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『モノノ怪』中村健治&橋本敬史インタビュー
三の幕 観ている人をずっと裏切り続けるような
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── 全体の流れとして、『モノノ怪』ではどのように12回を作っていこうと思われたんでしょう。
中村 かなり計画変更があったというか、元々そういう作り方ではあるんですけどね。わりと最初にカッチリ計画は立てるけど、「これは無理だな」と思ったら、ちょっと路線変更しても構わない、みたいな感覚でやってました。
でき上がったシナリオを並べてみると、ウェット→ドライ→ウェット→ドライ→ウェットという順番に並べられるな、というのが分かったので、1本目の「座敷童子」は前作のウェットな印象のまま始められる。橋本さんにはバレたんですけど、実は前編の絵コンテは……。
橋本 前作のリメイクだ、と。
中村 そう、前の「化猫 序の幕」のセルフリメイクなんですよね。わざと同じような段取りでやってみよう、みたいな意図があった。だけどシナリオは違うから、自ずと前作とは変わっていく。
1本目はちょっとハードな内容なので、次の「海坊主」はわりとアニメチックに。声優さん達にもワイワイ芝居をしてもらって、わりとアニメファンの人達でも観やすい感じにしました。
── スペクタクル的な大仕掛けもあって。
中村 そうですね。でも意外と軽めになっていて、いろんな事がライトに作ってあります。そして次の「のっぺらぼう」では、かなり前衛的なものがドカーンとくる。テーマもウェットな感じ。前の「海坊主」がキャラクターの多い話だったから、こちらではキャラクターをギュッと少なくして、メリハリをつける。
── シリーズ中でも特にタイトに引き締まったエピソードでしたね。次の「鵺」もやや印象が異なりますが。
中村 「鵺」は、今までカラフルな世界できたので、逆に色をバーンと消していこうと。最後の「化猫」は、このまま安定して終わるのもどうかと思ったので、これぐらい飛んだものもやるんだよ、と示したかった。じゃあ時間を飛ばしちゃえ、という事で、比較的近代の世界を舞台にしました。だから事実上の最終回は「鵺」で、「化猫」はむしろ番外編みたいな感覚でしたね。
── そうだったんですか。番外編というのは、時代が違うから?
中村 それもあるんですけど、前回の「化猫」が表とするなら、今度は裏をやろうかな、と思ったんです。スターシステムじゃないけど、キャラクターは前に出てもらった役者さん達にもう一度ご登場願って、もう一度「化猫」というお話をやってもらう。前回は猫との絡みが濃かったので、今回は薄くなっている、とか。絢爛豪華からシックな画面に変化していく、とか。そうやって全部ひっくり返して作ってみたらどうなるのか、という感じでやってみました。
── 今回の「化猫」は、シックなんですね。
中村 ええ、落ち着いた感じにしてあります。画も凄く少ないんですよ。今までは壁に描いてある画とか、ふすま画とかをかなり前面に打ち出していたんですけど、今回はそれがない。
── ああ、そういえば全体的にモノトーンですよね。マネキンとか。
橋本 キャラクターもシンプルに、模様を一切なくして。
中村 1人ひとりテーマカラーを決めて、その色で全部作る。チヨは黄色で、門脇はオレンジとか。全部その色分けでやってしまおうと。
── ビジュアルのコンセプト自体から変えているわけですね。
中村 そうです。そうやって、いかに5つのエピソードを「あ、今回こうきたんだ」と観てもらえるか、考えながらやっていました。それと、DVDが5部ごとに分けて発売されるというのを、わりと早い段階で教えられていたので、1巻1巻それぞれ違うテイストで、どこから観てもいいようになればいいな、と思ったんです。お客さんの観たい順番で観てくれればいいように。
── 細かい事を聞きますが、各話のカット数はどのくらいなんですか?
橋本 300ちょいぐらい。最終話だけ、360ぐらいありました。
── 前作「化猫」は何カットぐらい?
中村 あれは各話300カット以内で、大体280とか? 最終話だけアクションがあったので、350ぐらい。
── 全体にカッティングがシャープになった印象があります。
中村 編集は前作と同じ片瀬(健太)さんにやってもらってます。もう阿吽の呼吸というか、「片瀬さんよろしく!」みたいな感じで。本人も慣れてきたという事もありますし。今回はかなり、編集で攻めているとは思いますね。
── 攻めているというと?
中村 こんなに溜めるんだ、とか、こんなに早いんだ、とか。かと思えば、いきなり普通にしてみたり。緩・急・緩・急みたいな感じで、ずっと観てる人を裏切り続けるような間合いを作っていく。やっぱり、いかに時間を感じさせるか、という事ですね。前回の「化猫」もそうだったんですけど、例えば普通だと「いや、もたないよ」って諦めちゃうところを、もう10秒も止めてるのに「いや、あと3秒止めちゃおうか」みたいな。「エーッ!」と思いながらやってみたら、こっちの方が「やってるな」って感じがする。じゃあ行っちゃえ! みたいな。もう一歩、敢えて意図的に、過剰にやってみる。
── それはコンテ段階でもやっているんだけど……。
中村 編集でさらにやっちゃうんです。
── なるほど。
橋本 運よく(?)スケジュールがなくて、編集・アフレコはコンテ撮でやっていたんですよね。
中村 だから画を延ばすのも自由自在、みたいな(笑)。
橋本 その編集素材のデータが、スタッフルームのパソコンに入っていたので、そこで「ああ、こうなったんだ」と見ながら、演技とか口パクとかを調整しつつ作画できた。時間はなかったですけど、そのおかげで台詞と画のテンションを同じに合わせられました。助かったんだか助かってないんだか、よく分からないですけど(苦笑)。
── いわゆるプレスコみたいな?
橋本 完全にプレスコです(笑)。
── アフレコは全部コンテ撮でやったんですか。
橋本 いや、ごく一部ですけど画もありました。佐々門(信芳)さんのラフ原と、私の描いたものがちょこっとあるぐらい。
中村 ダビングの時も、全部の色はついてなくて。だけど音響スタッフは素晴らしかったですよ。その想像力たるや、「そんな事まで分かるの!?」みたいな。
── 真っ白い画面にちゃんとした音を(笑)。
中村 ええ。みんなコンテをメチャメチャ読み込んでましたね。ダビングはもう普通に10時間とか12時間とか、平気でかかってました。でも全然、殺伐とはしてなかった。なんか気づいたら時間が経ってた、みたいな感じ。面白かったですね、ダビングは。
── 美術スタッフも、前作から続投というかたちで?
中村 そうですね、それとプラスα。美術監督の倉橋さんと保坂さんの2人が、元々小林プロダクション出身なので、その流れで今回から、青柳ゆづかさんと、金山えみ子さんにも新たに加わっていただきました。
前作は本当に、倉橋さんと保坂さん以外、一切誰もいなかったんですけど。
── あ、前の「化猫」の美術は完全に2人だけなんですか。
中村 全部2人で描いてます。だから今回は新しく何人かに参加していただいて、その方々のコントロールは倉橋さんと保坂さんに任せていました。主には倉橋さんが、その辺のスタッフ編成とか割り振りとかを、かなり頑張ってやってくれました。
── 橋本さんとしては、今回のシリーズはいかがでしたか? まず、キャラクターデザインについて。
橋本 う〜ん、恥ずかしいです。
一同 (笑)
橋本 前の「化猫」の話に戻るんですけど、薬売りは置いておいて、なぜ他をああいうキャラにしたかというと、あんまりデッサンを強調した画にすると、描ける人がとても少なくなってしまう。ベテランの先輩アニメーターの方々にもガンガン参加していただきたかったので、もっと自由な描線で、分かりやすいデザインで、目の大きさだけ見ればこのキャラだと分かるとか、頭が三角だからこのキャラだ、という感じでやりたかったんですよね。
今回の『モノノ怪』でもそれは踏襲しつつ、一応はデコボコ+多少リアルっぽい画も入れて、バリエーションを増やしてやりました。必然的に、線が前作より多くなっちゃったんですけど、そこはなんとか切り抜けたという感じですかね。
── 女性キャラのバリエーションも増えてますし。
橋本 ええっ! 全然増えてないですよ〜。
── 増えてないですか(笑)。
橋本 もう、女性キャラこそ本当に恥ずかしくて。やっぱり自分の好みが出ちゃうので、監督から「こうじゃなくて、ああだ」とか「女優さんでいえばこの人っぽく」とか指示をいただいたり、チェックを入れていただきました。ただ、(各キャラの)テーマの部分に関しては、例えば志乃さんだったら髪型をハートにして恋の矢が刺さってるふうにしたり、好きにやらせてもらえたので楽しかったですね。でも本当に、これ以上キャラクターが増えたら描けなかった。
中村 いやいや、そんな事ないですよ。前作の時も同じ事を言ってたんですよ(笑)。全然、大丈夫です。
橋本 やっぱり観てる人は、女性は美人じゃないと、という人が多いじゃないですか。声優さんだって、美人な顔に自分の声でやりたいと思いますし。でもあんまり美人ばかりが主役というのもなー、という気分もありつつも、それなりに綺麗に描かなくちゃいけない。そういうところでできるデザインって、ちょっと限界があると思うんですよ。だから本当に、もうこれ以上は増やさないでくれ〜、みたいな感じでした。
中村 僕は、そこに変なアニメ的フェティシズムが出なければいい、と思ってるんですよね。今回はやっぱり要求されている作品の質が、そういうものではなかったので。一部の人にしか受信できないものを作っても、ちょっと厳しい。橋本さんの描くキャラは、そういう意味で言うと……。
橋本 古い。
中村 まあ、いい意味で……。
橋本 古い。
中村 (笑)。いい意味で「ちょいユル」というかね。ちょっとこう、柔らかいんですよね。
橋本 まあ、そうですね。
── 今風のイケてるアニメとは、ちょっと違う?
中村 違いますね。宮崎駿さんとかの描くキャラクターもそうだと思うんですけど、最先端ではないですよね。それが逆に凄くいい。音楽でもそうですけど、ものすごく最先端に行っちゃうと、一般の人が聴いて「これ音楽なの?」みたいなものになっちゃう。コアな人は喜ぶだろうけど、普通の人にとってはノイズだろ、みたいな。今、アニメーションもどんどんそういう方向に進んでいってる気がするんですよ。だから、あんまりそういう波に気持ちよく乗るのはやめたいな、という話はしてました。
橋本さんも、キャラクターデザイナーとしてどんどん進化しているので、予想を超えたものを次々描かれるんですよ。それで、逆に「ごめんなさい、もうちょっとダサくしてくれませんか?」って、僕の方からオーダーする感じでしたね。
── 今回の「化猫」に出てくる雑誌記者の市川節子は、かなりアニメ美人に近づいてましたね。
橋本 もう限界でございます。
一同 (笑)
橋本 あれは前作の珠生さんのなぞり、というかスターシステムなので、珠生さんを1年後の自分がリライトするとしたらこんな感じかな、と思って描きました。あと、同じ雅というスタジオにいた、桂憲一郎君の画の影響も少しあったりするんですよね。AICにも随分長くいたので、男性キャラは恩田尚之さんの画風が、自分の手の中で自然に馴染んでいて……。薬売りのデザインも、最初はもっと恩田系の画だったんです。
── ああ! 言われてみれば微妙に(笑)。アゴのあたりの線とか。
橋本 あと、「化猫」以前にいちばん最後にキャラ作監をやったのが、大張正己さん監督の『餓狼伝説』だったんです。その影響も素で出てきていたりとか。石野聡君から「これは大張キャラだろう」といきなり言われて、それで「あ、本当だ!」と自分で気づいたりして。
── 薬売りがですか?
橋本 ええ(笑)。それと、フリーになって最初に机を借りたのが(スタジオ)ファンタジアというところで、森山雄治さんの下でやっていたので、加世ちゃんはやっぱり森山さんのキャラの影響があったりとか。
── ああ、ちょっと目の丸い感じとか。
橋本 そうです。すいません、なんか天然でいいとこ取りばかりしちゃって(笑)。
── 総作監としては、今回の12回でどのくらい手を入れられたんでしょうか?
橋本 最初の3回ぐらいまでは……「海坊主 序の幕」からはちょっとスケジュールがなくて、そこまで手を入れられてない部分もあるんですけど。薬売りのキャラクターは、全話ほぼ100%自分でコントロールしていました。初回と最終回は自分が作監ですしね。2回目の「座敷童子 後編」はまだ作品に慣れてないスタジオの回だったので、全部の画の修正と「このキャラはこういう演技ですよ」という指示は入れました。あとは東映社内の作監の袴田(裕二)さんと、窪(秀巳)さんが各話ローテーションで凄く頑張ってくださったので、後半はだんだん自分の仕事量は減っていきましたね。それに、みなさん前回の「化猫」を観てくださっていたので、あんまり大きく外した画は描いてこなかった。作業的には意外とライトな感じでしたね。前作は本当にあわあわして「どうしよう、どうしよう、寝られない」みたいな気持ちで作業してたんですけど、今回は後半にいくに従って、負担が軽くなっていったというか。その分、自分が原画に毎回参加するようにしてました。
── 毎回ですか?
橋本 グロス回以外、7〜8話ぐらいは原画をやってますよ。
── 主にアクションシーンとか?
橋本 そういうところもやってますし、普通のシーンも。あと、予告編は毎週間に合わなかったので、大体は私がダミーで描いてました。問題なかったら本編でも使う、という約束で。
── そうなんですか(笑)。本編の方でも、作画的に面白いところは多々あったと思うんですけど、それは総作監的に手を入れているというより、各原画マンの頑張りなんですか?
橋本 そうかもしれませんね。私は、コンテが上がった瞬間に、面白そうなシーンや変な演技ができそうなカットがあったら「こことここは自分でやっちゃうねー」と言って、総作監が回ってくる前に20カットぐらいの原画を1週間かそこらで終わらせてたんですよ。あとは、社内の林(祐己)君という若手が、毎回の変身シーンとかを凄く頑張ってくれて。実際スケジュールがない中、ホントよく動かしてくれたと思います。演技を楽しんで描いてくれる原画マンさんも多く参加してくれたので、助かりました。
── 監督にお訊きしますが、今回、コンテの発注とチェックはどうされていたんですか? 前回は全3回だから全部に手を入れる事もできたと思うんですが、12回ではさすがに無理でしょう。
中村 そうですねえ。前の「化猫」は最終的に全部のコンテに手を入れたんですけど、今回も結構、自分で直してますね。中には手の届かなかった部分もあるんですけど……。「鵺」に関しては、山崎(浩司)さんが非常にいいコンテを上げてくれたので、あまり手を入れてないです。
── では、各話の演出の方々の仕事は?
中村 演出は素晴らしい仕事をしました。今回の顔ぶれの中では、やっぱりうえだ(ひでひと)さんと山崎さんが、いちばん食らいついてきてくれましたね。あと、羽多野(浩平)君もかなりいろんな話数で頑張ってくれました。若手の子なんですけど、1回1回どんどんレベルが上がっていって、凄くよかったですよ。
●『モノノ怪』中村健治&橋本敬史インタビュー 大詰めにつづく
●関連サイト
『モノノ怪』公式サイト
http://mononoke-anime.com/
『怪 〜ayakashi〜』公式サイト
http://www.toei-anim.co.jp/tv/ayakashi/
●DVD情報
『モノノ怪』
壱之巻「座敷童子」2007.10.26発売 税抜3800円(2話収録)
弐之巻「海坊主」2007.11.22発売 税抜5700円(3話収録)
参之巻「のっぺらぼう」2007.12.21発売 税抜3800円(2話収録)
四之巻「鵺」2008.1.25発売 税抜3800円(2話収録)
伍之巻「化猫」2008.2.22発売 税抜5700円(3話収録)
カラー/16:9スクイーズ/リニアPCMステレオ(一部ドルビー・デジタル)/2話収録:片面1層、3話収録:片面2層
映像特典(予定):ノンテロップOP&ED、プロモーション映像集、キャスト・インタビュー、設定画ギャラリーなど
初回限定生産版特典
全巻:豪華描下ろし外箱付き
壱之巻:豪華ブックレット同梱
弐之巻:ミニクリアファイル封入
参之巻:ポストカードセット封入
四之巻:モノノ怪シール封入
伍之巻:折りたたみポスター封入
※仕様は変更になる場合があります
発売元:アスミック/フジテレビ
販売元:角川エンタテインメント
Amazon
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