第207回
2人で1人
藤子不二雄(6)
〜『猿』完結篇
〜F先生の作品他
意外と長々書いてた『プロゴルファー猿』の話。「そろそろ終わらせなきゃ」とゆー事で1985〜TVシリーズを語る上で忘れてはいけない
今川泰宏コンテ・演出話数の話!
今川さんと言えば皆さんご存知『ミスター味っ子』や『ジャイアント ロボ』『機動武闘伝Gガンダム』など、パワフルでエネルギッシュでドラマチックかつコミカルなサービス精神旺盛監督です。その今川さんが『猿』にはコンテ・演出で20本近く参加していて、それぞれ後に自身が監督される『味っ子』や『Gガンダム』なノリがすでに健在なのが嬉しいです。『猿』の今川演出1本目は第20話「対決!!ミス・スネーク」。紅蜂扮するミス・スネークがゴルフクラブを振り下ろすと、クラブの先が蛇の頭にメタモルするイメージ表現には「あれ、中身は紅蜂でも蛇イメージ乗っけます!?」って疑問は少々脳裏を掠めはしたものの「そんな事よりインパクトの方が重要!」と言わんばかりの演出が潔くってとても好きです。あと第23・24話のゴルフマシーン・タイタン編はこれまた後の『味っ子』を彷彿とさせる名編と言えます。このあたりからシリーズに次々と原作以上の(アニメオリジナルという意味での)「変態ゴルファー」が登場した事により、当時リアルタイムで俺の姉などは「ふざけとる!」と憤慨してたけど、自分的には大いに楽しんでました。特にタイタン編などは、後の話数の演出表現にも影響を及ぼしてる気がします。スポコンものの演出にちょくちょくあります、そのシリーズの監督以外の演出話数から「効果的で派手な処理・アングル」が伝染する事って。あと55話「ブラック・エイプ」のおっちゃんと若葉ちゃんの走りから猿の「紅蜂さぁ〜ん!!」あたり(観てない方はチンプンカンプンだろーな)のギャグタッチとかもシリーズ後半戦のコメディとシリアスのメリハリに貢献してるのではないでしょうか。あといちばん好きな今川話数は
第63・64話のシャーク・キラー編!
です。これは素晴らしい! シャドウ・マスターズ編自体は原作にもあるんですが、シャーク・キラー戦はアニメオリジナル。何しろ猿との試合そっちのけで、自らの足を食いちぎったサメにガチで復讐に挑む話ですから。しかも爆弾仕掛けのゴルフボールをそのサメの口にブチ込もう、って! シャーク・キラー(声・小林清志)が「打てー、猿ゥー!!」と叫んでる頃には完全に『猿』をはみ出して、もうすでに今川作品でした! そして最後の夕陽をバックにラストショットを打つシャーク・キラーを俺は一生忘れません(ちなみに『鉄人28号』[2004年版]の時初めて今川さんにお会いできた——という話はまた今度)。
そーゆーわけで何回かに渡って書いてきた『猿』ですが、最後にお詫びを。第205回で1982年版『猿』のキャラデを「トキワ荘の方の鈴木伸一さん」と書いてしましましたが、あれは「別の鈴木伸一さんです」とのご指摘を受けました。すいません、同姓同名の別の方でした。
とお詫び申し上げたところで、こちらは本当にトキワ荘の方の鈴木伸一さんとほんのちょこっとお話できた時の記憶。あれはまだ自分がテレコムにいた頃、小田部羊一先生からとある(というより正式名忘れました、スミマセン)展覧会に招待していただいて会場に向かった時の事。その会場から出て帰る(?)鈴木伸一さんが見えるじゃないですか! お顔は写真などでよく拝見していたのですぐ分かり興奮して声をかけたら、
と大変気さくに会場の中の事などを話してくださって感激でした。とにかく俺にとっては有名なアニメクリエイターというより、小学校の頃から知ってる「ラーメン大好き小池さん」、つまりマンガの中の人でしたから。当然こんなニアミス(?)話、ご本人はもうお忘れかと思いますが、自分には忘れられない出来事でした。ちなみにこの時の展覧会は小田部先生や奥山玲子先生、羽根章悦さん、白川大作さんと言った元・東映系の方々の画がズラリと並んだ内容のものでした。
で、やっと藤子・F・不二雄(藤本弘)先生の作品について!
です。ここまでA先生の話(主に『猿』でしたが)ばかりでしたが、別にF先生の作品が嫌いな事はまったくなく、むしろ大好きです。ネタの豊富さや膨大な物量を少ないページ数に見事に収めるストーリーテリング、そして絵の可愛さ——どれをとっても手塚治虫先生にひけをとらない大天才などと、俺などが説明するまでもない事はファンの方なら誰でもご承知のとおりかと思います。
でも! でもなのです。自分の生理ではどーしても馴染めない
んです。これはもちろん作品の面白い、面白くないじゃないんです。だって、F作品は文句なく面白いですから。じゃ、「何が?」と訊かれれば、それはドラマ・物語のかなり重要な部分に常に「超常現象」が絡んでるからだと思います。例えば「あんな事、こんな事できたらな〜」に対して必ず未来の道具や力が何千倍になる不思議なマスクやいきなりどっかから降ってわいた超能力が解決の糸口を握ってるんです。しかもハッピーエンドが多い。これってつまり
「不思議な出来事を信じる人」が「夢がある人」で、「科学を信じる人」は「夢がない人」
という80年代の考え方に思えるし、自分にも憶えがあります。特に幼稚園や小学校低学年の頃はなどは未来から猫型ロボットがやって来るに違いないと思ってました。そう思わないと「夢のない子だ」と思われそうでしたから。でも小学校高学年から中学に入ると「あれ? ここで描かれてるのは真実なのかな?」とF作品を観て思い始めたんです。確かに「マンガとして面白くできてる」、しかし「こういう不思議な力によってオチがつくって本当?」と。しかも実際90年代に入ると時代的にもパソコンや携帯や3Dゲームと、超常現象やオカルトとかより科学の方がずっと皆の夢を叶えてくれるようになり、2000年に入ると「科学を信じる」事の方が「夢がある」時代へと突入しました。なので自分もF作品をどんどん読まなくなっていき、それに対してA先生の作品は「魔太郎がくる!」で「うらみ念法〜」とかいって一見「超常現象」的なものを使っても、決して安易にハッピーへと繋げる事なく、むしろ現実社会の闇の部分を浮き彫りにするように仕組まれてる感じがして今もたまに読み返せるんです。結局、
どこか浮世離れしたとこが魅力のF作品に対し、いたって現実の人間の闇を描いたA作品。そして「超能力で空を飛び人々に幸せをもたらす少女」の物語もあれば「木の根っこ1本で夢を勝ち取る少年」の物語も描く——まさに「光」と「影」が自分にとっての藤子不二雄で、どーしても分離しては考えられない!
わけでした。でもやっぱりお2人とも天才ですよね。いろいろ書きましたがすべて板垣の私見ですのでご容赦ください。
と、そうこうしてるうちに自分がコンテ切った『ウルヴァリン』第9話が3月4日(金)ANIMAXにて放映されます。『戦国BASARA弐』『パンスト』と同時進行でキツかったアレです。今回は演出処理までやってないので、どんな感じになってるのか知りません(この原稿書いてる時点では完パケした白箱もらえてないので)。
あ、前半のバイクシーンのアクションを27カット原画描きました!
のでよかったら観てください。来週もう少し詳しく書きますので〜。
(11.03.03)