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■『モノノ怪』
中村健治&橋本敬史
インタビュー

■序の幕
■二の幕
■三の幕
■大詰め

 
『モノノ怪』中村健治&橋本敬史インタビュー
序の幕 コンセプトは「絢爛豪華」


2006年にオムニバス作品『怪 〜ayakashi〜 JAPANESE CLASSIC HORROR』の1編として放映され、斬新なビジュアルと演出が大きな話題を呼んだ「化猫」。1年後、視聴者からの反響に応え、同スタッフが再結集してオリジナルTVシリーズ『モノノ怪』が制作された。アーティスティックな映像美、実験的とも言える演出、そして人間の暗部をえぐるディープな物語。観る者を惹きつけてやまない独特の作品世界が、前作同様、幅広い層のファンから支持を集めたのは記憶に新しい。 今回は、作品の生みの親である中村健治シリーズディレクターと、キャラクターデザイン・総作画監督を務めた橋本敬史に、「化猫」から『モノノ怪』に至る制作話をうかがってきた。


PROFILE
中村健治(Nakamura Kenji)

1970年3月25日生まれ。岐阜県出身。アニメーターとして業界に入るも、腱鞘炎のため断念し、演出家に転向。『The Soul Taker』『THE ビッグオー』の各話演出などを務めた後、『KARAS』第1話の絵コンテ・演出などで注目を集める。シリーズディレクターを手がけた『怪 〜ayakashi〜 JAPANESE CLASSIC HORROR』第3話「化猫」が大きな反響を呼び、TVシリーズ『モノノ怪』へスピンアウト。その他の演出作品に『イリヤの空、UFOの夏』第3話、『ケモノヅメ』第10ワなどがある。

PROFILE
橋本敬史(Hashimoto Takashi)

1965年生まれ。群馬県出身。アニメーター、デザイナーとして数多くの作品に参加。メカやエフェクトの作画には定評があり、近年は『STEAM BOY』『劇場版NARUTO 大活劇!雪姫忍法帖だってばよ!』『FREEDOM』などでエフェクト作画監督を務めている。中村健治監督も参加した『KARAS』では特技監督を担当。「化猫」ではコンセプトデザイン・キャラクター設定・総作画監督を手がけ、奇抜かつキャッチーなデザインセンスで注目を集めた。『モノノ怪』にも続投し、デザイン・作画の両面で精力的に活躍。

●2007年10月12日
取材場所/東映アニメーション大泉スタジオ
取材/小黒祐一郎、岡本敦史
構成/岡本敦史




── 最初に、『モノノ怪』の出発点となった『怪 〜ayakashi〜(JAPANESE CLASSIC HORROR)』第3話「化猫」の話からうかがいたいんですが、あの作品はどういった経緯で始まったものなんでしょうか。
中村 元々は、僕と橋本さんがそれぞれ別のところで、東映のプロデューサーの方から声をかけられまして。今度『怪 〜ayakashi〜』というタイトルで、3人の監督と3人のビジュアル責任者を立てて、オムニバスを作ると。その最後の3本目に「化猫」というのがあるから、やらないか? って。タイトルだけはもう決まってたんですよ。で、個人的な話になるんですけど、僕はその時、別の作品を監督する話が来ていまして。むしろそっちの方を頑張ろうと思っていた。だから「化猫」の話が来た時には、「うーん、どうかなあ。やっぱり掛け持ちは無理だしな」という気持ちがあったんです。興味はあったんですけど、受けるか受けまいか、悩んでいました。
 その時たまたま、今『機動戦士ガンダム00』をやられてる、水島精二監督とサシで飲む機会があって、相談したんですね。「こんな話が来てるんですけど、どうっすかね〜」みたいな、ダラッとした感じで(笑)。そうしたら水島さんに「今の君の場合、地上波の方を頑張るべきだろうね」と言われたんです。その言葉を聞いて、結構ハッとして。『怪 〜ayakashi〜』は地上波だったけど、もうひとつの企画は違ったんですよ。「あ、そうですかね!?」って言ったら、水島さんも「いや、絶対そうだよ!」みたいな。
── 水島さんらしい(笑)。
中村 結構ハッキリ言われた事で、僕の中でボンヤリとしていた懸案に、シュッとフォーカスが合ったようなところがあった。それとはまた別に、橋本さんが「中村がやるならやってもいい」みたいな事を言っている、という話が伝わってきたんですよね。
橋本 私の場合は、飲み会の席でプロデューサーの樋口(宗久)さんから口説かれたんです。なぜかベロンベロンに酔っぱらってる時に。
── 樋口さんがですか?
橋本 私も飲んでましたけど。
中村 橋本さん、いつもベロンベロンだもの(笑)。
橋本 あははは。で、正直お化けの話とか、あまりやりたくなかったんですよね。祟られたり、何かいろいろありそうな気がして(笑)。それで「後日また連絡するから」と言われて別れたんですが、もう次の日のお昼ぐらいには呼び出されて「やりますよね?」って。私もとりあえず“来るものは拒まず”の人なんで、「じゃあ資料だけください。監督はどなたですか?」って訊いたら、中村健治に決まりそうだ、みたいな事を言われたんです。本当は全然決まってなかったんでしょうけど。
中村 全然、決まってなかったです。
橋本 まあ、タツノコでもちょうど席が隣だったので、隣同士でやれるならいいかなあ、くらいの気持ちでとりあえず受けたんです。でも、実は2日後に一度お断りしたんですよ。
── なぜですか?
橋本 『怪 〜ayakashi〜』という作品の中だと、やっぱり「四谷怪談」の天野(喜孝)さんの存在感が大きくて、それに次の「天守物語」は名倉(靖博)さんじゃないですか。まあ、勝とうとは全く思わなかったですけど、どう見ても弾き飛ばされそうなので……。その事を柿田英樹君という原画仲間に話したら、凄く怒られたんです。「あなたは何をやっているんだ! そういう仕事は絶対に受けなくちゃダメだ!」って。それで考え直して、「中村健治が監督するなら、やります」と言って、決心を固めたんですよね。
中村 僕は結構、それで追い詰められたところもある(笑)。橋本さんが「中村が降りたらやらない」と言っている、と聞いて。
橋本 うん、思いっきりそう言いました。やるなら一緒にやるし、彼がやらないのなら一緒にやらない。
中村 先ほど橋本さんが言われたように、やっぱり天野さんが「四谷怪談」をやるというのが大きかったんですよ。あの凄い画がそのまんま動く、みたいな話を当時は聞いていて。その次は名倉さんじゃないですか。『とんがり帽子のメモル』みたいなのが来るぞ、ヤバイぞ、って(笑)。それで、僕らに来たオーダーというのが、「アニメっぽいアニメを作ってください」というものだったんですね。
── ほほう。
中村 「いや、そんな罠にのるわけねーぞ! 俺達に恥かかせる気か」と思って(笑)。それでしばらくの間、作戦を練ったんです。まず、こちらには原作がなかったので……まあ「鍋島騒動」という題材はあったんですけど、正直言って全然読んでないです。ネットに落ちているレベルの内容をチラッと見て、「ああ、もういいや」みたいな感じ。わりとすぐに、今の「化猫」みたいなかたちにしようというアイディアは浮かびました。でも、そのまま企画が通るとは思ってなかったので、とりあえず自分で「こんなの作りたいです」というプレ企画書みたいなものをワードで作って、プロデューサーに渡したんです。そしたらテレビ局の人からOKが出ちゃって。わりとすんなり、なんの障害もなく始まっちゃった。
── 最初の「化猫」も、まるでシリーズものの1本のように見えますが、その時からそうする意図はあったんですか?
中村 ありました。やっぱりシナリオの分量などを考えても、最初に全てを説明して、粛々と物語を始めていくのは無理があるかなと。それで、だんだん内容が分かってくる作りにした。でも観ている人達にとって、分からない事が不安になるのはマズいな、とも思ったんです。それならいっその事、「これ、今日から観始めたけど、実はビデオ屋に行くと前作があって、それを観てないから分からないんだな」と思わせてしまえば、説明せずに行けちゃうと思ったんですよ。
 あと、3話で終わるというパッケージングに、ショートフィルム的なニュアンスがあった。ちょうど僕がショートフィルムに興味を持っていた時期とも重なっていたので、それも仕掛けとして入れよう、と。
── その後のシリーズ展開を見越した、パイロットフィルム的な狙いは?
中村 まあ、多少の色気はありましたけどね。このキャラクターや設定で、いろんなものが作れるような枠組みの提示はしておこうと。でも、それをセンターに捉えて作ってはいません。あくまで味つけです。
── 大目標ではなかった、と。
中村 ええ。企画が通った後は、スタッフもどんどん決まっていって。「背景を3Dにしたいんだ」みたいな事を言ったら、周りの反応が「なんで?」って感じだったので、そこはもう自分達でドンドコ進めちゃいました。初めて組んだ美術スタッフの倉橋(隆)さんと保坂(由美)さんが、攻撃的に仕事をする事に対してポジティブで、むしろ「こんな事やっちゃえ!」と言った方がノってくる人達だった。これはいいな、と思って。最初に、倉橋さんと2人で武蔵小金井にある「江戸東京たてもの園」に行って、日本の建築物を見てきたんです。夏の暑い中を1日ブラブラして、汗だくだく流しながら写真を撮ってみたり、その場で画を描いてみたり。「こんな間取りにしたらどうだろう」とか話したりしましたね。まだ何にも固まってなかったけど。
── 画作りのコンセプトは、言葉で言うと何になるんですか?
中村 ええと……「絢爛豪華」。
── その「絢爛豪華」な画作りになっていったきっかけは、なんだったんですか? 最初からあのビジュアルが、イメージとしてあった?
中村 ありました。当時、劇場作品とかだとかなり色のない、彩度の落ちたフィルムが多かったじゃないですか。あと、江戸時代とか平安時代を描いた作品でも、凄く白茶けた色味のフィルムが多かった。そういうものをいち視聴者として観ていて、あまりピンとこなかったんですよね。高級感はあるんだろうけど、若い人達とか、映像に興味のある人達がドキドキして観る感じのものではない。なんか「勝負かけてる」という感じじゃなくて、もうすでに評価が定まった土俵の上で、安全にモノを作っている気がしていた。自分達がこれから新しいフィルムを作る時に、そこで作っちゃうと全く新鮮味がない。
 当時はただでさえ、「この番組(「化猫」)って誰が観るのかな?」と、自分でも疑問を抱いているような感覚でしたから。企画意図は凄く「チャレンジングだなあ」と思ったんですけどね。一方で「所詮は深夜アニメじゃん」というドライな視点も自分の中にはあって。やっぱり今、アニメって普通の人に観られていないですから。
── コアなお客さんが主体ですからね。
中村 ええ。社会から阻害されている感じが凄くあったんです。電車に乗っていても、マンガを読んでる人はたくさんいるけど、アニメを観ている人達って想像できないんですよ。この満員電車の中の、いったい何人がアニメを観るんだ? みたいな。テレビでは秋葉原とかにいる、なんというか、ネタになるような人達が強調されていて。世間から見ると、アニメが特殊ジャンル的なポジションにある感じが、誤解っぽく強まっているというか。無茶苦茶アニメが好きな人じゃないと、もはや観ないのかな、と。自分自身、深夜アニメとかを全然観なくなっていたし。年齢を重ねたり、社会に出ていろいろやっていくうちに、これだけ忙しい人間が家に帰ってわざわざアニメを観るか? という感覚が凄くあったんですよね。
 それでも当時、わりと邦画が劇場で当たったりしていて、一般の人達にフィルムを観る力がなくなっているとは、決して思えなかった。面白いものはちゃんと面白いと言える人達が、日本語の通じる世界にこれだけいる。となると、「俺達に何か問題あるんじゃないの?」という感じがしていて。それなら逆を行こうかな、と思ったんです。
── 逆というと?
中村 みんなが耕さないところを耕してみようか、みたいな。それと、単純に自分がこれからフィルムメーカーになっていく上で、やっぱり存在意義みたいなものが要るだろうな、と。現時点で自分の上には凄い人達がたくさんいるわけですよ。「業界内ランキング」みたいなものを見た時、自分が何番なんだ? と思ったら、同じ土俵で勝負しても勝てないような気がして。じゃあ、みんながいないところに立った方がいいかな、という事なんです。
── 画作りの斬新さという点では、「化猫」を観た時は度肝を抜かれました。普通のアニメだと、パッと見でキャラクターと背景の見分けはつくんですけど、「化猫」や『モノノ怪』は、双方の見分けがつかない事もありうる質感ですよね。
中村 あれはわざとです。アニメ好きの人達に分かりやすい言い方をすると、全セルで作っている感覚ですよね。背景もセルで描いている感じ。逆に言うと、どれがセルで、どれが背景なのか分からなくていい。それは浮世絵からもらったアイディアなんです。背景もキャラクターも、ひとつの技法で全てが描かれていて、全てが線でくくられている。しかもベタ塗り。実際は「掠れ」とか、いろんな技法が入ってるんですけど。簡単に言うと、絵巻物がずっと続いているようなフィルムにしたかった。しかもカラフルなのがいい。
橋本 たぶん、アニメファンじゃない一般の視聴者の方って、いわゆるセル画への拒絶感でチャンネルを回しちゃうと思うんです。だけどああいう画で、しかも止まってるシーンが多かったりすると、「これ、なんだろう?」って思うじゃないですか。だからそういう効果を狙って、敢えてキャラクターを溶け込ませたんです。
── その「セル画への拒絶感」というのは、今風のきらびやかな、2段影でハイライトがたくさん入ってるような絵柄だと、普通の人は引いちゃうという事ですよね。
橋本 そうですね。だから影ナシにして、ハイライトもごくごく一部にして、キャラクターデザインもわざと今風の画からハズしていくというか。まあ、主役の薬売りはしょうがないですけども、それ以外のキャラはポンチ絵に近い感じで攻める、と。
── あれはポンチ絵なんですね。
橋本 はい、ポンチ絵です(笑)。もう本当に落書きの中から生まれたような感じにしよう、と。本当は薬売り自体も、もうちょっとポンチ絵寄りだったんですけど。監督から、主人公だけはこうしてくれ、というオーダーがいっぱいありまして。
中村 薬売りに関しては、橋本さんに見抜かれたところもあったんですけど、僕がずっとOKを出さなかったんです。途中から橋本さんに「お前、もう何かイメージがあるんじゃないのか?」みたいに詰め寄られて、「実は、こんな感じです」というものを出したんです。そこからまた橋本さんがアレンジしてきて。隈取りとかも歌舞伎っぽく入れようとか、マークをアレンジしてくれたりとか。薬売りは、最後にやっと出てきたキャラクターですよね。
橋本 そうですね。
── 橋本さんのキャラクターデザインは、監督としてはいかがでしたか。
中村 ああ、もう大満足です。
── 素朴な疑問なんですが、薬売りはどうして耳が尖っているんですか?
橋本・中村 分かりません。
── (笑)。別にエルフだとかじゃないですよね。
橋本 いや、本当に「なんとなく」です。最初に主人公の顔がバンと出た時に、こいつが化猫じゃないか? ってわざと思わせたいなあ、というのがあって。あとはまあ「ちょっと人間じゃないような、でも人間のような感じ」を狙っていくと、やっぱりなんとなく耳が……設定ではもうちょっと小さかったんですけどね。だんだんキツネみたいになってきて(笑)。
── 当時、「アニメージュ」の仕事で『怪 〜ayakashi〜』の設定資料を見る機会があって、その時に橋本敬史さんがキャラデザインだと聞いて、驚いたんです。「どんなのが来るんだ? 超リアル系か?」とか言っていたら、あんなものが出てきて(笑)。『夢枕獏 とわいらいと劇場』の橋本晋治さんが監督した「四畳半漂流記」を思い出しました。
橋本 あははは(笑)。
── でも、キャラ表の印象と完成したフィルムでは、若干違うんですよね。キャラ表ではもっとグラフィカルな画もありましたよね。
橋本 設定の時は、まだ完成されてなかったんです。まあ、設定は叩き台でいいや、と思ったんですよ。3回だから全部で1000カットぐらいだし、そのぐらいなら全部自分でコントロールできると思って。その前の『スチームボーイ』は2000カット近くあったわけですから。
── 蓋を開けてみたら、全く印象が違うという感じではありました。
橋本 やっぱり本当のところ、自分はキャラを描く事に照れがあるので……。薬売りのデザインにしても、隈取りを描いたのは、素の顔を見られる=自分の素を見られるみたいで嫌だったので、メイクで誤魔化しちゃったようなところがあるんですよ。他のキャラも、本当はもっとリアルな画でも描けたとは思うんです。でも、井上(俊之)さんにしても、一緒に『STEAM(BOY)』をやった外丸(達也)君にしても、私より巧い方はたくさんいるので、そういった先輩とか友達に見られるのが凄く恥ずかしい。だから、敢えてリアルにしない方で攻めてみたというか。
── キャラ表の方が、本編よりもコミカルな色が強かったですよね。
橋本 う〜ん、まだコンテが何も上がってなかったので(苦笑)。先ほども中村さんが言ったように、プロデューサーからの最初のオーダーが「アニメっぽくしてくれ」というものだったんですよ。天野さんや名倉さんとは全然違うテイストにするなら、コミカルな感じでもホラーはできるんじゃないのかな、と思ったんです。そういうつもりでやったんですけど、やっぱりコンテの要求がシリアスな方向だったので、本編で画をだんだん変えていった感じですね。
── なるほど。
橋本 薬売りも打ち合わせでは、最初は絶対に目を見せないで、話が進んでいくうちに途中から目を見せるという事だったので、設定では髪の毛をサラッと顔に被せて、横顔だと目は隠れて見えない感じにしていたんです。そしたら、1話のコンテのファーストショットで、もう目が見えるカットがあって。しかも横顔で(笑)。だから苦肉の策として、髪の毛をだんだんカールさせて、隙間から目が見えるようなデザインにしました。そういうところも含めて、本番中に変えていったような感じですね。
── デザイン的には、ある程度グラフィカルな感覚を狙っているわけですよね。
橋本 う〜ん、かもしれない。さっき言われた晋治君とか、大平(晋也)君とかも、まさに同じD.A.S.Tの同じ部屋で作業してたんですよ。やっぱり少なからず影響は……。話は変わるんですけど、エフェクトに関しては、大平君の影響をかなり受けているんです。
── えっ、そうなんですか!? いつの大平さんですか? 時期的には『AKIRA』の後ぐらい?
橋本 そうですね。『AKIRA』が終わって、彼が『RIDING BEAN』に入った時に、私も原画をやっていて、机がちょうど後ろだったんですよ。その時が初めての出会いで、エフェクトのノウハウをかなり教えていただいて、そこから私のエフェクト道が始まった。
── おお〜。
橋本 私が一番好きな大平君の作画は、『孔雀王2』のエフェクトなんですけどね。凄く生っぽい感じで。
── うわ〜、そうなんですか。てっきり、もっとバリバリのリアル系の発想から入っているのかと。
橋本 もちろんそれもあるんですけど。でも根っこの部分はやっぱり大平君だと思います。処理とか、重ね具合とか、かなり教わりました。それから今の画風に至るまでも、彼の影響は受けてます。『ハウル(の動く城)』の時も一緒にやってましたし。
── なるほど。話が思いっきり横道に逸れちゃいますけど、橋本さんと言えば、近年のエフェクトアニメは、ほとんど参加していると言っても過言ではないですよね。
橋本 エフェクトあるところに必ずいる、みたいな(苦笑)。
中村 確かにそうですよね。橋本さんの周りを見ると、エフェクトアニメーターの方が数珠繋ぎでいらっしゃる、みたいな感じで。
橋本 待機してくださっている方々が(笑)。
中村 そのお陰でアクションシーンとかも凄く助かりますよ。
── 「化猫」や『モノノ怪』でも、派手なシーンではゴージャスなアクションが炸裂してましたよね。
中村 描ける人達がいてこそ、ですよ。プラスαも持ってきてくれるので、それはもう「いただき!」みたいな感じで、活かしたいと思ってますから。「自由にやってください」とは、打ち合わせでも常に言っています。絵コンテでは最低限の事しか要求してない。
── ああ、そうなんですか。それは「化猫」から『モノノ怪』まで、変わらず?
中村 全部そうです。アクションの大変なところは、そのままでも充分大変なんですけど、普通のシーンに関して言うと、「止まってますけど、動かしてもいいですよ」みたいな事は言いますね。「コンテのとおりでも最低限フィルムにはなるけど、何かプラスαがあったら、レイアウト時に提案してください。どうするかはこちらで判断するので」という話はします。結果、打ち合わせが凄く長くなっちゃうんですけど。そもそもこのエピソードはこうで、このキャラクターはこうで、みたいな事を全て説明しなきゃいけないので。
── いわゆる「絵コンテで全てが指示されている」ような作り方ではないんですね。
中村 まあ、そうですね。
橋本 一応、指示されてはいますけど、まあ隙間はあるし、作画的にもいじくれるところはありますから。私も時間の許す限り、真面目なシーンだけど遊びを入れてみたり。やっぱり普通に動くだけのアニメって、つまんないじゃないですか。
中村 あと、あんまりコンテの段階でいっぱいいっぱいの事を(アニメーターに)要求してしまうと、本当に要求をこなすだけになっちゃうんですよね。なので、こっちもできるだけ無駄を削ぎ落として、内容に余裕を持たせる。15カット担当していたら、最後の2カットで時間に余裕があったからちょっと遊んじゃった、みたいな。そこがオイシイ! と思うんですよ。
── あんまりキツキツに管理する感じではないんですね。
中村 馬力のあるスタッフが揃っていたので、そういう人達のエネルギーを否定するよりは、むしろ上手くもらっていこうと。それと、自分から出していくところを上手く計算しながら、バランスをとっていく。でも最終的には、視聴者がどう思うかというところで決めます。まあ、自分なりの判断ですけどね。そこが唯一、緊張感が発生するところですかね。
 自分達が「これを出したいんだ!」というのをいちばん大事にするんじゃなくて、むしろ「今、何を出すのがいいんだろう」みたいな事を考える。2006年と2007年では、世の中に出して「面白い!」と言われるものって違うと思うんですよ。来年ウケる事を今年やってもウケないので、そこはやっぱり選択する。自分の中にあるアイディアを全部出し切るよりは、むしろ今年やるべき事の精度を高める事にエネルギーをかける、みたいな感じですかね。
橋本 私は「もうキャラはこれ以上やらない」と思ったので、全部出し切りました(笑)。

●『モノノ怪』中村健治&橋本敬史インタビュー 二の幕につづく


●関連サイト
『モノノ怪』公式サイト
http://mononoke-anime.com/

『怪 〜ayakashi〜』公式サイト
http://www.toei-anim.co.jp/tv/ayakashi/

●DVD情報
『モノノ怪』



壱之巻「座敷童子」2007.10.26発売 税抜3800円(2話収録)
弐之巻「海坊主」2007.11.22発売 税抜5700円(3話収録)
参之巻「のっぺらぼう」2007.12.21発売 税抜3800円(2話収録)
四之巻「鵺」2008.1.25発売 税抜3800円(2話収録)
伍之巻「化猫」2008.2.22発売 税抜5700円(3話収録)

カラー/16:9スクイーズ/リニアPCMステレオ(一部ドルビー・デジタル)/2話収録:片面1層、3話収録:片面2層
映像特典(予定):ノンテロップOP&ED、プロモーション映像集、キャスト・インタビュー、設定画ギャラリーなど
初回限定生産版特典
全巻:豪華描下ろし外箱付き
壱之巻:豪華ブックレット同梱
弐之巻:ミニクリアファイル封入
参之巻:ポストカードセット封入
四之巻:モノノ怪シール封入
伍之巻:折りたたみポスター封入
※仕様は変更になる場合があります

発売元:アスミック/フジテレビ
販売元:角川エンタテインメント

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(07.11.16)

 

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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