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■『おお振り』
水島努監督
インタビュー

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『おおきく振りかぶって』水島努監督インタビュー
第2回 自分の中では、どれも本物なんです


▲第10話「ちゃくちゃくと」より。西浦ナインの面々

── コンテのフォーマットなどは監督が作ったりされたんですか?
水島 いえいえ、全然。
── 「こういうカットはなしで」とか。
水島 言葉ではちょっと説明しましたけど、途中でやめました。最初は「TVで観るプロ野球中継のカメラアングルは一切使わない」というルールだったんですよ。
── 例えば?
水島 いちばんよくあるのは、望遠レンズでピッチャーが手前にいて、奥にキャッチャーとバッターがいるっていう画ですね。あれだと遠近感が全くなくて、見ていて迫力がないんですよ。あのアングルで見る限り、フォークボールを投げていても、なんかクソボールを空振りしているようにしか見えない。それと真俯瞰ですね。東京ドーム真俯瞰のカメラから見たクロスプレーみたいな、ああいう画もやめようと。
── なるほど。
水島 あとは極端なアオリ、極端な俯瞰といった、ハッタリで逃げるようなカットも使わない。なるべく地面に三脚を立てて、普通にカメラを置いて撮っている画でやっていこうと。最初の頃はそういうルールを逐一説明してたんですけど、それだとスタンドの観客が見えちゃうんですよね。
── ああ、画面の奥に。
水島 そうです。グラウンドで普通にカメラを置いて撮ると、観客が全部映っちゃったり、外野手が全部映っちゃったりして、とてつもなく大変な事になってしまう。だから、そこらへんのルールは途中から少しぬるめにしました。「理想だけど、無理なら構わない」ぐらいのレベルになっていきましたかね。6話か7話あたりから、そんな事を言い出したような覚えがあります。
── 球場の空間演出みたいなところで、レンズ選びがとても的確だった印象があります。わりと被写界深度の浅いレンズ(で撮っている表現)を多用されていたと思うんですが。
水島 そうでしたかね?
── 例えばマウンドにピッチャーがいて、バックの客席や外野はアウトフォーカスでぼやけていたり。球場の奥行きとか、人物を際立たせる感じで。
水島 ああ、そういう意味では、今までの作品の中でマルチ効果がいちばん多かったかもしれない。どうしても望遠気味のアングルが多くなっていたので、そういうところでは工夫していました。「レンズが変わったんだよ」というのも、観ている人に教えてあげなきゃいけないし。
── アニメってそのまま演出抜きで撮影するとパンフォーカス(全てにピントが合った状態)にしかならないですけど、今回の作品ではそのあたりの映像演出がしっかりしていた気がします。球場の空間設計についてはいかがですか?
水島 3Dでレイアウトを起こしてみて初めて分かったんですけれど、3Dで起こしたものは、なんかパースが違っているように見えるんですよ。絶対に間違いないはずなのに、「なんか変だぞ?」って。つまり、人間の目ってそこまでいい加減にできているんだな、という事がよく分かりました。レンズを変えただけで、もう全然違っちゃう。なんかあんまり「本物はこうなっているから」という意識をしすぎない方がいいんだな、とは思いましたね。
── 今回も『xxxHOLiC』のTVシリーズと同様、地上波とBSでは画面サイズが違うという放映形式でしたが。
水島 そうなんですよね。いやあ、面倒くさいですよ。特に今回は集団ものなので、画面から弾かれているキャラがたくさんいます(苦笑)。大体、あんまり目立たない子達が弾かれちゃうんですよね。沖とか巣山とか西広とか、そのあたりになっちゃうんですけど。
── 4:3だと、地味なキャラがますます目立たなくなっていく、みたいな。
水島 ええ。24話で、最後にみんなが「応援ありがとうございました!」って言う芝居なんかも、実際には全員いて、控えの子もいるし、隅っこにマネージャーまでいるんですけど、4:3だと多分7人ぐらいしか見えていない。それは16:9のDVDで観てもらえれば「全部いるぞ」と。地味なキャラだけど必ず描いているんだよ、というのが分かってもらえると思います。
── モノローグの非常に多い作品でもあったと思うんですけど、そのあたりをどう処理するか、迷われた事はありましたか?
水島 完全に成功したとは言えないんですけれど……モノローグって、(人物の)アップにしなきゃいけないんですよ。ロングでモノローグをスタートすると、何の事だか分からないんですよね。その辺は気をつけていたんですけど、どうしてもアップから入るカットが多くなっちゃう。だからところどころで、仕方なくオフから始まったり、ロングから始まったりしたところもありました。でも、そんなに難しく考えていないです。
── 水島監督といえば、わりと毒のあるユーモアも持ち味だと思うんですが、今回はそういった部分は意識して出さないようにしたんですか? というか、出すところがなかった?
水島 うーん、どうなんだろう。
── 『xxxHOLiC』『撲殺天使ドクロちゃん』『くじびきアンバランス』など、作品ごとの切り替えの鮮やかさは、今回特に感じられた気がします。
水島 自分の中では、どれも本物なんですけれどね。
── そうなんですか。
水島 ええ。どれひとつ無理をしているつもりはないし、何かをひた隠しているつもりも全然ないんです。『ドクロちゃん』の場合も、ああいう作り方がいちばんいいのかなと思って。まあ、あっち系のスキルはいっぱい持ってるし、みたいな感じですかね(笑)。
── だから今回の作品を観ながら、水島監督はもっと違ったものも作れるのかな、と思いました。
水島 ああ、そう言っていただけると嬉しいです。
── 極端な事を言えば『機動戦士ガンダム』みたいなものもいけるんじゃないか、と。
水島 『ガンダム』ねえ、(水島)精二兄貴の方に行ってしまいましたけれどね(笑)。こっちに話来ないかなあ。
── 実際、今回は今までにないくらいリアルものじゃないですか。
水島 そうですね。まあ、リアルものだけれどキャラものでもある。キャラの魅力を活かすとか、デフォルメとかはそれなりに得意とするところですから。
── ああ、なるほど。
水島 そういうところでは今までの経験も結構使えたな、というのがありますね。それと、カット割りとかカメラ位置とかに関しては、もうホントに『ドクロちゃん』だろうが『xxxHOLiC』だろうが、自分では全く変えていないんです。
── えっ、同じなんですか?
水島 ええ。FIXベースという意味では全く変わっていません。基本的にどの作品でもカメラはブン回してないですから。
── それには何か理由があるんですか?
水島 いや、若い頃にいろいろやってきて、やっぱりFIXは見やすいという結論に落ち着いたんですよ(笑)。あと、アニメはアップが多いので、個人的にはちょっと引いた方が……これはホントに好みかもしれないですけれど、引いた画の方がいろんな空気を取り込んで、何かあるかもしれないと思わせられるかな、という感じはあります。
── じゃあ、ご自身としては、『おお振り』は別に新境地でもなんでもないんですね?
水島 ……そう言われるんだろうなとか、オンエア前にはみんな不安に思うだろうなとか(苦笑)、そういう事は思いましたけれどね。違うジャンルだからといって無理しているとか、そういう事は一切ないです。
── 今回この作品を手がけた事で、何か演出面などで新しく得たものはありましたか?
水島 演出的なスキルという面では、あまり変わらないですかね。それよりは、どちらかというと「野球は楽しいな」とか(笑)、野球の見方が変わったとか、あんまりアニメに関係ない事ではいろいろありました。
── そういえば、後半の試合のシーンではBGMが少なかったですね。
水島 そうですかね?
── 音楽というと、ブラスバンドの演奏の方が目立っていました。
水島 ああ、そうですね。ブラバンの音が入ると、それだけでBGM代わりになるんですよ。それと同時に、ブラバンの音を使っていると、状況とか心理的なものを表す音楽を入れるタイミングが難しくなるんですよね。そういうわけで、特に試合が始まってからはBGMは少なかったです。これはもう最初から仕方ないと思っていました。一応、ブラバンの音と区別できるように、BGMでは管楽器を使っていないんですよ。
── ああ、そういえばそうですね。
水島 はい。ストリングスとかの音がメインになっています。

▲第14話「挑め!」より。桐青高校の応援団とブラスバンド

── ブラバンの選曲は、どなたがなさっていたんですか。
水島 とりあえず、みんなで「高校野球といったらこれだよね」という候補曲をいっぱい出して、消去法で「これは使える、これは使えない」というやり方をしています。なかなか権利って面倒くさくて、使えない曲が多いじゃないですか。言わずもがなですけど、外国の曲は絶対に使えないから、よく聞く「ポパイ・ザ・セーラーマン」とか「バケーション」とかも使えないんですよね。「イノキボンバイエ」なんかも、元々は外国の曲らしくて。だから、外国の曲で唯一使えたのは、著作権のない「アルプス一万尺」だけ。
── アニメ主題曲がかかったりすると、ちょっとメタ的な感じがして面白かったです。
水島 ああ、「(宇宙戦艦)ヤマト」とか、「ルパン(三世のテーマ)」とか、「(海の)トリトン」ですね。
── アニメの曲が流れる事で、逆に「ああ、このドラマは現実世界のものなんだ」と気づくみたいな。
水島 そうですね。ブラスバンドの演奏が流れる事によって、架空の存在がホントにいるかもしれないと思わせたいという効果は、凄く狙っていました。それにはやっぱり本物が欲しい。音楽に関しては相当わがままを聞いてもらいました。
── これだけ既成曲がたくさん流れるのは快挙ですよね。DVDでは特定の曲が外されたりする事はないんですか?
水島 DVDでも外れないです。海外だと外れる曲が少しあるのかな。「栄冠は君に輝く」とか。
── 11話の抽選会の開会シーンで流れますね。高校野球といえば定番のメロディー。
水島 でも、あれは海外の人が聴いても、日本人みたいに感無量にならないじゃないですか(笑)。だから、まあいいかなとは思うんですけどね。でも、11話のあの場面で「栄冠は君に輝く」が流れた時は、凄く嬉しかったですね。最初は劇中で使えるかどうかもよく分からなくて、「もし使えなかったら、このシーンってどうなっちゃうんだろう?」と思っていたんです。それで、いろいろ交渉していただいた結果、使えるようになったのでよかったなと。14話で「狙い撃ち」が流れた時も嬉しかったですね。
── ブラスバンドが最初に演奏する応援曲が「狙い撃ち」でしたね。
水島 『おお振り』のお話をいただいた時からの作戦として……まあ作戦ってほどでもないんですけど、やっぱりアニメは画と音のダブルでいかないとダメだと思っていましたから。ブラスバンドはもう、最初からやりたかった事ですね。
── 24話の「夏祭り」は、とっておきという感じがしました。
水島 あれはムチャムチャとっておきました(笑)。「夏祭り」と「Runner」は、あの回のために誰にも渡さなかったですね。
── 「手を出すなー!」って。
水島 監督権限を行使してね。

●『おおきく振りかぶって』水島努監督インタビュー 第3回につづく


●関連サイト
TBS『おおきく振りかぶって』公式サイト
http://tbs.co.jp/anime/oofuri/

『おおきく振りかぶって』各種情報サイト
http://www.oofuri.com/

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(07.12.25)

 
 
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