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『バジリスク』木崎文智・千葉道徳インタビュー
第3回 スタッフ人別帖と最終回
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―― 途中で総集編があるじゃないですか(10話「神祖御諚」)。先にシナリオが全部上がっていたという事は、あの話も予定どおりなんですね。
木崎 そうです。予定どおり。
千葉 総集編は、どちらかというとプロデュースサイドの意向で。
木崎 本当は2本やるように言われてたんですよ。
千葉 最終回も総集編的にするという話もあったんです。
木崎 実は最終回の半分をバンクにする予定だったんです。
―― つまり、回想をたくさん入れるプランだったんですね。
木崎 ええ。そうしたらダメでした(笑)。それを入れると、8分強オーバーになっちゃうんですよ。で、切って切って切って。
―― 主に回想を切ったんですね。
木崎 ほとんど切りましたね。
―― 最後の決闘に至るまでが、もっとあったんですね。
木崎 実はもっと濃かったんですよ。コンテ描いている時に、この分量からいくと回想を全部やるのは無理だなと思ったんです。カッティングの時に方向を切り替えて、落としていったんです。
―― 『バジリスク』ではフィルムが上がってから、各話の音楽を作ったと聞いてますけど。どの段階でつけてるんですか?
木崎 アフレコのテイクです。でも、基本的には真っ白です。カッティングはほとんどコンテ撮かレイアウト撮。原撮が稀だったので。中川さんにそれをお渡しして、そこから曲を。
金子 中川さんがアフレコロールを見て、2、3日で曲を作って、それを効果さんに渡すという流れです。
木崎 そうです。早いんですよ。
―― という事は、ほとんど打ち込みですよね。
木崎 おそらくそうですね。
金子 ただ、生音を録ったりとか。
―― 生音は織り込む感じですか。
木崎 色んな音を重ねて厚みをつけてるとは聞きました。人の声とかも入ってるんですけど、それも何種類かの声をミックスして、厚みをつけているそうです。
―― そういった形式で、音をつけるという事についてはいかがですか。
千葉 いや、初めからよかったですよ。
木崎 中川さん自身も、いつもどおり(画面に合わせて曲をつくるスタイルで)やりたいという事でしたので、そのように毎回曲を作るかたちになりました。中川さんも思い入れたっぷりにやってくださったんです。演出的な視点で曲をつけて、キャラの心情とシンクロさせて盛り上げてくれたりとか。心情の変化について、音楽で伏線をつけてくれたり。それについて後で言われて「え、音楽に伏線なんかあったのか!?」と思ったり。緊張感を常に保ってくれたのは音楽の力ではあるので、中川さんにお願いして本当によかった。
―― Mラインを引く作業は誰がやったんですか。
木崎 塩屋さんがオーダーを出していました。
―― 監督の方からは曲づけの要望とかは?
木崎 基本的にお任せ状態で、中川さんの方から「どうしようか」と話があった時に、話をするくらい。基本的には中川さんの好きにやってもらいました。のびのびとやってもらうのが一番いいと思うので。
―― シーンによって曲をつけるかどうかで、意見の違いはなかったんですか。
木崎 多少ありました。最初はつきすぎてないか、といった話が各話演出の方から何度かありまして。後半になるにしたがって中川さん、塩屋さんとの連携が取れるようになって、そういった事はなくなっていきました。
―― 今回キャスティングは、どなたがイニシアティブを取られたんでしょうか。
木崎 それは塩屋さんです。ほとんどが、塩屋さんが出してきたキャスティングですね。
―― 豪華なキャスティングでしたよね。
木崎 そうですね。助かりました。
千葉 人が後半、ガシガシといなくなっていくから。
―― そうですね。1話とかベテラン声優が並んでて、これは予算がかかってるなと思っていると、どんどん死んでいなくなる。
木崎 それも計算づくのキャスティングですね。
―― それと、速水奨がああいった悪役をやるのも珍しいですし、大活躍でしたよね。
木崎 主役級の台詞の多さですからね。速水さんも凄く楽しそうに演技されて。
千葉 天膳のキャラが立ってるのはマンガ版からなので、ああなるのは、どうしようもないというか(笑)。
―― 関わられたスタッフの方で、活躍が印象的な方はいらっしゃいますか。
木崎 活躍ですか。基本スタッフ、キャスト全員ですが、作画面においてはそれはやっぱり、ここにいる千葉さんが……。
―― トップを千葉さんだとして、他には?
千葉 石野聡じゃないですか。
木崎 同時期に自分のキャラデザ作品があるにもかかわらず、石野君は尻まで付き合ってくれました。仕事ぶりに感動しました。大感謝です。
―― 石野さんがデザインしたのは刀とか?
木崎 ええ。その辺ですね。それとフランキ砲とかね。
千葉 ただならぬ描き込みを。
木崎 ちょっとしか出ないんですよ。
―― どこですか。
木崎 1話で。
―― ああ、合戦のシーンですか。
木崎 ラフでいいからって言ったのに。クリンナップしてくれて、嬉しかったです。
千葉 しかも、靖国神社まで見に行ってくれて。「分かんないと描けないからさ」って。
木崎 こだわりが凄かったですよ。
―― 各話の方ではどうですか?
木崎 メイン作監陣は全員。飯島(弘也)さん、竹田(逸子)さん、川添明さん。
千葉 あと、英樹?
木崎 橋本英樹。
―― 作監も監督が集められたんですか。
木崎 橋本君は制作サイドからなのですが、助けていただきました。あとは自分から声をかけた、もしくは、かけてもらった人達ですね。さっきも話しましたけど、みんな手が早い上に確実にこなしてくださったんです。もう感謝しかないですよね。演出では下司(康弘)さんかな。信頼してる方です。演出としてのキャリアもあり、レイアウトが描け、芝居もこだわる方です。いちばんしんどかった話数を処理してもらったんです。3本もです! そのおかげで自分はコンテに専念できたりと、頭が下がる思いです。三泥(無成)さん、石平(信司)くんも声かけて手伝っていただきました。大感謝です。
コンテにおいては福田(道生)さん、篠原(俊哉)さん、黒津(安明)さん、魔貝(昇天)さん、東出(太)さんと、きりがないぐらい、この作品は恵まれていたと思います。確実に「仕事」を任せられる方々の存在はTVアニメとゆうタイトな枠のなかで重要な存在だと再認識させられましたね。
千葉 あと、由紀夫君。
木崎 西本(由紀夫)君ですかね。
千葉 事故にもめげずに帰ってきた西本君。
木崎 交通事故で、1ヶ月くらいいなかったんですよ。彼は、今『アニマル横丁』の監督をやってますけど。西本君がいてくれたおかげで、なんとかなった部分ありますね。僕自身の手で回らない事をフォローしてくれて、そうなったのは、彼が会社にずっといたからというのもあるんですけど。随分と助けられましたね。
彼は常にテンションの高いパワフルな人で、ムードメーカー的存在でもありました。
―― 事故ったのは制作の真っ只中?
木崎 真っ只中です。あの時、14話のコンテは上がってたのかな。
金子 18話に入る頃だった。
木崎 130キロで車に突っ込んで。
金子 意識不明。
木崎 危うくね。“スタッフ人別帖”から名前を消すところだった。一時はどうなる事かと不安でしたが、無事に戻ってきてくれて皆安心しました。
―― “スタッフ人別帖”というのは本当にあったわけではないですよね。
木崎 あったわけではないです(笑)。あまりのハードワークにスタッフが次々と倒れていくのでは? OPのスタッフテロップに次々と赤線が引かれたりして? と冗談半分で皆でよく話してました。
あとは誰かな?
千葉 まあ、あとは仕上げ、撮影、編集かな。
木崎 いちばん割りを食っていた。ぎりぎりまでやって仕上げていたし。全員が一丸となって頑張ってた感じ。細かく指示をしなくても、よい感じにやってくれてたんですよね。そういう意味でも恵まれてたんじゃないかなって。
千葉 この作品を好きでやってくれたみたいなんです。
木崎 頑張れば頑張るだけ、成果が出ると思ってくれたんだと、思うんですよ。これは面白くなるぞと。
千葉 まあ、終わったから言える事。
木崎 (笑)確かにそうだね。
―― さっき「忍者バトルアクションものじゃない」とおっしゃってましたけど、ご自身の言葉で言うと、『バジリスク』はジャンルとしては何になるんですか。
木崎 基本的に、人間ドラマが主体の作品だとは思うんです。忍者同士の宿怨、情念、葛藤が主軸だと感じます。アクションをやるにしてもドラマで引き立てていかないと、盛り上がらないじゃないですか。でもアクションとしての見せ場がしょぼいと、ドラマとしてもダメだろというのもありますが(苦笑)。
―― 最終話には原作にないエピローグもあって、両方の一族がその後が安泰であったと語られていましたよね。
木崎 そうですね。とにかく救いがないので、何か希望は持ちたいというのがスタッフ全員の思いでもあったんです。それで、ああいうかたちで、むとうさんに書いていただいた感じですね。マンガ、小説のラストも綺麗だと思うんですけど、僕もみんなもあまりにも切なすぎると思ってたんですよ。希望とはいかないまでも、後味のよい何か「救い」が欲しかった。
千葉 せがわさんも、マンガのラストについては考えたそうですよ。
金子 マンガ版も最終回になる前に、救いのあるラストにしてほしいという投書がいっぱいきてたらしくて。せがわ先生も原作どおりのラストでいいのかな、と考えられたそうなんです。それもあって、アニメはラストについても好きにしていいと、せがわ先生に言われていたんです。それで、アニメのラストについて、色々な案もあったんですが。
―― ああいったかたちに、まとまったわけですね。
金子 逆にせがわ先生の方から、転生案みたいなものをいただいたりもしたんですけど。
―― ああ。死んだ弦之介と朧が転生して……。
木崎 うん。転生して伊賀の里でまた出会うとか、そういうプランもあったんですよ。
―― 最終回のサブタイトル見るとそうなるのかな? と思いますよね。
木崎 「幾世も生きようとも、必ず」というのは弦之介の台詞としてあるので、その画は見せなくてもいいかな、と。
―― なるほど。
木崎 読むだけで、涙出てくる感じのホンだったので。
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●第24話(最終話)「来世邂逅」より。互いに想いあっている弦之介と朧が、伊賀と甲賀による死闘の決着をつける日がやってきた |
―― シリーズをやり終えてみて、千葉さんの手ごたえはいかがですか。
千葉 いや、やりましたね。とりあえず、ひとつの節目にはなったんじゃないですか。
―― ご自身の中で。
千葉 そうですね。あるいは、節目にしようかと思っての参加でもあったんで。これで大した仕事ができなければ、俺はこの先何をやってもダメなのではないか、という気持ちでやったんです。基本的にはノれてやれたんで楽しかったですね。
―― 千葉さんからすると、監督の仕事ぶりはどうでしたか。
千葉 さっきも言ったように、基本的にこの人は、僕にとってプレッシャーですからね。
木崎 なんでプレッシャーなんですか。伸び伸びとやっていたじゃないですか。
千葉 いや、描ける人ですからね。「木崎さんの求めるものをどれくらいやれるか?」という事で、俺としてはかなりのプレッシャーが。
木崎 そうだったの?
千葉 1話のコンテを見た時に「うわあ。これやるんだ? どうしよう」みたいな。でも、木崎さんのコンテも、仕事としてやりやすかったし、また木崎さんから学ぶものも多かったんで非常にありがたかった。何より参加してくれた人で「やってよかった」と言ってくれてる人もいるんで、それがよかったんじゃないですかね。一時はどうなる事かと、マジで思いましたけど。
―― 制作中に。
千葉 入る前とかね。
―― 木崎さんとしては、初監督の手応えはいかがですか。
木崎 「バジリスク」という素晴らしい原作とやる気のあるスタッフにめぐり合えた事につきますね。僕自身としては「ためになりました」としか(笑)。あと、自分を使ってくれた金子さんやGONZOの期待に応えられたのならばよかったと思います。やはり勉強不足というか、色々足りない部分もあったと思うんで、頑張って次に繋げていければいいな、という感じかな。終わってしまえば苦労なんて飛んでしまうものなので、あとはこの作品がちゃんと観てもらえて、何かしら評価してもらえるのであれば力を注いだスタッフ、キャストも報われます。初監督だからと言って、今までと違う感慨はないんですよ。デザイン、作画監督も、演出的なものの見方をしないとできないので。そういう意味では今回は、それをトータルでやって、なおかつ全体をコントロールする事を勉強させてもらったというか。
―― つまり、シリーズの総作画監督の延長線にあるような仕事でもあった?
木崎 シナリオ、音響やらなんやら、決定的に違う部分はたくさんありますけど。フィルムを作るという事に関しては、そういう目線でやっている部分はあったと思います。監督をやった事で何かが変わってればいいんだけど、演出としての自分はようやくスタート地点に立てた状態で、これからなんだと思います。
●DVD情報
『バジリスク 甲賀忍法帖』(全12巻)
カラー/約48分(2話収録)/リニアPCM(ステレオ)/片面1層/16:9レターボックス(スクイーズ収録)
価格:初回限定版 7980円(税込)、通常版 5985円(税込)
現在6巻までリリース中(第7巻[初回限定版には“伊賀”BOX付き]2月22日発売)
発売元:GDH
[Amazon](初回限定版)
[Amazon](通常版)
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●初回限定版特典・千葉道徳描き下ろし“伊賀”BOX(初回限定版7〜12巻収納)
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(06.01.26)
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