アニメ様365日[小黒祐一郎]

第398回 『ロボットカーニバル』の各作品(2) 森本晃司の「フランケンの歯車」と大森英敏の「DEPRIVE」

 OPENINGに続く、2本目の作品が森本晃司監督の「フランケンの歯車」だ。場所は研究所。登場するのはマッドサイエンティストの老人と一体のロボットのみ。作品中でははっきりと語られていないが、老人はそのロボットを使って、世界征服をするつもりだ。老人はできあがったロボットを起動させる。横たわっていたロボットがゆっくり立ち上がる。老人は大喜びする。一応、オチはつくのだが、基本的には「横たわっていたロボットが立ち上がるだけ」の作品である。それでは単調で地味なフィルムかというと、そんな事はない。画面内で、過剰に事物が動きまわる作品だ。
 オーバーアクションで芝居する老人、カタカタと揺れながら立ち上がるロボット、迸るスパーク、壊れる機器、引きちぎれていくコード、ゆったりと宙を舞う部品。画面構成や描き込みは緻密であり、しかし、ダイナミックに動きまくっている。密室を舞台にしてはいるが、大変に動的なフィルムだ。緻密さとフルアニメ的な動きは、大友克洋的であり、なかむらたかし的。それを物真似ではなく、自分のものとして形にしている。森本晃司ならではのマニアックなフォルムも素晴らしく、アニメーションとしてかなりイケていた。
 マニアックといえば「横たわっていたロボットが立ち上がるだけ」の内容を、映像のパワーで1本の作品に仕上げているのが、そもそもマニアック。その作りを「作家的な作品だ」と言い換える事もできるだろう。森本晃司の「描きたい気持ち」が、画面に漲っている。彼は、この後、『MEMORIES』『デジタルジュース』『ANIMATRIX』『Genius Party』等のオムニバス作品で、短編を発表し続けるのだが、「フランケンの歯車」が最もシンブルであり、分かりやすい。「フランケンの歯車」はアニメーター的な「動かしたい」という欲求で作ったもので、後の作品はもっと映像作家寄りになっているのだろう。
 3本目の作品が大森英敏監督の「DEPRIVE」だ。この作品の概略については「メモリー オブ ロボット・カーニバル」で自分が書いた原稿を引用する(誤字は修正した)。


 『新造人間キャシャーン』『破裏拳ポリマー』等の往年のタツノコ作品を彷彿させる、肉弾アクション主体の、正統派のヒーローアニメである。作業用ロボットだったツ・ムジは、捕らわれた少女を奪い返すため自らを戦闘用ロボットへと改造し、悪の本拠地に挑む。アメコミ風の敵のボス、カムラ・トルーのデザインは大森英敏の師匠にあたる湖川友謙が担当。他のメカデザイン等も、一部、当時のビーボォーのメンバーが手伝っている。


 次がアニメージュの「いまだから話せる!? 『ロボットカーニバル』の裏のうら」の原稿だ。


 この作品は「キャシャーン」や「ポリマー」などのタツノコアクションアニメのファンだった大森さんが作った、大森版「キャシャーン」といっていい作品だ。画面的にはいま風のハデなものになっているが、ツメロボットそっくりの敵メカや主人公の肉弾アクションなど、かなりそれを感じさせる部分が多い。もちろん「見てスカっとする作品」を作るというのが狙いで、前半などもっと短くしてたたみかける感じにしたかったという。


 読み返すと「かなりそれを感じさせる部分」というのが変な表現だなあと思う。文字数ギリギリまで内容を詰め込もうとして、こんな書き方になってしまったのだろう。まあ、それはさておき、「DEPRIVE」は以上のような作品だった。往年のタツノコヒーロー物をリスペクトしたフィルムであり、キャラクターには、人気アニメーターだった大森英敏の持ち味も出ている。止め絵の使い方など、作り方にTVアニメ的なところがあり、ドラマ的にも「もう一押し欲しい」と思いはしたけれど、当時としてはタツノコヒーローへのリスペクトという狙い自体が新しかったし、オリジナルへの愛情も感じられた。アクションの見せ方もよかったし、充分に楽しめる作品だった。
 「メモリー オブ ロボット・カーニバル」で大森監督に聞いた話が、興味深いものだった。彼も、北久保弘之に声をかけられて参加する事になったのだが、その時に「今の段階ではマニアックなメンバーが多い」と言われたのだそうだ。つまり、業界的には評価されているアニメーターが集まっているが、彼らは一般的には知られていない。それで、アニメ雑誌を読んでいるようなファンに人気があるアニメーターに参加してもらおうという意図で、彼と北爪宏幸に声がかけられた。大森監督はアニメーターが、好きな作品を作るという『ロボットカーニバル』の企画に共感し、この作品は多くの人に観てもらって、受けなくてはいけないと考えた。だから、自分は要求された事に応えなくてはいけない。本当に描きたいものを描いてはいけない。アニメファンが大森英敏に期待するものからは外してはいけないのだ。そんな思いがあり、「DEPRIVE」を手がけた。
 ファンが望んでいる大森作品と、自分がやりたいもの。そのバランスをとって作ったのが「DEPRIVE」だった。タツノコヒーロー的なものも、やりたいタイプの作品ではあったが、一番やりたいタイプの作品は別にあった。だが、それは望まれている事とは違うと判断して、やらなかったのだそうだ。話は聞いてみないと分からない。まさしく「いまだから話せる!? 『ロボットカーニバル』の裏のうら」だった。このインタビューでは彼が自作についての手応え、作品についての感想なども語っている。それも、なるほどと思うものだった。DVDの解説書なので、気軽に勧めるわけにもいかないが、興味がある方は探して、読んでみるのもいいだろう。

第399回へつづく

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(10.06.30)