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『かみちゅ!』倉田英之×舛成孝二インタビュー(3)
悩んだり、人生について考えたりしない
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―― キャラクターとかは、どういうコンビネーションで作っていったんですか。
倉田 実は、ほとんど覚えてないなあ。
舛成 僕もよく覚えてないんだよなあ。
倉田 1年ちょい前なんだけど。
舛成 あ、そうか、あれだよ。企画書を出さなくてはならない時に、キャラの名前と年齢だけ書いて、で、ここからみんなで考えようか、みたいな。
倉田 そうですね。
舛成 だから、名前も(制作準備の)途中まで、ずっと「一橋ゆりえ(仮)」と書いてあった(笑)。
倉田 タイトルも「神様 お願いします」だったかな。
舛成 うん、適当に。
倉田 『女神さまっ』と『おねがい*ティーチャー』から、もってきたような(笑)。舛成さん、やる気がねえなあ。
舛成 (笑)。
倉田 あとはあれですよ。大体打ち合わせしたあとは、酒を飲みにいくので、そこでダラダラと、昔観た漫画とか昔のアニメとか昔の映画の話とか。やっぱり映画の話題が多かったですよね。
舛成 そうだよね。
倉田 もう僕たちに、今の中学生は描けませんというのが分かって、じゃあ、心の中にいる中学生をやろうという事になった時に、昔観たアイドル映画とか、その頃の話をして。
舛成 それを現代でやると、あまりにも妄想になるから、それが生息してもおかしくない年代にしようと。
―― 「生息」なんですね。
舛成 (笑)。
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▲ 3話「そんなつもりじゃなかったのに」より |
―― 最初はリアルな今の中学生を主人公にしようと思っていて、途中で切り替わる瞬間があった?
舛成 最初にネットがある時代を設定してて。まず、それをなくしていって。ノスタルジックな方向に行こうという事で、まとまっていって。
倉田 インターネットもあるような、現代に近い感じで舞台を考えてたんですけど。何か無理がある。
舛成 無理がある。自分が携帯のメールを早く打てないのに、その自分が演出をつけるキャラクターがそれをできるはずがない。じゃあ、それがない世界にいこうと。
倉田 それでナチュラルに20年ぐらい前の田舎で、みたいな。自分たちが暮らした場所に近いところがいいだろうとか。
舛成 その辺を考えてくと、携帯とか、そういうコミュニケーションの手段が少ない時代なんで、そこで僕らが本来得意としている会話術が力を発揮できるんではないかと。
倉田 女の子が下らない会話をダラダラと続けていくのを、あったかい目で見守るようなアニメーションって、できないかしらというのが、ありましたね。
舛成 そうそう。
倉田 この作品に関しては、全体的にスピードも遅くして、携帯とかもなくして、昔のリズムに戻して。悩んだり、苦しんだり、人生とは何かとか考えたり、そっちの方にはいかないだろうなあとね。悩むにしても、せいぜい「高校は、どこにいこう」くらいのところで留めておこうと。
舛成 登場人物が、塾に行ってないんですよ。
倉田 これがまた、若年層を切り捨てていく理由のひとつにもなるんですけど、10代が好きそうな、傷ついたり悩んだりみたいなものはないんです。その辺は他のアニメでも、やってくれるだろうから。で、それを作ると僕たちも作っていてもつらいし、みたいな。
舛成 ねえ。
倉田 だったら、それで統一しちゃおうと考えているうちに、世界観が固まってきた。
舛成 今、傷つく作品って人気あるのかな?
―― 主人公達が傷つく作品って『ハガレン(鋼の錬金術師)』くらいじゃないですか。『ガンダムSEED』も傷ついてたり、悩んだりしていますね。10代くらいだと、そういうの好きなんじゃないですかね。
倉田 なぜかなあ。まあ、悩みたがる時期だというのはあるんだろうね。
―― そこに人生の真実があるような気がするんですよ。
倉田 そうなんですよね。何で苦しんで見つけるんだろうか。楽しんで見つけた方がいいのに。
舛成 ねえ。
倉田 楽しんで、人生の真実に近づいていった方が、楽しいだろうと。なんて頭の悪い事を言っているんだ(笑)。作り手としては、そういうところから逃げちゃったというか、軽く飛び越えてしまったというか。
舛成 そうだね。あえて、それを命題にする必要はないんじゃないかと。
倉田 アニメって作るのが、こんな大変なんだからさ、話の中まで大変にする事はないだろうなみたいな。そういう意味では、今回は本当にひとつの世界観とひとつの価値観でまとまったな、という気がしてますね。
―― なるほど。
舛成 1、2話をオンエアした後の反応とかみて、やっぱり八百万(やおよろず)の神様という概念が薄れてるんだなあというのを感じた。「ゆりえが神様になった」。まあ唐突ですわ。そりゃ、確かに唐突なんだけど、で、街の人が神様に対してどう反応するのかというのに、凄い引っかかりを感じている人もいるみたいで。
倉田 1話に関しては、やっぱり(反応が)真っ二つに分かれると思いますよ。「それ(神様になった理由)を教えろ!」「何で(街の人は)驚かない?」みたいな。でも、そこで驚いたりしたら普通のアニメじゃん、みたいなね。
舛成 そうだね。多分、ゴールデンの枠とかで放映される番組だったら、ゆりえが神様になるところから始まるんでしょうねえ。そこからやったら、全てが段取りになっちゃって面白くないじゃない。まあ、作ってる僕らが面白くないのね。
倉田 ですね。シリーズ中盤ぐらいに、別の中学から神様の女子が転校してきたりとか。
舛成 ああー、そうなるのか。
倉田 最初の話題に戻りますけど、やっぱり主人公の役割は中学生なんですよ。神様じゃなくて。
舛成 うん。原画マンさんとか、演出さんとかと打ち合わせする時に、一番最初に「神様だという事は忘れといて下さい」と言っているんです。「中学生の子が、普通にやってて。たまーに神様として扱われて、それで困るんだよ」。そういう風に思ってくれと。
倉田 まあ、今回の作品はそっちの方が大事ですという事で。まあ、神様になっても、やっぱりテストを受けにゃあいけんのだろうなあ、みたいな。監督が監督なんで、そういう地上に足がついている、つきまくっているところを、やらないといけないなと。
―― そこが大事なところなんですね。
倉田 大事なんですよね。
舛成 いや、僕も言われれば、ケレン味のあるアクションものもやりますけど。昔は『(NG戦士)ラムネ&40』とかをやってましたからね。
倉田 舛成さん、やってましたねえ。
舛成 やってますよ。
倉田 とは言ってますけどね。アクションをやったら、きっと、今の仕事の2倍ぐらい時間がかかるんですよ。言ってしまえば、今回のタイトルは、舛成監督のリハビリ企画という事で(笑)。それで(舛成さんがやりたいものという事で)方向性が決まったのはありますよね。
舛成 うん。
―― いや、「うん」でいいんですか。
舛成 まあ、そういう感じですよね。
倉田 だから、次に何をやるかが大問題なんですよ(笑)。
―― なるほど。前から気になってるんですけど、舛成さんはTVをやるのが好きなんですね。あんなにたっぷり芝居やりたいんだったら、TVでなくてもいいだろうと思うんですが。
落越 それは「TVをやれ」と言われたからですよ。
舛成 本当にそうなんです。「TVをやれ」と言われた。
落越 まあ、TVという条件出したのは、私なんですけどね。
倉田 いや、舛成さんのフィルムの作り方は、TVでもOVAでも映画でも絶対に変わりませんよ。
舛成 これねえ、なかなか難しいんですよね。演出の考え方の話になっちゃうんですど、僕は演出がいちばん大変なのはTVだと思ってるんですよ。コンテを描くのがいちばん楽なのって劇場なんですよ。劇場作品なら作画を進めて、失敗したのが分かったらやり直す事ができる。OVAになると、完成したコンテを描かなきゃいけない。でも、枚数はかけられるから、そこそこサラサラっと描ける。でも、TVって(コンテ段階で)カッティングを全部済ましておかなくてはいけない。きちんとした原画が描けるコンテにしとかなきゃいけない。で、演出レベルは、劇場だろうがOVAだろうがTVだろうが、変わっちゃいけないんですよ。
―― 理想としては。
舛成 理想としては。そうすると、TVがいちばんつらい仕事なんですよ。演出レベルを落としていいんだったら、TVは楽ですよ。
―― 普通は落としてると思いますよ(笑)。大抵の人は自分の中で、メディアに合わせてランクをつけていると思いますけど。
舛成 うん。だから、(『かみちゅ!』で)レイアウトはちょっと(ランクを)落としてますよね。
倉田 結論としては好きなんですか、嫌いなんですか。
舛成 TV? うーん、長い事やれるのは、いいんだけどね。長いから、描けるものの量が多い。今回もそうなんですけど、1人のキャラクターを色んなシチュエーションにもっていって、遊べるじゃないですか。OVAとか劇場になると、ひとつのシチュエーションになっちゃうじゃないですか。1人のキャラがひとつの事をクリアして、終わっちゃうんで。そういう部分では、いいものは作れるかもしれないけど、キャラクターの可能性とかフィルムの可能性をどんどん削いで作る事になる。その代わり、研ぎ澄まされた一点突破みたいなものになるんだけど。TVは、研ぎ澄まされないんだけど、色んな事ができる。
倉田 今回のタイトルが、OVAや映画とかには向いてないんじゃないかなあ、という気はするんです。これがOVAだったら、どんくらいの人が観てくれるんだろうとは思いますから。放映しているのは真夜中ですけど、TVでやっていれば、録画しておいて次の朝とか観られるわけなんで。観てもらえるチャンスとしては、TVがいちばんでかいんじゃないかしらという。OVAって、今ではレンタル屋にもなかなか入りませんからね。
舛成 やっぱり『かみちゅ!』に関しては、大勢の人に観てもらいたいっていうのが大きいなあ。
●『かみちゅ!』倉田英之×舛成孝二インタビュー(4)に続く
●公式HP
http://www.aniplex.co.jp/kamichu/
●TV放送情報
テレビ朝日/毎週火曜日26:40〜
朝日放送/毎週木曜日27:01〜
名古屋テレビ/毎週水曜日27:08〜
●DVD情報
「かみちゅ!1」
ANSB-1031/カラー/本編約50分/リニアPCM(本編)、ドルビーデジタル(コメンタリー)/片面1層/16:9
※本編は、TV放映+追加カットも収録された「ディレクターズカット版」とも言うべき内容になっている
価格:5250円(税込)
発売日:2005年8月24日(全8巻・毎月リリース)
収録内容:1話「青春のいじわる」、2話「神様お願い」
音声特典:全話オーディオコメンタリー
初回特典:羽音たらく描き下ろし特製ピンナップ
発売元:アニプレックス
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(05.08.04)
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