第弐拾弐話ではアスカが精神攻撃を受けたが、この「第弐拾参話 涙」ではレイが肉体と精神を使徒に侵蝕されてしまう。第拾六話でシンジが使徒の言葉に翻弄され、第弐拾弐話でアスカがその攻撃に大きなダメージを受けたのに対して、レイは使徒と堂々と渡り合っている。結果的にはシンジとひとつになりたいと願っていた事を利用されてしまうのだが、彼女はシンジやアスカと違い、精神的な脆さはない。後の「第弐拾伍話 終わる世界」でも、彼女は補完の対象にならないのだ。それはレイが普通の人間でない為でもあるのだろうが、むしろ、彼女が生や自分の存在に対して諦観しているからだと考えたい。
この話のサブタイトルは「涙」。第16の使徒との戦いで、レイは2度、涙を流す。彼女の爆死にミサトは涙をこぼし、シンジはその事で涙が出ないと呟く。そして、現れた3人目のレイは、彼女が記憶していないゲンドウの眼鏡に涙する。リツコの祖母は可愛がっていた猫が死んだ事で泣き、リツコは水槽の中のレイ達を殺して、自分は母親と同じだと号泣する。悲しみに彩られたエピソードではあるが、語り口は淡々としており、空気が乾いている。レイの死ですら、過剰にドラマチックではない。空虚さは第弐拾弐話よりも増しており、それが次の第弐拾四話「最後のシ者」で効いてくる。
第弐拾参話は設定についての新情報が多い。ビデオフォーマット版で追加されたパートで驚かされたのは、第16の使徒に物理的融合をした零号機の背中から、今まで登場した使徒達と同じ形状の肉色の固まりが吹き出る部分だ(第12の使徒については、本体ではなく、上空に浮かぶ球状の「影」の部分がその中にある。これはご愛敬)。この肉色の固まりは、零号機の身体が膨張したものであり、恐らくは使徒の遺伝情報が入り込んだ為に起きた現象なのだろう。使徒が同じ卵から生まれており、それぞれの発生する場所、あるいは目的に合わせて形態や能力を変化させている事の証なのかもしれない。第16の使徒と初号機が接触した後、使徒との同化を始めたシンジの手に小さなレイが生まれた事や、第16の使徒が巨大な綾波レイと化してしまう事は、「第26話 まごころを、君に」への伏線だ。設定上の伏線と云うよりは、イメージ的な伏線と云うべきか。
圧巻は、クライマックス。水槽の前でのリツコの発言だ。リツコは本作の設定についての最も重要な情報を饒舌に語る。新しい情報が次々と出てくるが、同時に混乱も増していく。以下にその会話を引用しよう。
ミサト「まさか、エヴァのダミーシステムは!」
リツコ「そう。ダミーシステムのコアとなるもの、その生産工場」
ミサト「これが?」
リツコ「ここにあるのはダミー、そして、レイの為のただのパーツに過ぎないわ。人は神様を拾ったので喜んで手に入れようとした。だから、罰が当たった。それが15年前。せっかく拾った神様も消えてしまったわ。でも、今度は神様を自分達で復活させようとしたの。それがアダム。そして、アダムから神様に似せて人間を造った。それがエヴァ」
シンジ「人? 人間なんですか?」
リツコ「そう、人間なのよ。本来魂のないエヴァには、人の魂が宿らせてあるの。みんな、サルベージされたものなの。魂が入った容れ物はレイ、1人だけなの。あの子にしか魂は生まれなかったの。ガフの部屋は空っぽになってたのよ。ここに並ぶレイと同じものには魂がない。ただの容れ物なの。だから、壊す。憎いから」
この部分は何度ビデオを巻き戻して台詞を聴いたのか分からない。リツコさん、もっと分かりやすく説明してよ、と思ったものだ。この発言がややこしいのは、まず「神様」と「アダム」の名称だ。15年前に出現したのはアダムなのだ。実際には、この場で彼女が云っている「神様」が「アダム」の事であり、「アダム」が「リリス」の事なのだろう。この話の段階では、地下の巨人はリリスではなく、アダムという事になっており、ミサトや加持ですらそれを信じていた。リツコが地下の巨人の真相を知らなかったとは思えないので、ミサトに説明するためにわざとリリスをアダムと呼んだのだろう。
後半は更に難解だ。「あの子にしか魂は生まれなかった」って、何処で生まれたんだ。ガフの部屋?それとも、リリスの中? サルベージされた魂が入っているというのも不思議な話で、初号機にユイの魂が入っているのは分かるにしても、零号機には誰の魂が入っているんだ? そもそもガフの部屋という言葉がよくわからない。『エヴァ』の仕事をやっていて、調べるのに一番苦労したのがガフの部屋だった。実は『エヴァ』のLD解説書のスタッフには、現在では脚本家として活躍している大河内一楼君がスタッフとして参加しており、ガフの部屋についても彼が調べてくれた。ガフの部屋とは、ヘブライの伝説にある言葉で、天国の神の館にある魂の住む部屋。赤ん坊は生まれる前に、この部屋から魂をもらうのだそうだ。それでは『エヴァ』に於けるガフの部屋とは何かと云うと、それが分かるのは、これも「第26話 まごころを、君に」なのである。
このリツコの解説については、更に続きがある。LD&ビデオ化された時に、このシーンに新映像が追加されたのだ。セカンドインパクト時の画像等が、次々とオーバーラップするのだ。「そして、アダムから神様に似せて人間を造った。それがエヴァ」の部分で、下半身のない2体の巨人が横たわった画像が挿入されている。その2体は下半身同士が繋がっているのだ。つまり、これは「リリスからアダムに似せてエヴァを造った時の模様」なのだろう。LD解説書「EVA友の会」では、僕はこれについて「これはユイが消失してしまった段階での、リリスと初号機」と書いている。この項目についてはGAINAXから情報をもらって書いた。
『エヴァ』の謎の中で最も厄介なのがリリス、EVA、ユイ、レイの関係である。第弐拾話、第弐拾壱話から分かるように、ユイは何らかの実験に参加して、その身体が消失してしまった。恐らくはリリスか初号機のどちらかと接触実験をして、その中に取り込まれてしまい、帰らぬ人となったのだろう。そのサルベージ計画が失敗した事も、第弐拾話で語られている。それでは、ユイが接触したのはリリスなのか、あるいは初号機なのか。彼女が接触したのが、リリスと物理的に結合した状態の初号機であるならば、いろいろと合点がいく。いや、新たな設定についての妄想も膨らんでいく。LDの仕事をしていて、この画像を観た時には「なるほど、そうきたか!」と思ったものだ。
ところが、そのオーバーラップ画像は、現在リリース中のDVDでは削除されてしまっている(旧バージョンのDVDにはその画像がある)。削除の理由は、画質の問題であるらしいが、これは惜しい。リリスと初号機が繋がった画を黒歴史にせず、何かの機会に復活させてもらいたいものだ。
[主な関連記事]
【DATA BASE】『新世紀 エヴァンゲリオン』(TVシリーズ)(06.05.11)
【DATA BASE】『新世紀エヴァンゲリオン劇場版[シト新生]』(06.05.12)
【DATA BASE】『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 THE
END OF EVANGELION』(06.05.15)
|
[DVD情報]
『NEON GENESIS EVANGELION』
発売元:キングレコード/vol.1〜vol.7・各巻4話、vol.8・2話収録/vol.1〜vol.7・3990円(税込)、vol.8・3675円(税込)
[Amazon] |