第435回 『超時空要塞マクロス Flash Back 2012』
劇場公開版『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』のエンディングは、黒バックに白文字のテロップが流れるというものだった。エンディング曲は飯島真理の「天使の絵の具」だ。制作当初、エンディングは、リン・ミンメイのコンサート風景になる予定であったが、諸般の事情からそのプランがなくなり、テロップのみとなってしまったのだ。幻となったエンディングを制作するために企画されたのが、OVA『超時空要塞マクロス Flash Back 2012』だった。
『Flash Back 2012』はミュージッククリップ集のかたちをとっており、ミュージッククリップは全部で10本(それと別に間奏パート、イラストを使ったエンディングもある)。新作パートは最初と最後の2本である。最初の新作パートがリン・ミンメイのコンサート風景で、最後のパートがミンメイの過去と未来をフラッシュバックさせるかたちで描いている。残りの8本は、TVシリーズ『超時空要塞マクロス』と『愛・おぼえていますか』の映像を編集したもの。ポイント的に実写映像が使われている。実写映像はネオンサイン、レコードプレイヤー、気球、戦争の記録映像等だ。『Flash Back 2012』の構成・監督は、河森正治。新作部分の作画監督は、美樹本晴彦。30分のビデオソフトだ。リリースされたのは、1987年6月21日。言うまでもなく、ファン向けのアイテムである。
新作パートのビジュアルは充実。コンテも美術もいい。特に、美樹本晴彦による美麗な作画が素晴らしい。『愛・おぼえていますか』よりも、グレードアップしている。コンサートシーンもよく動いている。キャラクターの動きに関しては、原画で参加している稲野義信の力も大きいと思われる。ミンメイ自身は、それまでよりもスリムになっているようで、ボディラインが印象的だ。
過去と未来を描いたパートでは、ミンメイが新しい宇宙戦艦に乗って旅立つ描写がある。リリース当時、それは単なるイメージシーンかと思ったが、DVDの解説書等によれば、この戦艦はマクロス級2番艦として建造されたメガロード‐01。艦長は早瀬未沙(結婚して一条未沙になっているかもしれない)で、人類居住可能な惑星を求めて、銀河中心に旅立つという設定だそうだ。ただし、メガロード‐01に乗り込んだミンメイと、それを地上で見送るミンメイを同時に描いている事からも分かるように、それは「ありえるかもしれない可能性」のひとつでしかない……というのも解説書からの受け売りだ。
実写を挿入した編集パートは、リリース当時も、変な事をやるなあと思っていた。ビデオ編集を玩具にして、作り手が遊んでいる感じだ。今になって改めて観るとキッチュですらある。その感じを「1980年代的」という言葉で片づけてしまうのは乱暴かもしれないけれど、あの時代の気分が色濃いのは間違いない。実写映像の挿入だけでなく、既存のアニメ映像をコマ落とししているところもあり、それも奇妙な味わいになっている。
『Flash Back 2012』の後に『愛・おぼえていますか』の完全版がリリースされた。このバージョンでは、エンディングの映像が『Flash Back 2012』新作パートに差し替えられている。ミンメイのコンサート風景のミュージッククリップをメインにし、過去と未来をフラッシュバックさせたパートを挿入するかたちで再編集したのが、完全版のエンディングだ。現在、リリースされているHDリマスター版のエンディングも、同様のものとなっている。
『愛・おぼえていますか』の本編は「ワン、ツー、スリー、フォー、ワン、ツー、スリー、フォー……」と言いながら、足でリズムをとるミンメイの後ろ姿のカットで終わる。劇場公開版はその後で黒バックのエンディングが始まり、完全版ではコンサートのエンディングにつながる。完全版が制作当初に予定されていたかたちに近いものであるのは分かるけれど、僕は劇場公開版のエンディングの方が好きだ。戦争が終わり、輝、ミンメイ、未沙の三角関係に、やや乱暴なかたちで決着がついた。ミンメイの事を考えると、ちょっと可哀想なラストだ。華やかにミンメイが唄うコンサートシーンを見せるよりも、黒バックでエンディング曲だけを聴かせる方がしっくりくる。そのちょっと寂しい感じがいい。
第436回へつづく
(10.08.23)