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あの声、あのキャラ、あの作品
肝付兼太と『ギャートルズ』(1)
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『はじめ人間 ギャートルズ』DVDBOX解説書のため、肝付兼太の取材へ行ってきた。彼はこの作品で、もうひとりの主人公ともいえる、ゴンのとうちゃんを演じているのだ。他の作品についても、少しだけ伺うつもりだったのだが、肝付さんのお話はサービス満点。次々と今までのお仕事の秘話が飛び出した。それは解説書にはとても載せきれない分量で、このお話を埋もれさせるのは、あまりに勿体ない。そこで、バンダイビジュアルさんに許可をいただき、取材の一部をここに掲載できる事となった。じっくりとお読みください(ちなみに『ドラえもん』の話を全然聞いていないのは、今まであちこちで話されていると思ったからだ。あしからず)。
●2005年6月28日
取材場所/東京ムービー
取材・構成/小黒祐一郎
協力/バンダイビジュアル、トムス・エンタテインメント
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PROFILE 肝付兼太
1935年11月15日生まれ、鹿児島県出身。『ドラえもん』の骨川スネ夫(先代)をはじめ、数々の藤子アニメに出演。『ドカベン』の殿馬、『おそ松くん』のイヤミ、『それいけ! アンパンマン』のホラーマンと、代表作を挙げればきりがない。数々のユニークなキャラクターを演じ続けている名バイプレーヤーである。現在は劇団21世紀FOXを主宰。
【主要出演作品リスト】 |
―― 今日は『ギャートルズ』の話を中心に、他のお仕事の話もうかがえればと思います。肝付さんは、『オバケのQ太郎[第1作]』が初レギュラーになるんですか。
肝付 初めてのレギュラーが『オバQ』になります。その時は、藤子不二雄先生の作品という事で嬉しかったし、ちょっと緊張しました。で、この(編集部が作った肝付さんの作品リストを指して)1966年の劇場作品「汚辱の女」というのは成人映画なんですよ。
―― そうなんですか!? 実写の?
肝付 そうなんですよ。で、僕はそういうものは苦手だったんですけど、その頃、Yさんというディレクターがいて、その方は成人映画の監督もやってたらしいんです。
―― 音響の方が、ポルノをやられていたんですか。
肝付 ええ。音響監督と、それからポルノの監督も。「1カットだけ、ちょっと出てみる? ベッドシーンなんかないから」とか言われて。「面白そうだな」と思って行ったんですよ。どこだったかなあ、五反田の方のアパートだったかな。そしたら、ベッドシーンなんですよ。マズイったらありゃしない。やった事もないしね。その時の女優さんが、後にポルノの大女優になる方でね。それがちょうどデビュー作品だったらしいんです。
―― それは大変でしたね(笑)。
肝付 なんたって、凄いナイスバディで、それに圧倒されて。監督に色々言われながらね、「約束と違うじゃないか」なんて言いながら、撮り終えたんです。それで誰か知り合いに観られなきゃいいけどな、と思って(映画が公開した後に)スタジオに行くと誰も観てない、何も言ってこない。「ああ、良かった」なんて思ってたら、Mさんという人がいて、この方はポルノ映画の大ファンなんですよ。
―― 大ベテランの声優さんですね。この話題は、記事に載せちゃダメですよね。
肝付 載せても大丈夫だと思うけど。気になるならイニシャルにしておいてください。で、彼が僕のそばにきてね、「みーたーよ」って(笑)。
一同 (笑)。
肝付 「やーばー」と思ってね。そういう経歴があると、やっぱり子ども番組をやっていくのが難しいですからね。後にも先にもそういった作品に出たのは、その1本だけ。でも、誰が調べているのか分からないけど、ネットで僕の作品を検索すると、ちゃーんとこれが載ってるんですよね。僕自身が忘れてたのにねえ。(リストを見て)ああ、そうだそうだ、その映画では編集長役だったんです。
―― 顔出しでの映画出演って、それだけなんですか。
肝付 この前にですね、劇団の研究生の頃に、家城巳代治という監督の「こぶしの花の咲く頃」(1956年)という映画があって、それに出た事があるんです。クレジットでいちばん最後の方に名前が出る役で、床屋の見習いの店員だった。映画に出たのはその2本です。どうも僕は、映画よりも声優という仕事に魅力を感じてたもんで、あまり映画の仕事に色気を示さなかったんですよね。(リストを読みながら)レギュラーは『オバケのQ太郎』が最初ですね。その後では『パーマン[第1作]』。『パーマン』の時は、カバオだったんですが、その後のリメイクの時は、パーマン4号をやったんですよ。『巨人の星』も出ていますね。このあいだ、何かのTV番組で『巨人の星』の1シーンをやっていたら、レギュラーでもない僕の役が出ていてね。どっかで聞いた声だなあと思ったんです(笑)。「あ、俺だ、俺だ」と思ってね。凄く懐かしかったです。(リストを読みながら)しかし、よく調べてくれて。僕もほとんど忘れていました。これ、資料に使いたいのでコピーをもらえますか。
―― どうぞ、どうぞ、お持ち下さい。映画よりも声優に魅力を感じていたという事でしたが、最初から声優志望だったんですか。肝付さんと同年輩の方だと、最初は舞台などを目指していた方が多いんじゃないですか。
肝付 僕らが育った頃というのは、TVなんかなくて、娯楽と言えばNHKのラジオだったんです。当時のラジオは、サスペンスドラマみたいなのが結構あったんですよね。で、そんなのを聴いていて「ああ、こういう仕事いいなあ」と思ったのが始まりなんです。その前は、映画俳優になりたかったんですよ。でも、子どもの頃におばあさんに「映画俳優っていうのは鼻筋が通ってないとなれないよ。時代劇で御用、御用ってやる人でも、みんな、鼻筋が通ったいい男となんだよ。お前、映画は無理だね」と言われて(笑)、それが耳に残っていて。だったら、声だけで芝居ができる声優になろう。だから、僕は最初から声優になりたいという夢をもっていたんです。
―― なるほど。
肝付 で、なるためには、どうしたらいいのか分からなくてね。あっちこっちウロチョロしてたんですが、まあ劇団で芝居の勉強をする事が、声優に繋がっていくと思って、劇団に入ったんですよ。その劇団がNHKの仕事をやっていたんで、NHKのラジオに出させてもらったりなんかしてるうちに、劇団が解散になって。もうその頃、TVが台頭し始めていて(声優が所属する)プロダクションがあっちこっちにでき始めたんです。それで、『ギャートルズ』の音響監督の千葉(耕市)さんね。あの方はTBS放送劇団にいらしたんですけど独立して仕事をするようになって、一緒に奥さんの千田(啓子)さんが(音響の)マネージャーをやっていたんです。で、そこでお世話になった。それからですね、マスコミの仕事をやるようになったのは。
―― つまり、TVの仕事が増え始めたわけですね。舞台をおやりになるのは、もっと後になるんですか
肝付 劇団にいた時から舞台はやっていたんですけど、僕は劇団に入って5年ぐらい、なぜか役につかなかったんですよね。初めて役についたのが、なんだっけなあ。確か、八木柊一郎さんっていう作家の本で「コンベヤーは止まらない」だったと思います。チャップリンの「モダン・タイムス」を芝居にしたような感じのものでね。だけど、すぐに劇団が解散しちゃったんですよ。それで、マスコミでアニメの仕事をやってみたら面白かった。当時からアドリブなんかもやらせてもらっていましたから。とにかく芝居はちょっと休んで、少しTVで頑張ってみようと思ったんです。劇団で芝居の勉強も色々して、やっぱり芝居もいいなあと思ってはいたんですよ。ですから、今は芝居もやってるんですけども。
―― じゃあ、声だけの仕事をやっている時期が10年とか20年あって、最近になって再び芝居を始めたんですか。
肝付 今年で(今の劇団で芝居をやるようになって)21年ですね。あまり言うと年がばれますけども、15年ぐらいマスコミの仕事を中心にやっていたんです。その頃は、アニメーションがどんどん増えてきましたんで、アニメの仕事をやっていましたね。
―― この『ギャートルズ』は、アニメーションの仕事を、沢山やられている頃の作品ですね。
肝付 そうなりますね。かまやつひろしさんの「♪なんにもない」でしたっけ、あの歌が玄人筋には凄く受けたんですよ(笑)。今でこそ「自然回帰だ」なんて事をよく言いますけど、あのころは自然に還ろうなんて事は、まだあまり言われていなかった。そんな時期に、園山(俊二)先生は『ギャートルズ』を描いたんですよね。先生は動物も好きだったし、お話させていただくと、必ずそういった話をされていたんですよ。
―― 『ギャートルズ』でオーディションはあったんですか。
肝付 ありました。千田さんに「こういう作品があるんだけど、オーディション受けてみませんか」と言われて。ゴン役で受けたんですよ。だけど、決まったのがオヤジの役だったんです(笑)。でも、「あ、親父。それも面白いっ!」と思ってね。『ギャートルズ』は画も、何ていうかちょっとシュールじゃないですか。それも面白いなと思っていました。放映が始まってから園山先生は、レギュラー(の声優)をご自宅に呼んでは、やれパーティだなんだてね、よくやってくれたんですよ。
―― 役柄の事もうかがいたいんですけれど。ゴンのとうちゃんについて、主役だという印象はあります?
肝付 ……そうですねえ。こういう仕事やってると、やっぱり主役って、いい気持ちですよね。で、みんなに「今回は主役ですね」なんて言われると「(芝居がかって)いやあ、そんな事ないですけどね。……いや、そうです! 主役なんですよ!!」みたいなね(笑)。
一同 (笑)。
肝付 気持ちいいんですよ。今回『ギャートルズ』の1話から7話のビデオをお借りして、久し振りに観たんですが。「親父が主役だな」というふうに、思いましたね。
―― 思いますよね。
肝付 思いました。
―― 途中から、ゴンのほうにドラマの比重が移っていくんですけど、最初はとうちゃんが主役に見えますよね。
肝付 死神が出てくる話(7話「ネツンアッチクタバリーンの巻」)なんか、ほんとに面白いですものねえ。不思議な話で、後で妙に心に残ったりする。ちょっと子どもには難しいんじゃないかなと思うぐらいで。面白いですよね。
―― ビデオで観返して、他に印象的なところがありましたか。
肝付 そうですねえ。弱肉強食の世界で、小さなものを殺して食うというのは、やっぱりちょっと抵抗があると思うんですよ。ところがマンモーというね、バカでかいやつを輪切りにして食べる。それがマンガの世界のいいところですよね。まるで嫌悪感はないし、「ああ、頑張ってマンモーと戦ったんだな」という気持ちが残る。そういう意味ではよくできたマンガですよ。それから、あのマンモーの肉って旨そうなんですよ。バームクーヘンみたいでね。
―― 『ギャートルズ』と言えば、とうちゃんのお酒の飲みっぷりも印象的ですよね。
肝付 酒と言えば、女性で凄い呑んべえな人がいたんですよ。で、あんたは、ほんとに強いよと言ったら「それは『ギャートルズ』のとうちゃんの責任だ」と。なんで? と思ったら、『ギャートルズ』で猿酒を飲んだ後に、とうちゃんが「ぷはーっ」てやるじゃないですか。子どもの頃に、あれを観て「お酒っておいしいんだろうな」と思って、それがお酒を飲み始めたきっかけだったんだそうですよ。
―― それはそれは(笑)。
肝付 だけど、僕は『ギャートルズ』をやっている時は、全然飲めなかった。恥ずかしいんですけど、15年ぐらい前から、やっと飲めるようになったんです。それまでは、飲むとぶっ倒れていたんです。でもね、酒の席は好きで、始終みんなと行ってたんですけよ。だけど、いつもコーラです。よく番組の打ち上げに行くと、一徹の加藤(精三)さん、僕、それから北村弘一さんとかは、声優では飲めないんですよ。加藤さんと僕は一緒で、何回も打ち上げの場に行ったけど。あの声で「(加藤精三の声色で)おーい、肝さん、会費は一緒で酒が飲めないのは悔しいな、何か飲もうよ」と言われた事があるんですよ。それで、「コーラくれ、コーラ」とか言ってね。(加藤さんは)10本ぐらい飲みましたよ。意地とはいえ、よく10本も飲めるなと思いましたね。第一、そんなに飲んだらゲプゲプしちゃうでしょ。そんな事もありましたよ。お酒が飲めるようになって、お酒って結構いいもんだなって思うようになりました。解放されるじゃないですか。顔も合わせられないような(偉い人と)平気で話ができたり。失礼があったとしても、「すいません」と一言謝ればいいか、なんてね。
●あの声、あのキャラ、あの作品 肝付兼太と『ギャートルズ』(2)に続く
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