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COLUMN
アニメ様の七転八倒[小黒祐一郎]

第96回 『マモー編』と「魔術師と呼ばれた男」

 『ルパン三世』TVシリーズ全解説の原稿を終えて、数ヶ月経った5月に『マモー編』がTV放映された。ハイビジョンマスターでの放送という事で、映像がどうなっているかが気になって、用事を片付けながらチラチラと観たのだが、「?」と思う事があった。あれ、『マモー編』と「魔術師と呼ばれた男」ってよく似ているじゃないか。どうして今まで気がつかなかったんだ。ああ、なるほど、そうか。色々と合点がいった。
 「魔術師と呼ばれた男」は『旧ルパン』の第2話。傑作中の傑作だ。ハードでアダルトであるだけでなく、アンニュイさが堪らない。ムックのインタビュー記事でも、監督の大隅正秋はこのエピソードが大好きで、本気で作った話だと語っている。「魔術師と呼ばれた男」と『マモー編』が似ている点は以下の部分だ。

(1)ルパンのライバルは不死身の男。「魔術師と呼ばれた男」のパイカル(白乾児)は細胞を活性化させる薬で、『マモー編』のマモーはクローン技術で不死である。
(2)ルパンとライバルは、不二子を挟んで三角関係になる。
(3)前半は、不死に関わるアイテムの奪い合い。「魔術師と呼ばれた男」ではマイクロフィルム、『マモー編』では賢者の石。
(4)人間を超えたかのように見えるライバルの力を、ルパンは論理的に解明し、相手がただの人間である事を証明する。
(5)最初は不二子の奪い合いから始まった戦いだが、最終的にルパンは、不二子のためではなく、自分のプライドのためにライバルと戦う。

 (5)について少し説明しよう。「魔術師と呼ばれた男」では、ルパンとパイカルが最後の対決をする前に不二子は自力で脱出しており、彼らが戦うのを止めようとしている。『マモー編』では、例の「俺は、夢、盗まれたからな」のやりとりで、ルパンの目的が不二子の救出ではない事が暗に示されている(このコラムの第21回を参照)。

 『マモー編』のマモーの名前は『旧ルパン』の第13話「タイムマシンに気をつけろ!」の魔毛狂介から取られているし、サブキャラであるゴードンの名前は第22話「先手必勝コンピューター作戦!」のコンピュータ技師から、マモーの部下であるフリンチの名前は第10話「ニセ札つくりを狙え!」のゲストキャラから名前が取られている。『マモー編』には、そのように『旧ルパン』をリスペクトしたと思われる部分があり、物語の骨格を「魔術師と呼ばれた男」から採っていてもおかしくはない。
 『マモー編』の劇中で、空中を歩くマモーに対して、ルパンが「硬質ガラスなんて手には飽き飽きしているんだ」と言う。硬質ガラスを使った空中浮遊は「魔術師と呼ばれた男」でパイカルが使い、ルパンが見破ったトリックだ。このセリフを聞いて、ニヤリとしたルパンマニアが少なからずいただろう。ひょっとしたら、作り手が『マモー編』を描く上で、「魔術師と呼ばれた男」を下敷きにしたため、そのセリフが出てきたのかもしれない。また、このセリフから『マモー編』のルパンは、かつてパイカルと戦ったのと同じ人物であると解釈できる。つまり、『旧ルパン』の世界と『マモー編』の世界はパラレルではなく、同一時間軸上の物語であるという事だ。これは、ルパンマニアが『マモー編』を解釈する上で重要なポイントだ。

 「魔術師と呼ばれた男」の脚本は故大和屋竺。『マモー編』の脚本は大和屋と吉川惣司監督の連名だ。すると、両者がプロットが似ているのは大和屋の意図かとも思われるが、「ルパン三世officialマガジン」7号に掲載された吉川監督のインタビューで、『マモー編』の脚本は、東宝の重役会議に間に合わせるために、吉川監督が1人で書き上げたと語られている。とはいえ、脚本に入る前に、吉川監督と大和屋は密に打ち合わせを繰り返しており、脚本には2人で話した内容が入れられているそうだ。それを思えば、やはり大和屋のアイデアという可能性もある。『マモー編』と「魔術師と呼ばれた男」が似ているのが吉川監督の意図か、大和屋のアイデアなのかは分からない。勿論、誰の意図でもなく、似ているのは偶然なのかもしれないが。

 前々回で「プライド」が「大隅ルパン」の重要なキーワードだろうと書いた。少なくとも僕の印象としてはそうだ。『マモー編』は『旧ルパン』的であると言われており、僕は、さらに前半の「大隅ルパン」的であると捉えてきた。僕がそう感じていたのは、単に『マモー編』がアダルトであり、ハードであるからだけではなく、物語の骨格が「大隅ルパン」を代表する「魔術師と呼ばれた男」に似ており、「プライドのために戦うルパン」という「大隅ルパン」の核心とも言えるものを持っているからでもあったのだろう。
 例えば「脱獄のチャンスは一度」で、銭形に与えられた屈辱を晴らすために、1年もの時間をかけた処刑ゲームに挑んだルパンと、自分が偽物かもしれないという侮辱を受けて、神と名乗る強敵マモーに単身立ち向かうルパンは似ているとは言えまいか。
 『マモー編』は本質的な意味において、「大隅ルパン」的と言えるのかもしれない。だが、『マモー編』は決して「大隅ルパン」そのものではない。「大隅ルパン」のアンニュイさがない。『マモー編』の作品としての派手さは、むしろ、同時期に製作されていた『新ルパン』に近い。そのあたりも面白い。

 

■第97回に続く

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(07.07.30)

 
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