第422回 『ルパン三世 風魔一族の陰謀』のキャスト変更
『風魔一族の陰謀』では、お馴染みのキャストが全て入れ替わった。『ルパン三世』ヒストリーにおける大事件だ。山田康雄が亡くなった後に出版された「ルパン三世よ永遠に—— 山田康雄メモリアル」(徳間書店・1995年)というムックで、僕は『ルパン三世』のキャスティングについて原稿を書いている。そこから『風魔一族の陰謀』に関する部分を引用しよう。
映画『風魔一族の陰謀』では『新ルパン』以来、不動だったキャスティングが全て一新された。
山田康雄にひっぱられてしまい、あまりにコミカルに、あまりにライトになりすぎた“彼”を、なんとか元に戻そうという意図をもったスタッフが、キャストを変更しようと提案したのが、このスタッフ変更のきっかけだった。それは『風魔一族の陰謀』の制作スタッフの総意ではないが、スタッフ全員が山田の持ち味に肯定的だったわけでもないのだ。
『風魔一族の陰謀』のキャスティングは、多くのルパンファンには不評だった。東京ムービー新社には、ファンから「どうしてキャストを変えたのだ」という非難が集中した。もしも、その不評にも負けず、新しいキャスティングで『ルパン三世』の新作を作り続けていたら、それが定着していたかもしれない。だが、'89年に放映されたテレビスペシャル『バイバイ・リバティー・危機一発!』で、キャスティングはお馴染みのものに戻された。
「ライトになりすぎた“彼”」とは、ルパン三世の事だ。「なんとか元に戻そうという意図をもったスタッフが」「制作スタッフの総意ではないが」と、随分ともってまわった書き方をしている。これは『風魔一族の陰謀』制作時の取材を元にして書いているはずだ。
制作時には、今までと違った『ルパン三世』を作るために、キャストを変えたと聞いた記憶がある。その後、別のスタッフに、キャストを変更したのは予算の問題だったと聞かされた。どちらが本当なのかは僕には分からない。多分、両方とも本当なのだろう。
『風魔一族の陰謀』のキャストについて触れよう。本作においてルパンファミリーを演じたメンバーは、以下のとおりだ。ルパン三世/古川登志夫、次元大介/銀河万丈、峰不二子/小山茉美、石川五ェ門/塩沢兼人、銭形警部/加藤精三。銭形警部役の加藤精三以外は、それまでより若い役者が選ばれている。
僕の感想としては、個々のキャスティングは悪くなかった。古川登志夫のルパンは、若くてより軽い感じだ。彼のよさが出ていた。今でも、古川登志夫のルパンで、もっとハードなドラマをやってもらいたいと思う。銀河万丈の次元はやたらと渋い。不二子に関しては、当時の若手女性声優で、小山茉美以外は考えられなかったのではないかと思うくらいだ。それだけに不二子の見せ場が少なかったのが残念だ。『風魔一族の陰謀』の五ェ門は、『旧ルパン』の強面での殺し屋と、『新ルパン』以降の青年剣士の中間のキャラクターだった。塩沢兼人では線が細すぎるのではないかと思っていたが、そんな事はなかった。キャラクターに合っていた。加藤精三の銭形警部は、納谷悟朗とあまり印象が変わらなかった。印象が変わらないのはいいが、キャストを変えた理由があるのか? とは思った。
個々のキャスティングは悪くなかったが、声のバランスはあまりよくなかった。銀河万丈の次元は、古川登志夫のルパンに比べてずっと年上のように聞こえたし、小山茉美の堂々とした不二子と、古川登志夫のルパンも釣り合いがとれそうもないと思った。ではあるが、それも単純に慣れの問題だったのかもしれない。「山田康雄メモリアル」で書いたように、このキャストで『ルパン三世』を作り続けていたら、演じる側も、聴く側も、慣れていったかもしれない。
僕は『ルパン三世』ファンであり、山田康雄を中心にしたそれまでのキャストに執着があった。執着はあったけれど、キャストを一新するくらいの変化はあってもいい。今まで絵柄や内容があんなに変わり続けたのだから、声が変わってもいいだろうと思っていた。そのあたりは矛盾している。頭の片隅で、新キャストで新作が作られても、やがて元に戻るだろうと思っていたのかもしれない。山田康雄を中心にしたキャストに執着しつつも、違った『ルパン三世』を観てみたいと思っていた。
第423回へつづく
(10.08.04)