板垣伸のいきあたりバッタリ!

第252回
『ベン・トー』の話(10)

 前々回(第250回)からの続き。というわけで、#08のコンテは#04の津田尚克君で、アクション多めの#04より全編コメディ(ていうかコント)の#08の方がやりやすかったようです。とにかくコンテの直しはかなり少なくて、所々アングルを変えた程度(例えば佐藤の股間ナメで逃げる沢桔姉とか)。特に病室に何度も入れ替わりやってくる沢桔姉妹のシーンで、回を重ねるごとに段取りを省いて加速していき、ついにはいきなり腹を殴る——あたりは「笑い」がよく分かってる人でないとできない技です。#04同様山田(由香)さんのシナリオだったのもやりやすかったのかも……ってトコで津田君は自らの監督作のため、今回はコンテのみ。演出処理は宗廣智行さんで、非っ常ーに丁寧な演出チェックで驚きました。レイアウトの修正から演技指示、実に的確! 完成フィルムのあのクオリティの高さは確実に演出チェックの密度の高さに比例したものです。そして、それに画を入れまくってくださった永吉隆志さん、栗原基彦さんも本当にいい仕事でした。特にアゼータ・ピクチャーズで一緒だった栗原君とは8年ぶり(?)の再会で感慨深かったです。  #09は「あせびと白梅の話にしよう!」と。もう最終回まで放映されたのでバラしますが、要するに

#10、#11、#12であせびと白梅が物語に絡んでない!

からです。「絡ませようがない」とも言えます。で、「じゃあ最終回の後に番外編で」となるとそれこそ位置づけ不明な話になっちゃう……。あの最終回のラストシーンは、このあたりのホン読み(シナリオ打ち)ですでに自分の頭の中にあったので、「あのラストシーンの後にあせびと白梅の話でもないでしょー」というわけです。

なるべく各キャラ、それぞれのファンのために見せ場を作る

のが自分の主義だし、あせびや白梅だからこそ成立するストーリーだとも思い、ああなりました。脚本は#07と同じヤスカワショウゴさん。今回俺の方から提示した発注内容は、「あせび編・白梅編それぞれにちゃんとオチを作ってください」って事でした。それがまたとても楽しいホンになってきて、#07同様大笑いのホン読みだったんです。そして、コンテ・演出は向井雅浩さん。これの前まで某アニメ会社の作品に携わってたせいか、その某アニメ会社作品っぽさが若干残ってるのはご愛嬌。ただ、ぶっちぎりのカット数——400カットで上がってきたので60〜70カットほど削らせてもらいはしたものの、内容的には向井さんのフィルムに仕上がって、これも監督としては大満足でした。あせび編の「味覚のゲシュタルト崩壊弁当」を食べる際の佐藤・白粉のリアクションや、白梅編のラスト、雑誌で殴られる佐藤のあたりは最高すね! こーゆー遊び話はアフレコ現場でもウケがいいもんで、役者の皆さんも凄く楽しそうに演じてくださいました。
 で、まあ#10〜12の話は次回にして、こぼれ話(?)をいくつか。


「ちくわ」

本作のあちこちで「ちくわ、ちくわ〜」と言ってるのは前述のように板垣の好物がちくわだからなんですが、もともとは自分でホンを書いた#01のみのつもりだったんです。ところが……たしか#04のアフレコの時だったでしょうか? 原作者・アサウラ先生が振り返り——

……と、本編のガヤ(モブなどの会話)で「ちくわ」をネタにしようと言い出したのです。最初こそ抵抗があったものの、回を重ねるうちに「なるほど〜」と思うようになりました。つまり「ネタは最後までイジリ倒した方が面白い」と。さすが作家の先生ですね。とても勉強になり、最終回まで「ちくわ、ちくわ」と言い続けるシリーズになったわけです。


田村さんと堀江さん

沢桔姉妹役は田村ゆかりさんと堀江由衣さん。これは実にあっさりと音響監督・明田川仁さんの

との一言で決まりました。自分の方もそのお二人でやってもらえるなら何も異論はなく、たぶんハマると思ってました。ただただひとつ残念なのはキャラソンが実現しなかった事です。じゃ、せめてオルトロスが加わった新OPでも作ろうと、歌詞も2番にして#10、#11でリニューアルしたのでした。ちなみに新OPでの最初の差し替えカット(姉妹がハイタッチをして決めポーズ)は俺が描いたんですが、気分としては『ベン・トー』ファミリー(?)に2人を迎え入れる気持ちで楽しく描きました。

 って話など、また来週!

(12.02.02)