングやケレン味があったからこそ、あれだけの快感が生まれていたのだろう。アクションの組み立てや構図で、空間を表現しているのも心地よかった。これも単にリアルに空間を描いていたからではなく、その空間がデフォルメされている事が、快感に繋がっていたのだろう。『Gライタン』の「大魔神の涙」で、ゲストキャラクターのチトが魔神像の手の平を走るカットが、その代表的なものだ。
 さっきも少し触れたが、彼の仕事に関してなら、岩石崩しを忘れるわけにはいかない。岩石や地面が割れ、崩れていく様子を、破片のひとつひとつまで克明に描くのだ。勿論、そのアクションには枚数がたっぷりと使われている。それは動きの見せ場にもなっており、当時、彼は「岩石アニメーター」などと呼ばれていた。絵コンテで、岩を崩す事が指示されていないのに、作画のアドリブで崩した事も多かったのではないかと思う。
 繰り返しになるが、彼の作画はリアルでありつつ、快楽があった。リアルという意味でも、快楽の強さに関しても、他のアニメとは別格だと思った。「これが本物のアニメだ」とすら思った。今観ると、少なくとも、実写をトレースしたようなギチギチのリアルではない事が分かる。誇張が入ったアニメーションだ。ではあるけれど、今観ても「リアルだ!」と思う。その秘密は、まだ解明できていない。

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アニメの作画を語ろう animator interview なかむらたかし

第93回へつづく

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(09.03.25)