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STUDIO4℃・田中栄子インタビュー(3)
私が小黒さんから教わった「ジーニアス」の心
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小黒 では、期待の『GENIUS PARTY』についてお聞きしたいんですが。
田中 小黒さんにも何らかのかたちで参加してもらいたいと思ってるの。
小黒 え?
田中 私が小黒さんを素晴らしいなと思うのは、監督達の「ここが凄い!」って凄く誉めてくれるところなのね。誉めるという事は、とっても大事なんですよ。私なんか誉められると木に登っちゃうタイプで(笑)、「田中さん偉いね」なんて言われて頑張ったりしてるわけです。実際、実はけなす事って簡単だし、けなして自分が偉くなったような気になったとしても、それで自分はちっとも輝かない。だけど「あの人のここが素敵」「今度、あの人はこんな事をやるらしいよ」とかって、小黒さんはいつも燃えてるじゃない。その輝きこそがジーニアスだと思うのね!
小黒 あ、ありがとうございます(汗)。
田中 ホントに! クリエイトしていく事を愛でていくという事は、人間が存在する意味であり、その事に気づく事で自分にも価値があると知っていく。そのままいじめの問題とか語っちゃいそうだけど(笑)、つまり自分をないがしろにせず、凄い存在なんだという事に気づいていく事。それをみんなで分かち合いましょう! というのが『GENIUS PARTY』なの。それを愛でられる事自体が、ジーニアスなのね。
小黒 なるほど。
田中 今回参加する監督達みたいに、それぞれにトラックレコードのある人達でも、やっぱり商業主義の中で力を抑えているような状況がある。自分を信じてそれを体現してきた人でも、自分の中にあるものを素直に出す事ってなかなか難しい。でも、彼らが本当に何の規制もなく「こんなものを生み出したいんだ」というものが描けた時、それは凄く観たいはず。そして、それを作るフィールドがある事自体がとても大切なんじゃないか、と思って。
小黒 僕の目から見ると、STUDIO4℃は昔から『GENIUS PARTY』を作り続けていたと思うんですが。「デジタルジュース」もそうでしたし。
田中 よくよく考えてみたら、本当にそうなのね。
問題は、それをどういう道筋で、きちんと世の中に出していくか。『Amazing Nuts!』では音楽アーティストとのコラボレーション、『鉄コン筋クリート』は公開規模120館のエンターテインメントとして作る事、『GENIUS PARTY』では、『GENIUS PARTY』というカテゴライズを設ける。作品ごとにそういう道筋をつけていく事がプロデューサーとしての役目だから。でも、どの作品でも変わらないのは、やっぱりクリエイターに対する“信頼”に根ざして作っている事ですね。そういう事を小黒さんは発見させてくれるの。その目線があって、私は「なるほど!」って気づくのね。
小黒 俺が気づかせてるんだ(笑)。
田中 「STUDIO4℃の価値ってそうなのか」と自覚したのは、小黒さんから初めてインタビューを受けた時だもの。
小黒 それまでは、自分達が何か変わったものを作っているという意識はなかったんですか?
田中 何もなーい(笑)。
小黒 当たり前のように作ってたんですね。
田中 そう。その時に「意味がある」「価値がある」と小黒さんに初めて言ってもらって、当時と比べたら随分私も成長したでしょう?
小黒 自意識を目覚めさせたんでしょうか(笑)。
田中 というよりは、働かされてる感じが凄くする。そういう事に目覚めた自分が、もっと自分のやってる事に責任を持たなきゃアカンよ、と言われて頑張らされてる感じかな。
小黒 なるほど。それで、話は前後するんですが、『GENIUS PARTY』に「GENIUS」と冠したのはいつ頃なんですか?
田中 『THE ANIMATRIX』を作る前ですね。『GENIUS PARTY』の企画を立てた時、そこに『THE ANIMATRIX』の話が来たので、やろうとしていた監督達に声をかけ始めたの。
小黒 だから面子が被ってるんですね。
田中 そう。実は『GENIUS PARTY』の方が企画が先なんですよ。ここまで遠かったですねえ……(しみじみ)。
小黒 共通コンセプトはあるんですか? 例えば昔の作品だけど『ロボットカーニバル』がロボットをモチーフにしたみたいな。
田中 うーん、話がちょっと飛躍しちゃうけど、突き詰めていくと「人間=メディア」みたいな事なんですよね。人間が表現したものが、形になって届いていく。その届き方はTVや雑誌、WEBだったり、映画やDVDだったり、フォーマットや状況を変えて伝わっていくでしょう。そういうものが「自分」から出ていく事が必要なんじゃないか、と強く思っていて。まだ見えてないんだけど、それって始まりかけてるのかもしれない。
小黒 というと?
田中 自分達はマスコミュニケーションというものができた時から、TVとか新聞というツールから与えられる情報で生きてきた。でも、これからはそうじゃなくて、自分達で発信する情報を、独自のメディアをもってコントロールする。例えばWEBって個人が発信する側になれるでしょう。今ちょうど、よりプリミティブな原点にメディアが立ち戻りかけてる気がしていて。そこに『GENIUS PARTY』がうまくはまれば、今までと違う事ができるんじゃないか、なんて思ってるんです。
小黒 作り手1人1人の個の作品であるという事が『GENIUS PARTY』の共通性なんですね。
田中 そういう事。なおかつ、それがメディアとしての発信力を持つ。それをどうお金に換えていくのか、というのは模索中なんだけどね。
小黒 相変わらず夢みたいな事をやってるわけですね(笑)。という事は、ほとんど自主制作なんですか。
田中 そう。コツコツコツコツと、自力で作り続けているわけですよ。『鉄コン筋クリート』だったら、やっぱり原作に対する凄いリスペクトがあって、社会的信用度も凄く高い。でも、こっちはいくら凄い監督達がいると言っても、やっぱりでき上がらないと分からないから。ある程度の形が見えない事には、お金を出資していただくのは難しい。
小黒 イメージボードぐらいしかない段階で出資するスポンサーなんて、よっぽどですよ。
田中 だけど、この作品にはそれだけのトラックレコードを持っている人達が携わっているから、渡辺信一郎がそんな変なものを作るわけはない、絶対、いいものができるという信頼はある。さらに、このプロジェクト全体に意義を感じてもらえれば、投資する事は可能だと思う。
小黒 具体的な話、出資は決まってるんですか?
田中 これから!
小黒 でも公開の目途は立ってるんですよね。
田中 来年の夏公開を目指してます。
小黒 現在、短編十数タイトルの製作が進行中で、そのうちの何本かが来年夏に公開される見込みなんですね?
田中 そうです。
小黒 個々の作品は監督が勝手気ままにというか、まったく制約なしに作ってるんですよね。みんな、いわゆるストーリーアニメなんですか?
田中 中には観念的な作品もあるし、ちゃんとストーリーがあるものもあります。……これは言っていいかどうか分からないけど、渡辺信一郎の作品は、純愛ものなのよね。
小黒 ほう。
田中 これがもう、凄い胸キュンなの。
小黒 全然信じられない(笑)。騙されてるんじゃないですか?
田中 ホントに純愛! 渡辺信一郎の胸キュンですよ。
小黒 カッコ笑い、とかつかないんですね。
田中 ない! ひとつもない。自分の高校時代の体験をもとにしているらしいですよ。私もついこの間それを聞いて。
小黒 それまでにも当然、絵コンテやプロットは見てるわけですよね。
田中 もちろん。でもその時は「へえー、渡辺信一郎の中からこんな純愛作品も出てくるんだ」と多少は驚いていた。渡辺さんも明かしてなかったんだけど、音楽打ち合わせの時に「実は僕の高校時代の……」と言っていたと聞いて、ハッ!と。
小黒 いい話だなあ。
田中 「あの胸キュンは、渡辺信一郎本人の!」と思ったら、私がキュンとしちゃった(笑)。
小黒 ベーシックな事を訊きますけど、1作品につき何分ぐらいなんですか?
田中 人によっていろいろです。大体10分から20分ぐらいかな。
小黒 田中達之さんの「陶人キット」は何分ぐらいになるんでしょう? 確か「デジタルジュース」で作り始めた当初は、3分ぐらいの作品という事でしたよね。
田中 もっと伸びてますよ。自分から「長くしたい」という事で、絵コンテを切り直してます。
小黒 ちゃんと起承転結のあるストーリーものなんですか。
田中 そうです。今度はきちっとした作品として……ねえ、観たいよね!
小黒 これはまさしく10年越しの作品になるわけですね。
田中 そうですね。まあ、途中でナイキのCMとか、「FLUXIMATION」とか、いろいろやってますから。
小黒 画集も出したり、マンガも描いたり。
田中 アニメーションとしては、「自分の名刺代わりになるような作品にしたい」と言ってます。もう名刺代わりも何もない実力者ですけどね。そういう意味でいうと、STUDIO4℃でやってきた人達が、今や凄くビッグになってますよね。
小黒 森本晃司さんなんて「世界のモリモト」ですからね。
田中 ホントね。最初にSTUDIO4℃がスタートした時なんて、ただの一アニメーターだもの。私もただの一制作だったけど(笑)。片渕さんも最初に会った時は一監督補佐だったし、湯浅さんも一アニメーターだった。だからマイケル・アリアスも凄い監督の1人になって、次の作品に期待したいと思います。
●STUDIO4℃・田中栄子インタビュー(4)へ続く
●関連サイト
STUDIO4℃ 公式サイト
http://www.studio4c.co.jp/
『GENIUS PARTY』公式サイト
http://www.genius-party.jp/
(06.12.27)
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