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あの声、あのキャラ、あの作品
肝付兼太と『ギャートルズ』(3)


―― 肝付さんは藤子作品の出演が多いですけど、あんなに沢山出てらしたのには、何か理由があったんですか。
肝付 えーとね、特に僕は思い当たらないんですけどね。初めてのレギュラーだった『オバケのQ太郎』で、ゴジラという役を上手くできなかったんですよ。それでマネージャーの千田さんに「あなたはスタジオを出ると面白いけど、スタジオに入るとつまんないのよね」なんて言われて。
一同 (笑)。
肝付 ああ、確かにそうだなと思って。なんでだろう。気取っちゃうわけでもない、何か硬くなるのかなと思って。で、藤子先生が2人でいらした事があったんですよ。先生が来るというのを聞いて、もう開き直ったの。「適当に」と言うと言葉が悪いけど、思うとおりやってみようと。
 で、やったんですよ、アドリブとばして。そしたら、金魚鉢の中でゲラゲラみんなが笑ってるわけ。スタジオから出てきたら、千田さんも「今日の調子でやりゃあいいのよ!」と言ってくれて。「ああ、そういう事か」って、少し分かったんですよ。その時に、先生が「君、名前は?」と訊いてくれて。「肝付です」と答えたら「珍しい名前ですね。芸名?」とか、ちょっとお話ができたんです。ひょっとしたら、その時の印象が良かったのかなと思っているんです。その後、新番組が始まる時に、先生が「あの人は(キャストに)入ってる?」って訊くんだそうですよ。
―― へえ。
肝付 「あの人」というのが僕の事かと思うとね、そりゃあ、嬉しいなあと思って。だから、先生の作品というと、やるたんびに力んでやるというか。アフレコの前の日は色々考えて、みたいなところはありましたよね。やってないのは『ウメ星デンカ』ぐらいかな。あとは(藤子先生の作品には)大体全部出ていると思います。
―― 『キテレツ大百科』の勉三さんも、印象深いですよね。
肝付 原作では、すぐに終わっちゃうキャラクターなんですよ。この時も先生が「肝付さんは何をやるんですか」と言ったらしいんですよね。
―― へえ。
肝付 フジテレビのプロデューサーが「浪人の勉三です」と答えたら、「ああー、いいと思いますよ」とか言ってくれたらしいんです。そんなに登場する予定のキャラクターでなかったと思うんですが、あの脚本を書いていた雪室(俊一)さんが、なぜかあのキャラクターを気に入ってくれて、出てくる話をいっぱい書いてくれたんですよね。で、僕も、考えられるだけの事はやりました。
―― 万年浪人かと思ったら、大学に受かって浪人でなくなるし、彼女もできましたよね。
肝付 彼女ができましたね。それで不思議なのが、彼が田舎に帰る話で、普通に電車で帰った事があったんです。だから、故郷は茨城あたりなのかなあ。でも、茨城にしては、ちょっとなまりすぎるかなんて思っていたら、別の話では汽車で帰るんですよね。遠い国で母さんが待ってるとか、そんな感じで。一体、俺はどこの住人なんだ(笑)なんて、思いましたね。まあ、そういうのも面白いんですけどね。
―― なるほど。
肝付 (作品リストに掲載されたプロフィール欄を見て)僕の誕生日は、1935年11月15日なんです。1835年11月15日に生まれた人がいるんですよ。つまり、僕が生まれる100年前。超有名な人。江戸から明治に時代が変わる時です。それはね、坂本龍馬なんです。自慢にもなんないんだけど、ある時に「おっ、坂本龍馬と一緒だ」と思ったんですよ。で、あの人は命日も一緒なんですよね。
―― あ、生まれた日と亡くなった日が。
肝付 そうです。生まれたのも死んだのも11月15日。だから、僕も11月15日近辺になると「できる事なら、その日に」なんて、よくみんなに言うんですよ(笑)。
―― とんでもないですよ。まだまだ続けていただかないと。
肝付 血液型もここにあるようにAB型です。僕、自分の血液型を知らなかったんですよ。で、ある時に献血に行ったんです。昔の話で、当時は献血すると天丼が食べられる券をくれたんです。今はどうか知らないですけれど。献血して券をもらって、すぐそばの天ぷら屋に行くとね、天丼がもらえるの。それを食いたくてね(笑)。その時、何型ですかって聞かれるから、「いやあO型じゃないですかねえ。よく分かんないけど」「え、分かんないんですか」「ええ」。それで、献血の人が調べてくれて。「あんた、AB型ですよ」って。そこで初めて自分の血液型が分かったの。そんな事ありましたね。……で、『ギャートルズ』の話をもう少ししないと(笑)。
一同 (笑)。
―― いや、もう大丈夫ですよ。
肝付 充分ですか。
―― はい。ちょっとファン的に訊いておきたい事があるんですけれど。声のお仕事の中では、アニメが多かったんですか。
肝付 もう圧倒的にアニメーションですね。
―― 洋画とかはそんなには。
肝付 洋画も一時期はやっていました。ジェリー・ルイスという役者がいましたよね。その吹き替えは何本かやってます。それから外国マンガでは、ドナルドをやっています。初代が坊屋三郎さん、2代目が藤岡琢也さん。3代目が僕なんです。
―― 濃い歴史ですね。
肝付 で、今は山寺(宏一)君がやっている。彼のドナルドはね、原音より上手いくらいですよ。昔は海外のマンガも多かったですよ。ハンナ&バーベラのマンガとか、ウォルト・ディズニーのマンガなんかは、結構やりましたよね。当時はアニメなんてそれくらいしかなかったですから。振り返ってみると、やっぱり洋画よりもアニメーションの方が圧倒的に多かったですね。で、やっていても、アニメーションの方が、面白いんですよね。画が芝居をしてくれているというのはあるんですが、声については自分で作っていく楽しさがあるでしょ。洋画の吹き替えの場合には、想像する部分というか、創作する部分が少ないというか。でも、洋画を多くやってる人の中には、マンガは苦手だっていう人もいますけどね。
 ちょっと話は変わりますが、声優の仕事というのは、これは影の仕事なんです。キャラクターがあって美男美女だったり、可愛いかったりするじゃないですか。だけど、声優は絶対に姿を見せちゃいけない。というのは、やっぱり、子どもがキャラクターを見た時に、それを演じている声優を思い浮かべちゃうと、やっぱりつらいじゃないですか。だから、声優は姿を見せないのが建前だった。ところが、アニメの人気が出てきて、女の子に受けるようなキャラクターが出てきた時にね、どうしても、あの声の人が見たい、会いたいという事になって、そこから第1次声優ブームというのが始まってね。第1次の時に御三家と言われたのが、富山敬、井上真樹夫、神谷明。それを聞いた時に「えー」っと疑いましたよ。「そんな人気あんのー」って。
―― (笑)。
肝付 神谷明がイベントをやると聞いたので「行っていいかい」と言って、見に行ったんです。それで「ああ、すげー」と思った。女の子ばっかり、ギャンギャンギャンギャン。「ビートルズ以来だよ、こりゃあ」みたいな(笑)。今でも人気のある声優さんは、仕事を離れてイベントやったりしても、人が集まりますよね。
―― 神谷さんのイベントというのは『ドカベン』の時ですか。
肝付 そうだったかなあ。『(勇者)ライディーン』じゃないかな。『ライディーン』も人気ありましたからね。
―― 前にご本人に話をうかがった時に『ドカベン』で里中をやった時が、いちばんファンレターが多かったと言われていましたよ。
肝付 うん。里中も人気がありましたからね。あの時に、岩鬼をやった玄田(哲章)君。彼はあれがデビュー作なんです。
―― 『ドカベン』の配役は、名キャスティングですよね。あそこから大勢の名優が生まれましたものね。
肝付 そう、あの時は、千葉繁君も番組レギュラーだったの。でも、彼は熱心でね。名前なんかない役でも、内容をよく見て自分で台詞作って、面白い事を言うんですよ。すると金魚鉢の中で「今の誰?」なんて声が上がって。そのうちに役がついて、レギュラーになっちゃった。ああいうのをね、今の若い声優さんはお手本にしたらいいと思う。
―― 『ドカベン』と言えば、肝付さんの殿馬(一人)ですよね。
肝付 殿馬はね、最初、どうやって台詞にすりゃいいんだと思いました。台本に「づらづら」って書いてあるんですよ。「づら」っていうのはどういう事なのか。で、ディレクターに、これどういうふうにやればいいんですか、と訊いたら、「いやあ、これは感性の問題で、感覚的なもんだから、どうやってもいいんじゃないですか」とか。僕は子どもの頃、山梨に疎開した事があるんです。で、山梨はづら弁なんですよ。しかも「づら」という言葉に色んなニュアンスがあった。「あ、あれでやろう」と思ってやったの。そしたら、「おー、それでいい」と言われて。
 アニメが終わって随分経ってから、原作の「プロ野球編」で殿馬がオリックスに入ったんですよ。ドラフト5位で。そんな事があって、オリックス球団から、一回グリーンスタジアムに試合の解説で来てくれないかと言われたんです。殿馬はうちの球団にドラフト5位で入った事になっている。あの殿馬の振り子打法は、イチローなんかも真似したんだ、と言ってくれて。それでグリーンスタジアムに行ったんですよ。若菜(嘉晴)さんという阪神のキャッチャーやってた人がメイン解説で、僕はゲスト解説。相手は王(貞治)さんが監督のダイエーで、今日勝つとオリックスが首位に立つという日に行ったんですよ。で、キャラクターで解説をやってくれって。
一同 (笑)。
―― アナウンサーが「殿馬さん、これはどういうような球を狙っていけばいいでしょうねえ」と振ってくると、僕は殿馬で答えるんですよ。だけど、しまいに興奮してきてね、殿馬だか自分だか分からなくなって(笑)。若菜さんも「(殿馬の声を)聞いてましたよ」なんて言ってくれて。で、試合はオリックスが勝ったんです。
 その日の試合の前に(グラウンドに)降りてったんです。イチローは、TVの野球ニュースにつかまって、話せなかったけど、小川(博文)選手や藤井(康雄)選手が寄ってきて「ちょっと殿馬を聴かせてくださいよ、生で」とか言うんですよ。それで「じゃあ、頑張るヅラ、ホームラン打てヅラ、この」なんて言ったら、「おおー、おおー」って嬉しがってくれて。で、僕も野球帽かぶってたんで、そこにサインしてもらって。みんなのにも僕がサインをして。「これかぶって打ちますから」なんて言って。で、その日、藤井さんがホームラン打ったんですよ。それで勝ったんですよ。最後に握手して帰ってきたんですけど。そんな事もありました。その時も、声優をやっていてよかったなあと思いましたね。


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(05.07.18)

 
 
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