板垣伸のいきあたりバッタリ!

第215回
1990年代の出崎アニメ

 先週、自分の周りの友人たちから「出崎統監督逝去」のメールを何件かもらいました。中には「お悔やみ申し上げます」的なものも。でも俺の場合、出崎監督ご本人に関する思い出は3回ほど「遠くからお見かけした」程度しかなく(前回第214回参照)、面識もありません。なのにそのようなメールが届くくらい自分の出崎信者ぶりは友人たちに浸透してるんでしょう。ま、俺にとっては光栄な話ですが……。
 それにしてもこのアニメ業界、ホントに

出崎アニメファンが多い!

んですよ。特に『宝島』、劇場『エースをねらえ!』『ベルサイユのばら』『あしたのジョー2』あたりはもうテッパン! 逆にそれらが嫌いな人に会った事がないくらいです。ところが、俺がアニメ業界に入った(つまりテレコムに就職した1994年)頃、周りの先輩たちに出崎作品の話をすると「最近の作品はどうも……」な反応が返ってきたのを憶えてますし、テレコム辞めた後も同様な方に何人か出会いました。そこで、誰もが認め語るであろう1970〜1980年前半ではない出崎作品について想いをよせてみたいと思います。
 まずは出崎ファンなら誰もがご存知の年譜かと思いますが、出崎さんは『ゴルゴ13』(劇場・1983年)の後、『エースをねらえ!2』(1998年・OVA)以前、当時東京ムービー新社が力を注いでいた海外との合作に活躍の場を移した5年間(『MIGHTY ORBOTS』や『Bionic Six』など)というのがあり、その時の作品は一般のファンの目に触れにくく、板垣もテレコムのビデオライブラリーで観たくらいで「とにかくどれも破格の動画枚数で動きまくってる!」という印象でした。で、それらについては今回は割愛させてもらいます。だっていくら紹介しても今現在観返すのはかなり困難ですから。そこでまずは合作以外の1980年後半の作品は以下のとおり。

『エースをねらえ!2』(1998年・OVA、役職は「総監修」)
『1ポンドの福音』(1998年・OVA、さきまくら名義)
『華星夜曲』(1998年・OVA)
『ルパン三世 バイバイ・リバティー危機一発!』
(1989年・TVスペシャル)
『エースをねらえ! ファイナルステージ』(1989〜1990年・OVA)

 凄い量ですね! アニメなので図らずも発表年が重なっただけで、その1〜2年前から制作開始されてた作品があるにしても『エースをねらえ!2』以外はほぼ全話(『エースをねらえ! ファイナルステージ』は全話12話中10本コンテ!)って(汗)。『エースをねらえ!2』『1ポンドの福音』『華星夜曲』に関しては「もっとアニメを観よう2011」を見てください。『ルパン三世 バイバイ・リバティー危機一発!』は、正直予想してた出崎ルパンとは違ってましたが、なんて言うんでしょう? 「まぁ、こーゆーのもアリかな」と。このあたりから画面にスピード感を出すための撮影処理による「ボカシ」が頻繁に使われるようになり、『宝島』や『ジョー2』などで使ってたデルマや筆タッチよりスマートな空気感を出してて「あ〜、これも時代だなあ〜」と思ったりもしました。そして『エース! ファイナル』はスケジュールがキツかったのか、作画は多少荒れ気味(作監が杉野さんじゃないですしね)ですが、ドラマ面は出崎さんのほぼ全話コンテによるオリジナルストーリーで、観応え十分です。宗方の死をのり越えた岡ひろみでできるドラマは藤堂とのラブストーリーしかないんですね。でもそのラブラブの横で崩壊してゆくお喋夫人は涙なくしては観られませんでした。当時中3〜高1だった自分にとって、『華星夜曲』と『エース! ファイナル』は大人の女性の情念のドラマを観た感じで、特に『華星夜曲』はふたつ上の姉も夢中になって観てました。ただ姉はラスト、激怒してましたが(苦笑)。でも俺は好きです、あのラスト。続いて1990年代の作品は以下です。

『B.B』(1990〜91年・OVA)
『ルパン三世 ヘミングウェイ・ペーパーの謎』
(1990年・TVスペシャル)
『修羅之介斬魔劍』(1990年・OVA)
『創竜伝』(1991年・OVA、#1〜3のみ)
『おにいさまへ…』(1991〜92年・TVシリーズ)
『ルパン三世 ナポレオンの辞書を奪え』
(1991年・TVスペシャル、監修)
『宝島メモリアル 夕凪と呼ばれた男』(1992年・OVA)
『ルパン三世 ロシアより愛をこめて』(1992年・TVスペシャル)
『ブラック.ジャック』(1993〜2000年、不定期発売)
『ルパン三世 ハリマオの財宝を追え!!』(1995年)
『孔子傳』(1995年・TVスペシャル)
『BLACK JACK』(劇場・1996年)
『手塚治虫の旧約聖書物語 In The Beginning』
(1997年・TVシリーズ)
『白鯨伝説』(1997・1999、一度打ち切り、そして再開)
『ゴルゴ13 “QUEEN BEE”』(1998年・OVA)

 これも凄過ぎでしょ!? いったいいつ寝てたんでしょう? まず、コンテマンや演出家を名乗る者ならば、その仕事量に感嘆するべきです。そしてこの1990年代の作品群ではどちらかというとエンタテインメント性に富んだ作品の方が自分は好きで、例えば『B.B』! 1990年の時点で意外にも出崎監督にとってはかな〜り久しぶりの「少年マンガ原作のアニメ化」ではないでしょうか? 石渡治先生の原作もすべて読んでOVAの発売を持ち詫びました。当時のOVA専門誌(あったんです!)などでは「『あしたのジョー』『あしたのジョー2』に続く出崎&杉野コンビボクシング巨篇第3弾!」とあおられてました。そこに発表されてたキャラ表はとっても杉野キャラで、下まつ毛までバッチリ描かれてて、メチャクチャかっこよく「これが出崎さんのコンテで動く!」と思ったらワクワクで学校の授業どころではないくらいでした。で本編はというと、まず発売が5ヶ月ズレました(ズレる前の宣伝ポスター持ってるので間違いありません)。その分、1巻の仕上がりは大満足でした! 杉野さんの画は原作を上回る重厚さで、出崎さんのコンテも『ジョー2』の頃よりもさらに一発一発のパンチの見せ方が凝ってて、主にいつもの止め画(ハーモニー処理)なんですが、B.Bの目にまるで『AKIRA』のバイクのテールランプのように尾を引く赤い透過光のせてビューンとやってみたり、ライバル・森山仁がB.Bにとどめを刺すパンチが胸にヒットしててマジで苦しそうだったりと。あと1巻だけ、キャラのカゲ線(ノーマル部分とカゲ部分の境界線)が実線になってましたね。2巻はカゲ線は色トレスになったけど、森山のいるボクシング部にバットでガラス割って飛び込むB.B——その際、物理的な時間を想いっきりウソついてB.Bが着地した後に一斉に飛び散るガラスの破片がカッコよかったし、「これがアニメのタイミングだ!」と痺れたもんです。あと「花火」の演出ですね。いや、出崎作品は時代順に並べるとその時期その時期で作品を跨いで同じ演出・表現手法が使われています。例えば1990年前後は『ルパン三世 バイバイ・リバティー』『華星夜曲』と『B.B』、すべて「花火」が上がるので「ニヤリ」とさせられます。あ、2巻は森山がチンピラを叩きのめすシーンのバックで工事現場の巨大な杭打ち機がドゴーン! ドゴーン! と鳴ってる演出も素晴らしい! これは原作になかった描写で、ササッとこーゆー画をコンテに描けるのがやっぱり天才なんですよ、出崎さんは。で、3巻は、作画が少々荒れてますが、やっぱり森山のゲロは透過光でこれまた「ニヤリ」! そして『B.B』は残念ながら3巻までで中断したまま現在に至ってます。当時のOVA事情に詳しくないので、続きが出ない理由は知りませんし、俺個人としては出崎監督以外の人に続きを作ってもらいたくもありません。ただ、せめて未完のままでもDVDまたはBD化してほしい! それが『B.B』です。あのスケールの大きな原作が出崎&杉野コンビで最後までアニメ化されていたら……と思うと残念でなりません。ちなみに『修羅之介斬魔劍』も未完ですが、こちらは東映様よりDVD化されています。でも『修羅之介」で最も気になるのは——

(11.04.28)