web animation magazine WEBアニメスタイル

 
COLUMN
アニメ様の七転八倒[小黒祐一郎]

第43回 エヴァ雑記「第拾話 マグマダイバー」

 『ゲキガンガー3』の仕事をやっている頃、スタッフ間で「カルタプロット」という言葉が使われていた。昔の子供向け番組にあった物語のパターンの事だ。まず、話の前半で視聴者に印象づけるような何かがあり、それをきっかけにして、後半で戦いに勝利するというものだ。きっかけになるものは、ロボットアニメなら戦闘と関係ないものの方が効果的だ。例えば、TV番組にヨーヨー名人が登場し、主人公達がその技に感心する。そして、強敵が現れて主人公達が苦戦。どうすればこの危機を乗り越えられるのか。「そうだ。あれだ! ヨーヨーだ!」。主人公側の登場人物の1人が、ヨーヨーにヒントを得た必殺技を考案し、逆転勝利する。著書「TVアニメ青春記」(実業之日本社)でも話題にされているが、ベテラン脚本家の辻真先は『勇者ライディーン』で「1月1週目に放映される話なので、季節感のある話を」とオーダーされて、カルタをヒントにして主人公が勝つ話を書いている。その逸話に因んで、僕達は上記の定番ストーリーをカルタプロットと呼んでいたのだ。上で例に挙げたヨーヨーの話は『超電磁ロボ コン・バトラーV』の4話「特訓!超電磁ヨーヨー」だ。作品内のTVに登場するヨーヨー名人は何故か実写であり、なかなかのインパクト。その事でも有名なエピソードだ。こちらも脚本は辻真先。『ゲキガンガー3』のカルタプロットも『勇者ライディーン』と同様に正月の話で、餅をヒントに逆転した。
 『エヴァ』の「第拾話 マグマダイバー」では、前半でのプールサイドのシーンで熱膨張のネタ振りがあり、戦闘中にそれを思い出したアスカが熱膨張を使って使徒に勝利する。熱膨張を思いついたアスカとシンジが「そうだ!」「さっきのやつ!」と云い、リツコが「なるほど、熱膨張ね」と続ける。そのように定番の台詞も再現しており、ほぼ完璧な「カルタプロット」だ。第八話でも「そう、釣りだわ!」の台詞と共にミサトが作戦を思い付くが、こちらは前半で釣りについてのネタ振りがないので、カルタプロットとは云えない。辻さんの時代はともかく、今時こういったプロットをやれば、どうしてもパロディチックになってしまう。第拾話をそういった構成にしているのは、肩の凝らない娯楽作にする意図があるためだろう。「サービス! サービス!」の一環なのだ。

 第八話、第九話とコテコテの話が続いたが、この第拾話、続く第拾壱話はややあっさり味。またしてもアスカ活躍編であり、ネルフが初めて使徒に対して能動的に動くエピソードだ。浅間山の火口内に使徒が発見され、ミサトはその事をネルフ本部の碇指令に伝える。蛹の状態の使徒を確保する計画を立てたゲンドウは、人類補完委員メンバーを説得。作戦担当者にアスカが選ばれ、弐号機が身に付けるD型装備が登場。そして、作戦実行。このように段取りを追って使徒迎撃が描かれているのは、『エヴァ』では寧ろ珍しい事だ。その一方で、ミサトとアスカの過去に何かがあった事が仄めかされ、加持が正体不明の女性と密会してネルフについて話している描写で、彼が単なるネルフの一スタッフではない事が示される。蛹の状態である使徒の取り扱いを間違えると、再びセカンドインパクトが起こるかもしれない。それに関連して、人類補完委員メンバーやリツコがセカンドインパクトについて「二度と御免だ」等とコメントする。また、冒頭では加持がセカンドインパクトの為、子供の頃に修学旅行へ行っていない事が分かる。大人達にとってセカンドインパクトは、まだ生々しい体験なのだ。
 第8の使徒に関しては、瞬時に火口中での戦闘に適した形態になった事が重要。使徒はその発生する場所、あるいは目的に合わせて形態や能力を変化させているのだろう。それは超スピードでの進化なのかもしれない。第24話(第弐拾四話のビデオフォーマット版)でカヲルが「お互いに、この星で生きていく身体は、リリンと同じ形へと行き着いたか」とレイに云っている。それまでの使徒が様々な形を模索し、最後の使徒であるカヲルは人間と同じ姿になったという意味ともとれる言葉だ。尚、第8使徒のモデルは、当時「NHKスペシャル 生命40億年はるかな旅」で話題になっていたアノマロカリス。カンブリア紀に生息していた地球初の本格的肉食生物である。今となっては、ちょっとした時事ネタだ。

 この話でアスカは、シンジに対して3度「男」と云う。すなわち「ちょっと何か云ってやったらどうなの。男でしょ」「飼い慣らされた男なんて最低」「つまらない男」の3度。「男の子」ではなく「男」なのだ。プールサイドでアスカは「あたしの場合、胸だけ温めれば、少しはオッパイが大きくなるのかな」とちょっとエッチな冗談を云ったが、シンジはまともに返す事ができなかった。それでガッカリした彼女は「つまらない男」と云うのだ。彼女はシンジと距離を縮めるために、わざわざそんな事を云ったのだろう。男性はそういう話で喜ぶと思ったのだろうし、逆にそんな話題を振る事で自分のプロポーションを誉めてもらおうとしたのかもしれない。「第26話 まごころを、君に」まで観ると、アスカはシンジを好きだったのか、好きになったとしたら、それは何時なのかが気になる。少なくとも第拾話の段階で「男」として彼を意識していたようだ。シンジよりも遥かにマセているのは云うまでもない。
 第8使徒を殲滅した後、シンジは温泉に浸かって「はあ〜、極楽極楽。風呂がこんなに気持ちがいいなんて、知らなかったな」と独り言ちる。これは第弐話の入浴シーンと対になる描写で、風呂に入ると厭な事ばかり思い出す等と云っていた彼が、様々な経験を経て、風呂を愉しむような余裕を持てるようになったという意味。彼の股間が膨張したのも、多少は性に対する興味を持つ様になったという事だろう。

[主な関連記事]
【DATA BASE】『新世紀 エヴァンゲリオン』(TVシリーズ)(06.05.11)
【DATA BASE】『新世紀エヴァンゲリオン劇場版[シト新生]』(06.05.12)
【DATA BASE】『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 THE END OF EVANGELION』(06.05.15)


[DVD情報]
『NEON GENESIS EVANGELION』
発売元:キングレコード/vol.1〜vol.7・各巻4話、vol.8・2話収録/vol.1〜vol.7・3990円(税込)、vol.8・3675円(税込)
[Amazon]
 

■第44回 エヴァ雑記「第拾壱話 静止した闇の中で」に続く


(06.05.31)

 
  ←BACK ↑PAGE TOP
 
   

編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
Copyright(C) 2000 STUDIO YOU. All rights reserved.