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『鉄コン筋クリート』スタッフインタビュー(3)
木村真二(美術監督)
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『鉄コン筋クリート』スタッフインタビュー第3弾は、美術監督の木村真二。『鉄コン』におけるもうひとつの主役といえる「宝町」のイメージを作り上げ、作品全体の世界観を築いた功労者の1人だ。とてつもないボリュームで観る者を圧倒する美術は、一体どのように作られていったのか?
●プロフィール
木村真二 Shinji Kimura
1981年、小林プロダクションに入社。美術スタッフとして『コブラ』『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』『ヴイナス戦記』などの作品に参加し、1986年に『PROJECT “A”KO』で美術監督デビュー。なかむらたかし監督の『バニパルウィット』や、大友克洋監督の大作『STEAM BOY』で美術監督を務め、好評を博した。また、絵本「ヒピラくん」(文:大友克洋 絵:木村真二)を出版するなど、アニメーション以外でも活躍。『鉄コン筋クリート』では絵コンテに先行して全ストーリーの膨大なイメージボードを描き起こし、作品に登場する全ての町並みや建造物、路地等をデザイン。独特の色彩感覚に溢れた宝町のビジュアルを作り上げた。
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●2006年12月8日
取材場所/STUDIO4℃
取材/小黒祐一郎
構成/岡本敦史
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―― 元々、どういう経緯で『鉄コン筋クリート』に参加される事になったんでしょうか。
木村 当時『STEAM BOY』をやってまして、制作も最後の頃になって背景チームも解散したので、STUDIO4℃から借りっぱなしだった機材を返そうと思って電話したんです。
―― 制作スタジオが移った時に、機材も持っていったんですか?
木村 ええ。美術はいちばん先に移ったので、コンプレッサーとかも持っていっちゃったんですよ。それで「もう終わりましたんで返します」って電話をしたら、ちょうどいいみたいな話をされて。
―― で、田中栄子プロデューサーに誘われて参加する事に?
木村 そうです。田中さんに呼ばれたら、その時にマイク(マイケル・アリアス監督)もいて、「こういう話がある」と。松本大洋さんの原作は読んだ事がなかったので、それを見て少し考えました。原作自体は面白いと思いましたね。自分でも『STEAM』の後に何をやっていいのかよく分かってなかったので、「じゃあ、これじゃないかな」というのはありました。
―― 田中プロデューサーや監督からもお話をうかがっていて、木村さんが最初に描いた美術ボードが本編に匹敵するぐらい凄かった、みたいな事を聞いたんですが。
木村 そんな事ないんですけど(苦笑)。
―― ボードはどんな感じで描かれてたんですか。
木村 最初に入った時に、色味がとりあえず見たいというので、設定より先にボードを何枚か描いたんです。まだ特に共通認識がなかったので、「こういう感じの世界観」というのを先行して出したような感じでしたかね。
―― 相当な数を描かれたんですか?
木村 いや、そうでもないです。いくつかボードを描いた段階で、今度は田中(栄子)さんからストーリーボードというか、本編の流れが見えるボードがほしいという注文がありまして。そっちの方が数は多いんじゃないでしょうか。
―― なるほど。それは本編の背景とはまた違うんですよね。
木村 全然違いますね。
―― どのぐらい描いたんですか。
木村 ラフは100枚ぐらいじゃないかな。
―― 1枚1枚の大きさは、どのぐらいなんですか。
木村 そんなに大きくないんですよ。短冊みたいなサイズです。現物を見てもらった方が早いと思うんですけど。
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▲シーンごとに描かれた初期のボード。キャラクターも描き込まれている。 |
木村 最初は、背景の色の流れを見るつもりだったんだと思うんですけど、キャラを入れないと、どうしても全部が同じような背景になってしまうんですよね。それで少し、人間が入ってます。
―― 画面比率としては、超シネスコですね。
木村 そうなんです(笑)。いい加減に紙を切ってるんで、全然合ってないんですよ。その頃、STUDIO4℃にも手描きの人があんまりいなかったんで、画用紙さえなくて。しょうがないから『STEAM BOY』で使った残りで切ってた(苦笑)。
―― 実際の仕上がりに比べると、色味が渋い感じがしますね。
木村 そうですか。使ってるのもあるから、ほとんど同じじゃないでしょうかね。
―― 撮影とかの問題でしょうか?
木村 うーん、どうだろう。コンピュータに取り込んでから、彩度とかを少しいじってはいますけど。確かにボードの頃は、かなり自分の好みで描いてるんですよね。『STEAM』のすぐ後だから、相当引きずってる頃じゃないでしょうか。
―― なるほど。大洋さんの原作をアニメの背景に置き換える際、どんなふうにしようと思われたんですか?
木村 「鉄コン」は、今の大洋さんの絵より線が太いじゃないですか。その太さは面白いなあとは思ってましたね。あとは曲がり具合とか。そのデフォルメ加減はかなり面白いとは思ったんだけど、やっぱり半分はヤクザとかの出てくる現実の話なので、あんまり曲げすぎるとどうかな、というのもありました。それに、構造上曲がっているものに、リアルな金属をつけていっても、どうも上手くいかない。半分はちょっとリアルな方に持っていかないと町は成立しないんだろうな、と。その分、定規を使わないと決めていました。なるべくフリーハンドで。それでそういう味が出るんじゃないか、と。
―― で、本編の背景を描くまでに、どんな段取りがあったんでしょう。さっき言われたように、まず最初は数点のボードを描いて、各シーンのボードを描いて、となるわけですね。
木村 そうですね。その頃は、西見(祥示郎)さんとマイクと自分の3人しかいなかった。それで、最初にマイクが描いたコンテをもとに打ち合わせをしてたんです。最初のコンテは、どうしても暗い要素がいっぱいあるものだったんですよ。シロとクロの関係とか、遊びがかなり抜かれてて、ちょっとこのまま作るのは無理だろうと。そこで田中さんと相談して、シナリオ段階から少し直すという話になって。
―― それはどなたの意見だったんですか。
木村 西見さんと自分でも、そういう話になってました。後半にあるイタチのイメージシーンが、かなり長かったんです。10分以上も尺をとってたので、これはキツイだろうと。あと、最初はアサ・ヨル兄弟とかも出てこなかったので、それだとちょっと不自然だろうと思った。子供がシロとクロしかいない町になってしまうから(笑)。
―― それで、シナリオ自体を見直す事になった。
木村 そうですね。その後で、西見さんや久保君、浦谷さん達がコンテを描くという段取りになっていったんです。シナリオから戻るという話になると、その間、自分の時間が空いてしまうので、そこからはもう線画の設定を描いていく作業に入っていきました。だから、シナリオから設定に入って、逆にコンテへ戻していくみたいな感じですかね。
―― 設定の作業を始めたのは、各シーンのカラーボードを作った後なんですか、前なんですか。
木村 後なんですよ。トータルのシーンボードを描いて、大体の色味を作った後にそういう問題が起きてしまったので。
―― 作業期間はどのくらいなんですか?
木村 5ヶ月くらいかな、ずっとやってましたね。
―― ディテールがさらに決まっていったのも、線画の段階?
木村 そうですね。ただ、それが必要だったかどうかはちょっと分からなかったですけど。
―― ディテールが、ですか?
木村 ええ。
―― 「映画にとって」という事ですか?
木村 あ、違います。線画設定を飛ばして、すぐ本編の背景に入りたかったんですよ(笑)。
―― ああ、なるほど。
木村 自分が課せられてるスケジュールからいうと、ここでこれをやってる場合じゃない! と。これがまた、誰に言っても通じないんですよね(苦笑)。STUDIO4℃って、ちょっと暢気な会社なんで。
―― 実際の本編背景に入ったのはいつ頃になるんですか。
木村 自分が入ったのが2004年の3月なので、3月から12月までを準備に使ったんです。
―― じゃあ2005年の年明けぐらいから?
木村 そうですね。冬休みが終わったら入りますよ、という事で。こっちの計算だとそれでギリギリだった。それでも1年半ぐらいですかね。
―― その間に、あのディテールの塊みたいな背景を次々と描いていった、と。
木村 今回、情報量だけは多くしようというのがあったので。
―― それはどなたの意図なんですか?
木村 もう最初から自分の中で決めてました。もう、うるさいぐらいのをやってみたかった(笑)。なるべく1本1本、やりたい事のテーマがある方がいい。『STEAM』はやっぱり質感を追ったような画だったので、今回は色の情報量だけがうるさいような感じにしたくて。
あと、町って実際は凄くゴチャゴチャしてるじゃないですか。だけど背景に置き換えると、わりと綺麗にまとまってしまう。今回はせっかくグジャグジャな事ができるんで、じゃあやってみよう、と。ただ、1シーン1シーン「こういう場所」というのは作りやすいですよね。でも「町全体」というのは掴みどころがなかったので、その設定はいっぱい描かなきゃいけないとは思ってました。こういうアングルで出したい、というのもありましたね。
―― 監督からの細かい注文はなかったんですか?
木村 3人だけでやっていた頃に、「こういう場所をやりたいよね」とかいう話はずっとしてました。それを本編に反映させていたので、色的な注文はもうなかったです。
―― 場面として、ご自身で出されたアイデアとかはあります?
木村 そうですねえ……地球儀が廻っている看板とか、そういうのは資料とか買ってきて作ってましたね。元はそういう予定はなかったんだけども。(大変な事を)自分でやりたいと言った時、今度はそれを回す事が大変になるので、結構嫌がられるんですけど、やっぱりそういう事を全部避けてもしょうがないですからね。
▼本編で使われた背景美術。凄まじい情報量と、開放感が同居した不思議な世界 |
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―― 今回の宝町のイメージは、ご自身の中ではどんなふうに捉えてたんですか。
木村 ともかく、何かが稼働してないと町に見えない、とは思ってました。今は多分、交通条例とか色々あるんだと思うんですよ。看板があんまり動いてると運転が散漫になるからダメ、みたいな。でも自分が子供の頃は、結構あったような気がするんですよね。家の近くにも、子供の印象だからまた分かんないけど、10メートルくらいあるビクターの犬の立て看板があったような。そういう面白さが今はあんまりないな、と思ってた。そういうのを入れたい、と。
―― ちょっとレトロな感じは、監督の意図も入ってる?
木村 もちろん原作からも採ってるので、元からそういう感じはあります。あと、『STEAM』と『鉄コン』の間に、『鉄人28号[第3作]』のオープニングをやってるんですよ。その時に結構、いろいろ資料を買っていて、やりたいなとは思ってたんです。
―― 原図整理は全部おやりになったんですか。
木村 いや、今回は演出の安藤(裕章)君がいたので。やたら真面目にいろいろ描いてくれるんですよ(笑)。凄いなあと思った。看板とかの細かい遊びはないですけど、大体の作りは綺麗にとってくれる。それで随分、助かりましたね。彼は元からCGの人だけれども、やっぱり自分でも画を描きたいと思っている人だから。
―― じゃあ、まずアニメーターさんが普通にレイアウトを描いて、そこに安藤さんが手を入れたものが来る?
木村 そういう段取りが多かったかな。当然、原画さんがちゃんとした人達なので、変なレイアウトは全然来なかった。
―― 背景原図として緻密な鉛筆画を描いて、それを背景のスタッフに渡したりはしてない?
木村 それはしないですね。それだと背景を描く人も面白くないので。自分で頼ってる人達だから、信用してます。
―― 今回、背景は何人くらいのチームだったんですか。
木村 現場の中では5人ぐらいですね。外に撒いたのが10人くらい。それも10枚とかだったり、極端にいえば1桁とか、かなり少ない単位です。
―― ああ、それだったら全員で賄えそうですよね。
木村 そうなんですよ。自分達ではこの人数で終わらせたい、とは最初から言ってたけど、誰も聞いてくれなくて。こっちが条件を出したスタートができていれば、その人数で終わったと思うんです。
―― 他の背景スタッフとのやりとりはどんな感じだったんですか。
木村 ほとんど昼飯とかも一緒に行くんですよ。ぶらぶらしながら、いいものがあると「こういうの入れたいね」とか、そんな話をしてた感じかなあ。これじゃなきゃいけない! とか、あんまりそういう話はないです。
―― 設定の段階では、全てのディテールまでは作りきれないですよね。看板とか、いろんな所に書いてある字だとか、室内に貼ってある絵だとか、遊びが多くて。それはもう、描く方々にある程度は任せていた?
木村 そうですね。ただ、背景作業に入ったのが2年前って言ったんだけども、夏までは自分1人だったんですよ。その間に多分、150くらいはできてたんです。
―― 木村さんお1人で描かれたものが?
木村 ええ。それを大体、そのままイメージボードというか、見本代わりにしてる。こんな感じにしてください、と。だから、最初から一緒に出発しちゃうと、やっぱり分からないんですよ。どれくらい背景の準備をするか、ですよね。ボードの準備って本来あんまり意味がないと思ってるんです。やっぱりいいとこ取りなんですよね、ボードって。
―― 見栄えのいいところになるから。
木村 そうです。それはあんまり、見本にはならないと思ってるんです。
―― ボードをたくさん用意するより、実際の背景を先にいっぱい描いておいた方がいい。
木村 その方がよっぽど親切という気がするんですよ。言葉で言わなくても、見て分かる事だから。それは『STEAM』の時もそうだったかな。Aパートが終わってから、みんなに入ってもらった。
―― じゃあ、全体の何割かは木村さんご自身で描かれている?
木村 そうですね。それはどんな作品の時でもそうです。やっぱり美術っていうのは、人が集まった時からは背景の1人になる。やっぱり自分がどこまで描けるか、枚数を描けるかで、最後まで決まると思ってるので。
―― 何割ぐらいお描きになったんですか。
木村 数でいえばかなり描いてるはずですけど。そういえば数えた事がないですね(笑)。
―― 全体の3分の1くらい描いてる?
木村 うーん、多分それくらいは描いてると思うんですよね。
―― おお。
木村 『STEAM』の前に、なかむらたかしさんの『バニパルウィット』をやってたんですよ。その時は1人でやってたので。
―― 全カットを?
木村 そうです。
―― それは凄い。
木村 大体、1人の仕事が多かったんです。『STEAM』が初めてだったんですよね、そういう大人数……でもないか(笑)。その、仲間とやるのは。
―― 今回の背景なんですけれども、3Dの素材を貼りつけるのは別として、基本的には手描きでフィニッシュしてるんですか。
木村 そうでもないです。かなりパーツで描いてますね。3Dとは言わないけど、2Dの組み合わせで作ってます。ヤクザの事務所、取調室、あと子供の城もそうかな。
―― 別々に描いた後、撮影で合成?
木村 撮影じゃなくて、背景の段階で合成。壁だったら壁、床だったら床、というのを別々に描いて、2D上で全部合成して1カットにしています。
―― あ、なるほど。つまり1度描いた背景は、ずっとセットみたいにして使うとか。
木村 そうです、そうです。コンテを読んで、30とか50とか、シーン単位でも分かりますから。
―― 建物がダーッと並び立っているようなシーンが多いと思うんですけど。あれもそうなんですか?
木村 いや、建物はさすがに兼用がバレてしまうんで(笑)。ただ、いろんなところでストックができだしてからは、それをしてます。兼用がバレないように、というのは大前提で。
―― 掛け合わせたり。
木村 そうですね。でも、地図上、同じものが見えるという面白さも欲しいとは思ってたので、それはたまに入れてますけど。
―― 背景をチェックに回すなり撮影に回すなりする時は、データでやりとりしているんですか?
木村 いや、背景の本編チェックを1回します。そこで、描いた素材をみんなで画面の中でチェックする。でも今回は安藤君がいたので、そこで少し軽減しちゃってますね。席も近かったので、「ここはもう描かないよ」とか「ここは地面だけ描くから後は合成にするね」とか、そんな話をして。全部こっちに1回フィードバックされる。
―― なるほど。
木村 ただ、チェックに関しては効率よくするのが大前提なので、画面を見てる時間が背景を描いている時間より長くちゃダメだよ、って話はしてましたけど(笑)。
―― 美術班で、描いた背景をパソコン上で加工したりする事は?
木村 それは結構してます。
―― 例えば、看板を張り直したりとか。
木村 それもありますね。あとは、子供の城の建築が近くなる場面で、子供の城のポスターを目立つ箇所に貼ったりとか。あと、シロがいる取調室も、時間経過によって物を増やしていったり。
―― そういうところは演出の指示ではない?
木村 いや、それはもう元から設定で決めてましたから。
―― なるほど。今回の背景のコンセプトは、やっぱり「密度を上げる」事?
木村 そうですね。……それだけですね。
―― それだけ(笑)。
木村 もう、うるさいくらいにやってみようと。ただ、やっぱり(カメラがキャラクターに)寄った時には整理されるんで、そんなにうるさいとは感じないと思うんです。町の画だけを見るとうるさいかもしれないけども。逆に、寄りでも寂しくなっちゃうような事はしたくないんです。普通のアニメを見てても、「なんでこんな何もないところの前で芝居してるんだろう?」とか思っちゃうんですよね。
―― こんなにセットが簡単でいいのか、とか。
木村 なんで壁が白いんだ、とか(笑)。でも、結構やりすぎてダメ出しもありましたけどね。藤村とクロが話をしてる場面で、芝居している2人の間に動く看板を入れてたんですけど、「それはうるさすぎる」って外されたり(笑)。
―― 技法的に変わった事をしている部分はあるんですか。
木村 特にないんじゃないかな。普通に描いてますよ。
―― 何を描くにも、同じ普通の紙で、普通の絵の具で。
木村 そうですね。予算というか、1枚単価は常に同じなんで、変わった事をするにしても、安い道具だったらOKというのはありますけどね。画用紙に紙やすりをかけて、ざらざらにして描いたり。バニラが耳を切られる場面だったかな。マイクが写真を持ってきて「こんな感じにしたい」と。それ以外は、特にないんじゃないかな。
―― 仕上がりの密度は別にして、手法としては普通のやり方で。
木村 だって、変わった事をしてもあんまり意味がないと思ってますから。それよりは、少人数で能率よく、という方をとってます。
―― 他の背景の方から、こんな細かいの描きたくない! とかいうクレームはなかったんですか。
木村 ないですね。
―― みんなやる気まんまんで参加してくれたんですか。
木村 面白いよ、と言ってみんな誘ってるので。
―― 監督や他のスタッフとの連携は上手くいったんでしょうか。
木村 上手くいったんじゃないでしょうか。全然、嫌な事がなかったし。
―― 何か外部からのどんでん返しみたいな事はなかったですか。
木村 それはないですね。淡々と。ともかく背景に関しては、会社は口を出さないでほしいとは言ってあるので。
―― (笑)。先にこの場面を上げてくれよ、とか言われても?
木村 いや、美術は先行して一番先に上げるというのは、最初から宣言してるから。何かを早く上げてくれというのは特になかったです。
―― 振り返ってみて、ここは気持ちよく描けたなという場面はありますか?
木村 ……なんか追われてたんでねえ。心残り、というのはありますけどね。
―― それはなんです?
木村 子供の城。
―― えっ、そうなんですか?
木村 もっと変にしたかった。
―― それはデザイン的に?
木村 うん。いろんな文化のものを取り込んで、それがデザイン的に失敗してるような感じにしたかったんです。地方にある、もう行きたくないようなところ、あるじゃないですか。秘宝館みたいな変な感じ。あんなふうにしたかったんですよね。
―― もっとまとまりのない方がよかった?
木村 オブジェをもっと形のあるものにしたかったんです。工場のプラントをそのまんま遊園地にしたようなつもりでデザインしたんですけど、それが夜しか出てこないっていう話になって。夜だとあんまりそういう造形が活きないんですよね(苦笑)。ゲートの辺りにはアステカの紋様があったりとか、仁王像・阿吽像とか、そういう遊びを入れてたんだけども。園内の奥の方になると……もうちょい、デザインを酷い感じにしたかった。
―― 酷い感じですか(笑)。
木村 メリーゴーラウンドだけは、麒麟に変えちゃったんですけどね。最初は馬だったので、それはやりたくないなと思って。
―― なぜ馬だといけないんですか?
木村 誰でも思いつくから(笑)。馬はキツイなと。
―― それで、完成品をご覧になられていかがでしたか。
木村 あ、楽しかったですよ。でも最初はちょっと違和感があったかな。それまでチェック段階で何度も見てるけど、声が入った状態は(初号で)初めて見せられたので、少し違和感が。でも、それは1回目ですね。2回目は落ち着いて見れました。画的には凄く満足してます。ただまあ、もうちょいフレームを大きくして作ればよかったな、というのはありますけどね(笑)。
―― 実際に描く紙の大きさ?
木村 ええ。最初の段階で、こんなんでいいよとか言って決めちゃったんで。(短冊ぐらいの大きさを手で作って)こんなもんですね。
―― え、じゃあ普通のTVサイズの……。
木村 上下を切ったような感じですね。粗く見えたほうが面白いよ、とか言って決めちゃったんです。やっぱり今、スキャンなんですよね、全部。その都合で決めてますね。
―― そうか、あんまり大きく描いてもスキャナーでいっぺんに取り込めないんですね。
木村 そうそう。スキャナーって大体、どこもA3なんですよ。A3を縦にスキャンできるっていうのを条件にしてる。そうすると、やっぱり横フレームがA3でちゃんと収まる大きさが絶対ですよね。だから今回もそうですけど、分割して、いろんなパーツを寄せ集める事が、撮影とかスキャンにも有効なんです。スキャナーに収まらないくらい無駄に大きなものを描くというだけで、やっぱりスキャンする人には負担になってしまうので。分けて(パソコンの)中で合成しちゃった方が早かったりする。その方が能率はいいんじゃないでしょうかね。
―― 長回しの移動カットみたいなところで、大判の背景を描く事は?
木村 あんまりないですよ。もう、切って切って。
―― なるほど。とんでもなく長いのを描いてるのかと思いました(笑)。描いても無駄なんですね、要するに。
木村 それと、コンピュータってやっぱり万能じゃないんですよ。全体的に、全く同じ明度でとれないんですよね。四隅はなんとなく暗くなっちゃう。そうすると、足していった時に境目を上手く繋いでもらわないと変になったりとか。結構大変なんですよね。縦横比がちょっと曲がってると、繋がらなかったりとか。
―― 背景のサイズが意外と小さい、というのが最大の驚きでした(笑)。
木村 やっぱり、これぐらいの大きさで密度を上げる方がいいんじゃないかな、と思ってますけどね。
●『鉄コン筋クリート』スタッフインタビュー(4)へ続く
●関連サイト
『鉄コン筋クリート』公式サイト
http://tekkon.net/
STUDIO4℃ 公式サイト
http://www.studio4c.co.jp/
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