アニメ様365日[小黒祐一郎]

第416回 『トワイライトQ』 第1話「時の結び目」

 押井守と望月智充が、同じOVAシリーズを手がけているという噂は、そのタイトルの準備段階から聞いていた。僕に、噂話を聞かせてくれた業界のある人は「オリジナル作品だけど、タイトルを聞けばどんな内容なのか、誰でも分かる作品だ」と謎かけのような事を言っていた。その時には、どんな作品なのかまるで見当がつかなかったが、数ヶ月後にアニメ雑誌で『トワイライトQ』のタイトル見つけて、ああ、なるほど、これの事だったかと思った。

 確かに、タイトルを見てすぐに内容が分かった。アメリカのSFTVドラマ「The Twilight Zone」の「Twilight」と、国産のSFTVドラマ「ウルトラQ」の「Q」をかけあわせたタイトルだ。「The Twilight Zone」や「ウルトラQ」も、各話完結のシリーズであり、『トワイライトQ』もそれにならったSF短編シリーズだった。
 1987年2月28日にリリースされたのが、第1話「時の結び目」(パッケージで表記されているサブタイトルは「時の結び目 REFLECTION」)。これは原案・脚本/伊藤和典、監督/望月智充、キャラクターデザイン/高田明美、作画監督/後藤真砂子、美術監督/小林七郎という『魔法の天使 クリィミーマミ』チームの作品。1987年8月28日にリリースされた第2話「迷宮物件 FILE538」は、原案・脚本・監督/押井守の作品。それぞれが30分ほどの作品だ。アニメファンの人気を集めていた『クリィミーマミ』チームと押井守が、第1話と第2話を担当したわけだ。DVD解説書によれば、本シリーズは全6話を予定しており、第3話を河森正治が担当するプランや、いのまたむつみに作監を依頼するプランがあったようだ。

 「The Twilight Zone」は日本では「ミステリー・ゾーン」のタイトルで放映されていた。個人的な好みとしても、「ミステリー・ゾーン」に代表される読み切りの短編ドラマシリーズは好きだったし、各話を別スタッフが手がけるという点も興味を惹いた。だから『トワイライトQ』には少しばかり期待していた。
 第1話「時の結び目」は“時間SFもの”だった。主人公は真弓という名前の少女だ。彼女は、バカンスで訪れた南の島の海底で、古びたカメラを拾う。そのカメラに入ってたフィルムを現像すると、彼女と見知らぬ男性が映っていた。まるで写真の2人は恋人同士のようだ。カメラについて調べると、それがまだ開発中で、発売されていない機種である事が判明する。その事件の謎に迫ろうとした真弓は、過去と未来の世界を彷徨うことになる。改めて観ると、真弓は単純にタイムスリップをしているのではなく、パラレルワールドの過去や未来に行っているようだ。

 冒頭の謎の提示に関しては、つかみはOKだった。最後には写真に写っていた男性が何者だったのかも分かるし、カメラの謎も半ば解ける。ではあるが、どうして真弓がタイムスリップしたのかは、まるで分からない。ひょっとしたら、謎解きのポイントは劇中のどこかに用意されていたのかもしれないが、僕は気がつかなかった。彼女が何を求めて行動しているのかも、はっきりとは描かれていない。話が分かりづらいのは、狙ってやった事なのだろうと思うが、そのために、僕は観ていて今ひとつ気持ちが乗らなかった。それから、タイムスリップが始まってからの展開が少ない。面白くなってきたと思ったところで、ストンと終わってしまう。「ええっ、もう終わりなのか!」と驚いた。
 勿論、残念な事ばかりではない。語り口は心地よかった。この場合の語り口とは、話の運び方と雰囲気の事。つまり、脚本と演出が作り出す味わいのようなものだ。「時の結び目」の語り口は、少し硬い感じだった。作品全体に清潔感のようなものがあり、それもよかった。『クリィミーマミ』チームが、少し大人っぼいものを作るとこうなるのか、と思った。

 演出的な事に触れておくと、望月智充は「時の結び目」で、全カットFixに挑戦している。PANやフォローを一切使わず、実写でいうと、カメラを据え置きにして撮ったカットのみで構成。演出意図があり、構図がきちんととれていれば、カメラを振らなくても、画面の緊張感が維持できる事を証明したのだ。「時の結び目」以前にも、全カットFixをやった商業作品はあったかもしれないが、演出的な実験としてやったのは、これが初めてではないかと思う。そして、全カットFixの試みが、作品全体が硬い感じになった原因のひとつであるはずだ。
 ただ、全カットFixと言っても、タイムスリップしたシーンでは、カメラを斜めにして撮ったカットが多い。つまり、映像的なケレンを排しているわけではない。初見時には、全カットFixよりも、むしろ、斜めアングルを効果的に使っている事の方が印象的だった。
 印象的と言えば、主人公達が地下鉄に乗ったシーンで、とんでもない長回しのカットがある。主人公と2人のキャラクターが地下鉄のシートに座っているのを、カメラを引いてフレームに収めて、55秒ほどの長回しで撮っているのだ。主人公達の背後に、窓ガラスがあり、窓の向こう側にトンネル、駅のホームが流れていくのが見える。55秒の間に、地下鉄が駅に停まり、他の客が乗ってきて、主人公達の対面のシートに座り、また走り出す。それを、窓の向こう側の光景や、窓ガラスに映り込んだ人の姿で表現している。
 窓の外の景色は、作画で表現している。一種の背景動画だ。この長回しは奇抜さを狙っただけのものではない。臨場感を出すためのものだ。いかにも望月智充らしい凝ったカットだった。

 僕にとって「時の結び目」は、フィルムとしては魅力を感じたが、ストーリーに関して物足りなかった作品だ。長いシリーズの1本としては、こんな作品があってもいいけれど、第1話がこれでいいのかなあ、と思ったのを覚えている。そして、続く第2話が、作家性の塊のような「迷宮物件 FILE538」だった。

第417回へつづく

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(10.07.27)