板垣伸のいきあたりバッタリ!

第216回
1990年代の出崎アニメ(2)

(前回からの続き)

でも『修羅之介斬魔劍』で気になるのは、冒頭の白虎を斬るシーンで「腹から横に(輪切りっぽく)」斬ってたトコです!

鳴海丈先生の原作では鼻の先から尻まで(縦に)真っ二つに斬ってて、その「死鎌紋の男(修羅之介)が斬った白虎の頭蓋骨の斬れ目」を見た宮本武蔵が「この男と勝負せねばならん!」という流れになり修羅之介対武蔵が実現するはずなのに、アニメ版では腹から真っ二つにしてたから頭蓋骨は割れていないんです。もし、続きが制作されてたらどうなってたのか? と不安でもあり楽しみでもありました。そして田中芳樹先生原作の「創竜伝」のアニメ化はまったくの不意打ち……寝耳に水。アニメ誌でチラシ見た時「ウソでしょ!?」と。だって当時『おにいさまへ…』という大作が3クール(全39話)と発表されてたのに「毎巻45分に月刊ビデオ」って、当時高校生で素人だった自分から見てもスケジュール的に厳しく思えたもので、その仕上がりはというと案の定——と言うと失礼かもしれませんが、作画はやや雑でした。でもやっぱり出崎コンテ! 画の流れはカッコよく、3巻のラストのたたみかけ方など、少ない動きが逆にテンポを倍増させてて「ベテラン演出家のカット割り」の貫禄を感じました。あと1巻のみの小林七郎美術は、少ない筆致でありつつもリアルでアートで素晴らしいです。で、残念ながら出崎『創竜伝』は1〜3巻まで(4巻以降は別の監督になります)で、最後の3巻は1ヶ月発売延期したところをみると……事情がいろいろあったんでしょう。『ルパン三世 ナポレオンの辞書を奪え』はあくまで「監修」。コンテも切られてないところで自分としては「出崎ルパン」と認識し難く。次の『ルパン三世 ロシアより愛をこめて』も作画が残念。コンテ的には他のどの「出崎ルパン」よりも元気な感じで、オープニングなどは「そんなに図書館で暴れなくても……」と呆れるくらい変なテンションで個人的には好きでしたし、ラストの金塊をゴッソリ奪い取っていくあたりや、五右ェ門がいつも以上にバカだったのも笑いました。1995年の『ルパン三世 ハリマオの財宝を追え!!』は作画も撮影も良! が、俺がいちばん好きな「出崎ルパン」は『ルパン三世 ヘミングウェイ・ペーパーの謎』だって事は「もっとアニメを観よう2011」のとおりです。その他、『おにいさまへ…』や『宝島メモリアル』や『ブラック.ジャック』なども「もっとアニメを観よう」で語ったと思います。
 じゃ『孔子傳』。「孔子をTVスペシャル1本でアニメ化なんて大丈夫か!?」という不安をよそに全編出崎節の良作に仕上がってます。いつもの止め画(ハーモニー処理)も毛筆タッチになってたり、孔子役が風間杜夫だったり。DVD化してほしいものです。
 いよいよ『白鯨伝説』! これはハラハラものでした。まず個人的に出崎監督のオリジナル。観たくないはずないじゃないですか! ところが、何しろ宇宙を浮遊してる廃宇宙船を「鯨」と呼ぶのは面白いけど、やっぱり暴れもしない船を鯨に見立てる表現が上手くいってない感が否めず、どうしても入り込めなかったんです。しかもたび重なる総編集を挟み、ついに打ち切り・制作中断となった時はさすがの自分も苦笑してしましました。やはり「オリジナルものの全話コンテは難しかったのか?」とか。ところが後半を手塚プロダクションで制作再開、約1年半後、最後まで放送された時はやっぱり嬉しかったです。で、その手塚プロ班に移ってからは杉野昭夫作監の話数も2本ほどあり、作画・撮影ともにクオリティ高く、ドラマも最後に向けてどんどんテンションが高くなっていき、俺の意識も変わっていきました。

いいじゃん、『白鯨伝説』!!

 前半で抱いた「宇宙船=鯨?」の違和感は消えなかったものの、エイハブ船長とデュウの友情、デュウとセイラの恋愛と、この不思議なSF世界ならではのドラマがちゃんと成立してて、ちゃんと感動させてくれました。もちろんDVD-BOX持ってますが、このBOX、出崎監督自らがBOXを含む全ジャケットを描いてるのがたまりません! 家宝です。
 あと『ゴルゴ13 “QUEEN BEE”』。1983年の劇場版『ゴルゴ13』から15年経てのOVAで、制作が手塚プロダクションのせいか同時期同プロで制作してた『ブラック.ジャック』に雰囲気的に似てます。しかも、オーディオコメンタリーで出崎監督が仰るとおり、BJもゴルゴもアンダーグラウンドの神様。その神様に傷を負わせ苦悩させる出崎さん。こちらのゴルゴも始まって20分で瀕死。原作の決まり事なぞなんのその! な強引なドラマ展開に釘づけになりました。勝生真沙子演じるソニア(クイーン・ビー)がとにかくカッコいい女性です。——てところで時間切れ。

(11.05.12)