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COLUMN
アニメ様の七転八倒[小黒祐一郎]

第47回 エヴァ雑記「第拾四話 ゼーレ、魂の座」

 「第拾四話 ゼーレ、魂の座」には痺れた。特にAパートの演出の切れ味のよさ、行き詰まる緊張感に圧倒された。『エヴァ』のスタイリッシュさが極まったフイルムである。東京地方では1月3日の午前8時というイレギュラーな時間に放映された第拾四話。その英文サブタイトルは「紡がれる物語」という意味の「WEAVING A STORY」。つまり、それまでの映像を紡いで作った総集編的な意味合いのフィルムである。総集編と云っても、フィルムデュープは殆どなく、大半のカットに於いて撮影をやり直している。例えばセル画を抜いて背景だけ使用したカット等もあり、また、数は少ないが新作画も行われている。
 Aパートは、ゼーレとゲンドウが、今までのEVAと使徒の戦闘を振り返る内容だ。BGMは一切使っておらず、台詞も極端に少ない。その音の少なさと、極太明朝体のテロップの多用が緊張感を生み出す。「分かっています。全てはゼーレのシナリオ通りに」というゲンドウの台詞でAパートは終了。その次のアイキャッチ部分で、この話のサブタイトル「第拾四話 ゼーレ、魂の座」のテロップが出る。これが素晴らしく格好よかった。サブタイトルが出た瞬間に、Aパートの緊張が一気に解け、それによってカタルシスを感じたのだろう。
 新しい情報も数多い。それまで劇中で、使徒は「第3の使徒」等と出現した順番で呼称されていたが、ここで初めて「第3の使徒 サキエル」「第4の使徒 シャムシエル」「第5の使徒 ラミエル」といった名称が明らかになった。これらの使徒の名は、それぞれが聖書に登場する天使の名と同じであり、その天使が担う役割分野と、使徒の個性や登場したシチュエーションには共通点がある。例えば、海中から登場したサキエルは「水」の天使と同じ名であるし、昼間に現れたシャムシェルは「昼」の天使と同じ名だ。人類補完委員会のメンバーがゼーレとも呼ばれている事も分かり、また彼等が「死海文書」の記述に従って計画を進めているらしい事も判明する。
 「死海文書」は現実に存在する古文書である。1947年にイスラエルの湖「死海」付近の洞穴で発掘されており、内容は「旧約聖書」とその「外典」である。紀元前1〜2世紀頃、つまり、キリストの生きていた時代に残されたものと云われている。20世紀最大の発見といわれながら、その後45年にも渡ってその全面公開が遅延され続けており、キリスト教を根本から揺るがす内容が書かれているため、発表されていない文書があるという説もある。ゼーレの持つ死海文書が、現実の死海文書と同一であるかどうかは、この話では不明だ。作中に仕掛けられた謎は、『エヴァンゲリオン』の人気が社会的なブームになる程に加熱する要因のひとつだった。死海文書の登場も、ファンが『エヴァ』の謎に興味を持つきっかけとなった。

 Bパートでは、回想ではなく通常の時間軸で物語が展開。EVAの第1回機体相互互換試験が行われ、その過程でレイの内的宇宙が描写され、零号機が暴走。ミサトはEVAに対して、アスカはレイについて疑問を持つ。その一方で、ゲンドウと冬月が、ゼーレとのシナリオと別に自分達のシナリオを作っており、レイをその計画の為に働かせている事も描写されている。リツコとマヤの会話で、ダミーシステムについての伏線も張られた。
 このBパートの見所は、やはり冒頭のレイの内的宇宙であろう。ここで描かれているのは彼女の「自分は何か」という問いかけであり、「他者や環境」をどう考えるかという事である。自分を作っているのは物体としての肉体だ。だが、レイは身体が溶けて自分の形が消えていくような気がすると云う。そして、彼女は自分の周囲にいる人達をイメージする。後に判明するA.T.フィールドとL.C.Lの関係を踏まえれば、レイが周りの人間に気を許し始めた為にA.T.フィールドが弱まり、自分を形作る力が弱まっているのだと解釈する事もできる。周囲にいる人達のイメージが脳裏に現れる際に、レイはシンジやミサトの名前を思い浮かべるが、アスカのイメージに対しては「弐号機パイロット」と思うだけである。まだ彼女はアスカに興味を持っておらず、ひとつの人格として認知していないのだろう。他にも「赤い土から造られた人間」「血を流さない女」等、意味を考えたくなるフレーズは多い。シリーズ後半で、度々キャラクターの内的宇宙が描かれる事になるが、その最初がこのシーンである。

 零号機の中にいるシンジに対して、アスカは「どう、シンちゃん。ママのおっぱいは? それともお腹の中かな?」と云ってからかう。EVAに「母」、血の臭いがするエントリープラグに「子宮」、その名が示す通り、アンビリカルケーブルに「臍の緒」のイメージが与えられているならば、このアスカの台詞は饒舌にテーマについて語っている事になる。いや、後に明らかになるユイとEVAの関係を考えれば、ここでアスカが云った事は、具体的な事実を言い当てている事になるのかもしれない。
 また、内的宇宙のシーンで「心の容れ物。エントリープラグ。それは、魂の座」というレイの台詞がある。単にエントリープラグ内の搭乗者が、その心でEVAと繋がるという意味かもしれないが、後にシンジがエントリープラグの中で肉体を喪い、魂だけの存在になってしまう事を予言しているようでもある。いや、「第26話 まごころを、君に」の展開を考えれば、そもそもエントリープラグとは人が魂だけの存在になるための場所であるのかもしれない。この話のサブタイトルは「ゼーレ、魂の座」。ゼーレとは独語で「魂」の意味だが、このサブタイトルを「ゼーレ、すなわち、魂の座である」という意味だと解釈もできる。だとすれば、エントリープラグが「魂の座」であり、ゼーレもまた「魂の座」という事になる。そんな風に考えると設定に関する妄想が、また膨らんでいく。


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■第48回 エヴァ雑記「第拾伍話 嘘と沈黙」に続く


(06.06.06)

 
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