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COLUMN
アニメ様の七転八倒[小黒祐一郎]

第39回 エヴァ雑記「第六話 決戦、第3新東京市」

 第5の使徒がネルフ本部に攻撃を仕掛けた。加粒子砲で接近した敵を破壊するこの使徒には、EVAによる接近戦闘ができない。即ち、A.T.フィールドの中和が不可能なのだ。そこで、ミサトは長々距離からEVA専用改造陽電子砲(ポジトロンスナイパーライフル)で狙撃し、A.T.フィールドごと使徒のコアを打ち抜く作戦を立案。彼女は「屋島の戦い」で那須与一が馬上から船上の扇を弓で射貫いた伝承に因んで、この作戦を命名した。ネルフの総力を結集した「ヤシマ作戦」である。
 第六話は一転して戦闘中心のエピソード。それも剛速球ストレートだ。登場するメカの物量も圧倒的。テロップを多用し、実録戦争映画風にまとめており、ミリタリー色が強い。こってりした画面作りとテンションの高さは、摩砂雪副監督の手による絵コンテの力だ。本放映時にワクワクしながら観たのを覚えている。作戦のために日本中の電力を集めるという大胆なアイディアはいかにもGAINAXらしいもので、電灯が消えて日本列島が真っ暗になっていく様子にはSF的なロマンを感じた。戦闘中心のエピソードではあるが、初号機は横になって射撃するだけであり、動きは少ない。実は作画のコストパフォーマンスを考えた話数なのだ。それに対して、後の第八話、第九話ではEVAを動かしまくっている。そういったシリーズ中でのメリハリの付け方も流石である。

 裏をとった事はないが、サブタイトルの「決戦、」の部分は「帰ってきたウルトラマン」の6話「決戦! 怪獣対マット」に由来したものだろう。「決戦! 怪獣対マット」は地底怪獣グドンと古代怪獣ツインテールが登場するエピソードで、これも前後編の後編。『エヴァ』の第伍話、第六話も、「帰ってきたウルトラマン」の5話、6話も、シリーズ序盤に組み込まれた大規模作戦のエピソードである。
 また、テロップの多用は『トップをねらえ!』5話、最終話、『ふしぎの海のナディア』37話でも使われた庵野監督作品ではお馴染みの手法。これは彼が敬愛する岡本喜八監督作品へのオマージュでもある。1話あたりのテロップの枚数は『トップ!』5話の方が多いが、1枚1枚のテロップのコテコテぶりは『エヴァ』第伍話の方が上だ。テロップ以外でも庵野監督作品には、岡本喜八監督作品のパロディ、あるいは手法を採り入れた部分があり、「第七話 人の造りしもの」前半でも、シンジがミサトの生活態度を批判する場面で、岡本喜八的なカメラの切り返しをやっている。

 「EPISODE:06 Rei II」の英文サブタイトルが示す通り、綾波レイにスポットが当てられる2本目のエピソードでもある。中盤でレイは戦う理由を語り、自分ではEVAに乗る以外に何もないと云う。「あなたは死なないわ。私が守るもの」の名台詞もこの話だ。孤独な少女であるが、それゆえに自分の命を捨ててでも任務を遂行しようとする。そのひたむきさが、人気キャラクターとなった理由のひとつだろう。シンジに対して「さよなら」と2度云うが、これは単に彼女が言葉の使い方をよく知らずに云ったのだろうと思われる。だが、シンジはその言葉に彼女の寂しさを感じてしまった。
 初号機による最初の射撃は失敗。レイが零号機で庇ってくれたお陰で、シンジは第2射を撃つ事ができ、第5の使徒を撃破した。シンジはエントリープラグを開けて、レイの生存を確認。彼女に思っている事を伝えて、涙を流す。そこで例の「笑えばいいと思うよ」となる。コミュニケーションが苦手なシンジが、彼以上にコミュニケーション下手である少女に気持ちを伝え、彼女は笑みを見せた。『エヴァ』を代表する名場面だ。この場面で気になったのが、シンジの顔にダブらせるかたちで、ゲンドウの笑顔をインサートしている事だ。その後にレイが少し驚くカットがあり、シンジのカットを挟んで、彼女の笑みとなる。レイが笑ったのは、実はゲンドウを思い出したからではないのか。ひょっとしたら、シンジの気持ちは伝わっていないのかもしれない。そう考える事ができるのだ。勿論、ゲンドウに似ている事に気づき、彼女がシンジに親しみを感じたのだと解釈する事もできる。僕は本放送当時は前者だと判断した。2人の心が通ったように見せておいて「実はそんな事はなかった」という仕掛けをしたのか。憎い事をするなと思い、「EVA友の会」でそういった内容のコラムを書いた。今は、後者の解釈でもよいのではないかと思っている。ただ、「実は気持ちは伝わっていない」と解釈した方が面白いし、『エヴァ』らしい。

 中盤で、レイが裸でベッドにいたシンジに対して「寝惚けて、その恰好で来ないでね」と云うが、あれは彼女としては珍しい冗談なのだろう。コミュニケーション下手の彼女が、シンジを励ますためにそんな事を云ってみたのかもしれない。その場にリツコがいたら「まさか、あの子が冗談を云うなんて」と驚いただろう。これも本放送時に思った事だが、その発言からレイが他人に裸を見せるのは恥ずかしい事だと知っているのが分かる。少なくとも知識としては知っている。ひょっとしたら、第伍話でシンジに裸を見られた時も、本当は恥ずかしいと思っていたのかもしれない。そう考えるのは穿ち過ぎか。いや、あれこれと考えながら観るのが正しい『エヴァ』の愉しみ方だ。


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■第40回 エヴァ雑記「第七話 人の造りしもの」に続く


(06.05.25)

 
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