アニメ様365日[小黒祐一郎]

第423回 ルパンマニアのための『風魔一族の陰謀』

 『風魔一族の陰謀』では、ルパンのジャケットが青緑色であり、キャラデザインが『旧ルパン』に近いものだった。それだけで喜んだ『ルパン三世』ファンが大勢いたはずだ。『風魔一族の陰謀』には細かい部分にも、ファンに対するサービスやお遊びが詰め込まれていた。それもかなりコアなファン向けのお遊びだった。以下に書き出してみよう。

(1)作品の冒頭で、ルパンが死んだと思い込んだ銭形が、頭を丸めて僧侶となっている。これは『マモー編』で予定され、作画も進んでいたものの、カットされてしまったシチュエーションだ。
 『マモー編』では、銭形は僧侶ではなく、京都の寺で寺男をやっているはずだった。『マモー編』の予告編には、ひげ面の銭形が、山小屋から飛び出して、駆け下りていくカットがちゃんとある。また、ルパンが絞首刑にかけられた次のカットが、仏像のアップだが、これは寺のシーンの痕跡だろう。
 銭形が退職して寺で暮らしているという設定は、『マモー編』のパンフレットにも書かれており、それを知っているファンもいたわけだ。寺男が住職に変わりはしたが、『風魔一族の陰謀』は幻の展開を再現した事になる。

(2)回想で銭形が、ルパン達が死んだと思いこむ場面。若干シチュエーションが違うが、『旧ルパン』最終回「黄金の大勝負」のリメイクだ。どちらもルパンが昇天していくイメージがある。

(3)銭形の家族が初登場した。銭形が住職を務めている寺にいた女性が奥さんだ。子供も3人いた。フィルムを見るだけでは、よく分からないが、DVDに特典として収録されたキャラクター設定にも、彼らが並んだ画に「銭形一家」と書かれている。一番上の女の子が『マモー編』に名前だけ登場した「トシ子」だろうか。

(4)五右ェ門の結婚式で、ルパンはメガネを着用。不二子は髪をまとめて和服を着ていた。全く同じではないが、『旧ルパン』の5話「十三代 石川五ヱ門登場」でのルパンと不二子を彷彿させる姿だ。五右ェ門の結婚式に、初めて会った際と似た恰好で参加したかと思うと、ちょっと感慨深い。

(5)カーチェイスで2カットだけ、シトロエンが登場。フィアットとパトカーの間を走り抜ける。ナンバープレートも『カリオストロの城』でクラリスが乗っていたのと同じ、F-73だった。

(6)風魔一味から助け出した紫に対して、ルパンが「そこに俺の着替えがあるから、好きなの選びな」という。それで紫が選んだのは、なんと赤いジャケットだった。『風魔一族の陰謀』のルパンは、着替えとして、赤ジャケを持ち歩いていたのだ。青ジャケットを着せて『旧ルパン』系統を標榜している本作だが、別に赤ジャケを否定しているわけではなかった。今回はフィアット500に乗っていたが、アジトのガレージにはベンツSSKも置いているのではないかと妄想してしまう。そういった懐の広さは、歴代シリーズとつきあってきたファンとしては嬉しいところだ。

(7)幻覚を見せるガスのため、風魔一味の目に、ルパンの姿が化け物のように見えるという場面がある。最後にルパンはモンスターのような姿になるのだが、そこに至るまでに彼の顔が、歴代作品のルパンの顔にメタモルフォーゼする。絵コンテには、それぞれの顔がどのルパンが明記されていた。手元にその絵コンテがないので記憶で書くが、『パイロット版』→『新ルパン(初期)』→『新ルパン(中期)』→『マモー編』→『バビロンの黄金伝説』→モンスターのような姿の順番だったはずだ。そのガスの効果について、ルパンは「正体がバレて、オバケに見える」と語っている。色んな顔があるのが、ルパンの「正体」という意味かもしれない。
 着替えの赤ジャケと同じく、『風魔一族の陰謀』スタッフの懐の広さを見せるお遊びだった。

 『風魔一族の陰謀』には「『ルパン三世』ファンが作った『ルパン三世』」を思わせる部分が、そこかしこにあった。他の人はそうは思っていないかもしれないが、マニアックな作品だった。

第424回へつづく

ルパン三世 風魔一族の陰謀

73分/片面2層/4:3/スタンダード/
価格/5040円(税込)
発売・販売元/東宝ビデオ
[Amazon]

(10.08.05)