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COLUMN
板垣伸のいきあたりバッタリ! 第134回
アニメーター魂……もう一度

 初めに断っておきますが、

 今回はイラストなし! です。

 で、本題。先日、アニドウ・なみきたかし様の計らいで

「金田伊功を送る会」

 に行ってきました。実を言うと、本当は行くつもりなかったから、マッドハウスでも申し込まなかったのです。なぜか? それは、仕事をご一緒した事もないし、プライベートでも特に親しくしていただいたわけでもないから、ただ単に遠慮していたんです。以前この連載でも書いたように、一度は友永さんのおかげで一緒に飲みに行かせてはいただきましたが、その程度の自分が限りのある席に腰を下ろしてよいものか? ズーズーしいんじゃないか? と思ってたわけ……。
 ところが畏れ多くも「金田さんについて勝手に書かせてもらったコラム」を見て、なみきさんがチケットを送ってくださったんです――これは行かなくては! と。

 で、やっぱり行ってよかったです。ありがとうございました、なみきさん!

 いや、思った以上に自分にとっては衝撃的な会でした。やや大げさに言うと、

 板垣のアニメーター魂がもう一度目覚めてしまった(かも)!

 以前も似たような事ココで書いたと思うんですが、自分がアニメを始めたのはあくまで“演出がやりたいから”で、“アニメーターは通過点”のつもりでした。20代の時はよく言ってたモンです。

「30歳になったら俺、アニメーター引退するから!」

 ――と。それは決してアニメーターを馬鹿にしてるんじゃなく、不器用な自分が演出を本気でやろうと思ったら、

 意識的に「原画」とか、「アニメーター」と距離をとる必要があった

 んです。なぜなら、

「原画」って仕事は面白すぎるからです

 もしかすると、アニメの……いや、世の中の仕事の中で一番面白いんじゃないでしょうか? つまり俺、よせばいいのに死ぬほど演出をやりたかったくせに、アニメーターになって原画の面白さを知っちゃったんです。……大して巧くもないのに。だから、テレコムを辞めて演出やるようになってからは、確信犯的に原画にのめり込まないようにしてました。なるべくカット数をとらないようにするとか。
 それと、原画にのめり込まないようにしてた決定的な問題がもうひとつ。それは、

 生涯の生産尺数

 手の遅い自分はついついコレに拘ってしまいます。単純な話、

 画をいっぱい描きたいんじゃなく、フィルムをいっぱい作りたいんです!

 これまたアニメーターを馬鹿にしてるんじゃありません。アニメーターにとって最も重要な素養って何だと思います? 画力は二の次。本当に一番必要なのは、

 辛抱、忍耐、我慢

 ……とか、そんなものです。特に現代のアニメ作りって、原画マンが描いた画の上に何枚も何枚も演出チェックやら作監チェック、総作監チェック……ついには監督チェックまで入って、やっとレイアウト(ラフ原)作業が終わり。そりゃ、自分の画の上に人の画がバッシバッシのっかっても挫けない性格でなければ、その後何週間(劇場作品ともなると何ヶ月)も続く原画(レイアウトの清書)作業に耐えられません。それで、

 1ヶ月で生産できる尺は数分……

 画をいっぱい描きたい、動かしたいんならそれで充分でしょうが、画よりフィルムをたくさん作りたい自分にとって、その年の仕事がたった数分のショートフィルムやオープニングだけ、ってのは耐えられないんです。だ・か・ら、コンテ・演出や監督をメインにして、原画はその傍らで数カット楽しむ。
 その板垣が「金田伊功を送る会」で金田フィルムを観て――

「そうか……。アニメーターもこれほど人々に感動をあたえる事ができるんじゃないか!」

 と思えたんです。「まだまだ、アニメーターって捨てたモンじゃない!」と……。数回前にも書いたように、もっと原画を描こうと思ってたトコだっただけに、「送る会」での金田フィルムは、そんな自分の背中を押してくださってるようでした。生産尺数に拘る板垣が演出したフィルムより、金田さんの描いた数分の原画の方がよっぽど大勢の観客を喜ばせる力があると思ったし、俺が監督した数本のTVシリーズより、金田さんの作ったオープニングの方が歴史に残り続けると思え……。

 たかが、尺の長さに拘ってた自分が情けなかったです、本当に

 要するに、

 アニメは尺の長い短いでなく、込める「魂」の問題なんだ!――と。
 こんな当たり前の事に今さら気づかせてもらいました。
 ありがとう金田さん!!

 あと、氷川(竜介)様もおっしゃってた、

「アニメーター」って役職を世に知らしめた金田さんの功績

 は本当に大きいと自分は今でも実感します。別にビカリやパースなテクニカル話ではありません。これも「魂」な話。普通、カリスマなアニメーターはその巧さのみが取り沙汰されるんですが、金田さんの場合、巧さだけでなく、茶目っ気とかも混ざってるんです。いや、はっきり言って現在のアニメ技術面から見ると明らかに失敗してるところも多々あります。しかしそれが異様にチャーミングで楽しく面白く映るのはなぜでしょう、金田さんの場合。むしろその大らかさが、自分みたいな凡人アニメーターにも夢を与えてくれてるようにすら感じられます。金田さんの後輩の飯島正勝先生(小田部先生同様、学生の頃の自分の先生)も言ってました、

「金田さんは太陽みたいな人だった」と。
 太陽であるからこそ、天才やカリスマだけでなく、俺みたいな凡庸なアニメーターにも同じように光を浴びせてくれるんだと思います

 たぶん日本のアニメ業界の、特に今の30代後半〜40代の人たちには、金田さんがいたからアニメに興味をもった人がたくさんいて、金田さんがいたからアニメーターになった人がたくさんいて、「金田さんと同じ仕事をしてるんだ!」という誇りで今日まで原画を描き続けられたという人たちがいっぱいいるに違いありません。だって、金田さんは太陽なんだから、必ずしも一緒に仕事した事ある人だけがその恩恵を受けたわけではないのです。
 ――全然まとまってないけどムリヤリ総括。

 自分にとって金田さんは、「一度仕事でご一緒したかった」という口惜しさはあるものの、逆に、「地上の人と太陽の距離感」ってのもまた違った魅力的な関わり方だったと思いつつ、今すぐ力いっぱい原画を描きたくなったので、今回はイラストなしで!!(なんだ、このまとめ?)



(09.09.03)

 
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