web animation magazine WEBアニメスタイル

 
熱烈再見『ギャートルズ』

第3回 井上俊之
『ギャートルズ』と作画を観る喜び

―― 井上さんは『ギャートルズ』は、本放送で観ていたんですか。
井上 本放送時に、結構な頻度で観ているんだよね。放送データと併せて考えると14歳か15歳の時なんだけど、もっと子どもの頃に観ていたような気がする。面白がって観ていた記憶があって、友達との間でも猿酒のこととか、マンモスの肉とか、話題になってたんだよね。でも、さすがに当時は、作画のことは一切気になっていなかった。まだ、自分がアニメーションに目覚めてないというのもあるし、絵柄の事もあって、子供には上手な画には見えなかったんだろうね。俺は、その前の『巨人の星』の本放送時に、荒木(伸吾)さんの作画に反応はしてたから、ああいう分かりやすいものだったら、当時でも反応したと思うんだけれど。
―― なるほど。
井上 再放送を観たのが、多分、アニメーターを志すようになってから。その時の印象に残ってるのは、シリーズ後半の前田(実)さんが1人で原画やってた回なんだ。当時、もう芝山(努)さんのことも知っていて、前田さんが描いた画には、凄くボリュームがあるなとか、芝山さんっぽいなと思った。だけど、今回改めて観たら、ちょっと当時の印象とは違っていた。芝山さんぽいというよりも、前田さんの独自の色が強かった。前田さんは、こんなに個性的だったんだというのを再発見したというか。
―― 今回は時間もあまりなくて、全話を観る事はできなかったと思うんですが。どのくらい観ていただけたんでしょうか。
井上 半分近くは観たと思う。しかも、前半は、ある程度早送りするつもりで観てたんだけど、ほとんど早送りしてないかな。30話あたりまでは8割ぐらいは観たと思うんだけど。
―― 改めて『ギャートルズ』を観て、印象としてはどうですか。
井上 いや、これほど作画を観る喜びを味わえるとは思わなかった。これほどの作画アニメだったという事を、再確認できたのは収穫だったと思うよ。
 正直言うと、出だしあたりの10話くらいまでは、どこか片手間にやっているような感じがあって。誰がどこをやっているのか、あまり分からない。途中からそれぞれの色が濃く出るようになるんだよね。小林治色や、芝山努色が凄く出るようになった最初が「バラバランチズの巻」(13回A・25話)かな。芝山チームでは、芝山努、小林治、椛島義夫の3人で原画を描いているんだけど、特に小林治のところは、小林さんのオリジナルに近いというか。フォルムも原作から離れて、小林治まるだしのフォルムで描いてて。芝山さんと椛島さんはちょっと似ているんだけど、オーソドックスで、わりと原作のテイストにあった感じでやってるのが椛島流なんだろうね。
―― 「バラバランチズ」でとうちゃんが派手に暴れたりしてるところが、小林治さんの作画ですか。
井上 小林治さんだと思う。あの(とうちゃんがゲストキャラの男と)対決するあたりとかね。構図の面白さと洒落たタイミング、本当に粋な動き。そういったものが楽しめるよね。それと、好きなのが「ネムネムハルーンの巻」(20回A・39話)なんです。春うららで全員が眠たくなるという話。それも小林治さんのあたりが大好きなんだ。俺がアニメーターを志したころ、一番好きだったのが小林治さんなんだよね。何といっても画が巧い。今の若い人たちが見ても、小林治さんの巧さはよく分かると思うんだよね。芝山さんや椛島さんになると通過ぎて、分からないかもしれないけど。でも、そのへんを見分ける面白さもあると思うんだ。そういう事を考えながら観る楽しみを、今回は随分味わった。『ギャートルズ』の頃って、芝山さんたちって年齢的にはいくつなんだろうね。
―― 30歳くらいじゃないですか。
井上 じゃあ、脂が乗りに乗ってる時代だよね。
―― 13話あたりから、見ごたえのある話が出てくるわけですね。
井上 うん。近藤(喜文)さんは近藤さんらしく。『ギャートルズ』の近藤さんは、テレコム時代のフルアニメ的な感じの近藤さんではなくて、朴訥とした感じの作画なんだ。近藤さんも、小林さんとか芝山さんがやっているような、誰もが「巧い!」と思う作画もできるんだけど、あえてそうはしていない。これは俺の深読みのし過ぎかもしれないけれど、あの『ギャートルズ』の世界観でやるには、どういう動きがいいんだろうかというのを、近藤さんは1人で模索してるような気がするんだよね。
―― なるほど。
井上 シリーズ前半のAプロは、芝山チーム、近藤チーム、河内チームの3チームでやっているみたいだね。前にも話したけれど、河内さんは、俺にとってAプロの中でも好きなアニメーターなんです。アニメーターの歴史の中でも、人間の運動を描かせたら、一番冴えてるんじゃないかなと思えるぐらい巧い人なんだけど。そういう河内さんの持ち味は『ギャートルズ』ではあまり出ていない。河内さんチームの中では、青木雄三さん。青木雄三さんの力の抜けた作画というか、ルーズな原画が『ギャートルズ』にマッチしているんだろうね。そういう意味で青木作画も、かなり楽しめる。「ガラガラオロチをさがせ!の巻」(64回・121話)は、青木さんが相当描いていて、これもよかった。それから、Aプロ以外だと、百瀬(義行)さんの存在もあるね。
―― 百瀬さんもいいですよね。
井上 百瀬さんは、あの忍者虫が出てくるやつ。あの話の百瀬原画が素晴らしくて。なんて話だっけ。
―― 「ヘンテコテコムシンの巻」(24回A・47話)じゃないですか。
井上 ああ、それだ。これの忍者虫のくだりが、百瀬さんの原画だと思うんだよね。今の目で見ても、細やかに原画を入れている。当時のアニメで、あれほど細やかに原画を入れる事って、なかなかないんじゃないかなあ。非常にマンガ的な動きで『ど根性ガエル』のいい話数の百瀬さんに近い、たっぷり原画を使ったメリハリのきいた動きをしてる。「ラララーコイビトの巻」(31回B・62話)もよかったし、他にもいい話があった。そういう部分があるので、百瀬回もなかなか楽しめる。あと、さっき言い忘れたんだけど、芝山チームだと「マンモスゴーンの巻」(27回A・53話)もいいんだよ。
―― 『ギャートルズ』はタイトルをみても、内容が全然分かんないですね(苦笑)。
井上 分かんないんだよね。俺もメモを取りながら見ていたんだけど、後でサブタイトルを見ても、どんな話か思い出せないんだ(苦笑)。「マンモスゴーンの巻」はゴンが仙人について修行して、空を飛ぶ話だよ。
―― ああ、あれですか。あの話もよかったですよね。
井上 芝山チームではこれが一番よかったかなあ。ただ、クレジットが違っているみたいなんだ。
―― クレジットだと、芝山チームじゃないんですね。
井上 多分、次の話とクレジットが逆になっているんじゃないかな。次週の「ナクナクンゴリラッペの巻」がクレジットで芝山チームになってるんだけど、その話にどうみても青木作画があるんだ。途中からの芝山チームの回はどれも好きなんだけど、「マンモスゴーンの巻」はそれぞれの特徴が出ているし、しっかりと作画をしている感じで、特にいい。
 シリーズを通じて、これほどAプロ濃度が高いアニメだったのかというのは驚きだよね。本放送当時、その辺が印象に残ってないのが不思議なぐらいに、Aプロ作画アニメ。Aプロ作画のよさが、堪能できる。価格が安いものではないので、DVD-BOXを買えとまでは言わないけど、Aプロファンなら観ても損はないでしょう。
―― 作画マニア的には要チェックですね。
井上 そうだね。Aプロの大半がシリーズ中盤で抜けてしまうとは言っても、青木さん達は後半も残っているからね。いい作画がどのくらい入っているかが気になって、DVD-BOXを買うか悩んでいる人がいたとしたら、安心して買ってもいいんじゃないかな。シリーズ前半にこれだけいいものがあって、中盤以降も十分見ごたえがある。それと、福富博さんの演出もあるしね。俺は、あんまり演出を気にする方ではないんだけど、福富演出は観ていて引っかかるよね。非常に実験的で、普通はテレビアニメでは見ることのできないようなカット割とかを、バンバンやってて。
―― 確かに福富さんは、信じがたいことやってますよね(笑)。
井上 信じがたいことやってるよね(笑)。見ていると、毎回違うことにチャレンジしてるんだよね。凄く短いカットをインサートで挟んだりとか、シーンとシーンのつなぎを凝ってみたり。それもでたらめな事をやって変な効果を出しているんじゃなくて、確信をもって変な事やってんだよね。あの時、福富さんっていくつなんだろう。
―― 24歳ですって。
井上 ああ、若いねえ。演出デビューは何になるんだろ。
―― コンテは『侍ジャイアンツ』が最初らしいですよ。処理からやったのは『ギャートルズ』が最初だそうです。もう少し作画の話をお願いします。さっき、最初の数話はそんなにテンションが高くないという話でしたが。
井上 多分、描いているうちに楽しくなっていったんだろうね。当時、若手にとっては『ギャートルズ』は、あまりやりたくない作品だったんじゃないかと思う。
―― それは、キャラがかっこよくないからですね(笑)。
井上 そう。俺も若い頃に『ギャートルズ』をふられたら、気落ちしたと思うんだよね。キャラを見れば、いわゆる巧い作画を描いちゃ駄目だというのが分かるし。当時の若手も、それでやる気をなくしてたのかもしれない。だけど、途中からそんな中でもいい作画を見せる人がいたりして、皆がノッてきた。そういうことだったのかなあ、と思うんだよね。その中でも、前田(実)さんはノッて描いてる気がするんだよね。特に、中盤から後半にかけて。
―― まるで水を得た魚のような。
井上 うん。近年ではキャラクターデザインと作監ばかりになっているので、原画マンとしての前田さんって、知るチャンスが少ないと思うんだよ。俺は同じスタジオにいて直接見ていたから、前田さんのいい原画を知っているけど。『ギャートルズ』は前田さんが一番ノッてた頃だと思うんだ。こんな原画を描いてたんだということが分かるだけでも、見る価値があるんじゃないかなあ。
―― 多分、前田さんの原画マンとしての代表作って『ギャートルズ』と『がんばれ!!タブチくん!!』じゃないですか。
井上 『タブチくん』だろうね。あと、TVの『(Dr.スランプ)アラレちゃん』でも1人で原画描いた回があったと思う。
―― ありましたね。確かキャラの感じが、ちょっとAプロ調というか、東京ムービー調になっていましたね。
井上 ビデオを観ていたら、俺も『ギャートルズ』を描きたくなった(笑)。今、『ギャートルズ』を描いたら楽しめるんじゃないかという気がした。キャラ表に縛られないで、自由なフォルムで描く。色んな事を発想して作画するという、自分に一番欠けてる部分を伸ばすことができる。そういう素材だと思うんだけどね。
―― それは井上さんだけでなく、大半の今のアニメーターさんに、欠けてる気がしますけどね。
井上 そうだね。今は、自由に何をやってもいいって作品って、ほんとにないよね。原画で実験的な事をやって、それが作品のダメージにならない作品が少ないからね。それに今、『ギャートルズ』的な作品があったとして、俺や今の若い人が、あそこまで自由にできるかどうかというのは分からない。あれは当時ならではの自由さかもしれないなあ。ところで『ギャートルズ』のマンガって知らないんだけど、原作はどんな感じなの。
―― あそこまで脂っこくはないですけど、アニメ版は原作に沿ってますよ。
井上 原作に沿ってるんだ。それは内容的にも?
―― 内容的にも。大人向けの「ギャートルズ」と、子ども向けの「はじめ人間ゴン」という漫画があって、それを混ぜてアニメ化しているんですよ。だから、ゴンのとうちゃんが若い女を手に入れようとする話なんて、大人マンガのノリですよね。
井上 ああいうのは唐突だよね(笑)。「かあちゃん、かあちゃん」と言ってたかと思うと、突然若い女の子に向かっていったりして。
―― 「ゴン、俺はこの娘さん達と旅に出る!」とか宣言したり(笑)。
井上 メチャメチャ。一貫性がないよね。同じような話が何度もあるし。でも、それが作品のダメージにはなってないんだよね。そういったルーズなところすら、楽しいというか。
―― 今回の、過去の作品をまとめて見返すという企画はいかがでした?
井上 見てよかった。こういうチャンスをいただいてよかったと思う。人からビデオを借りたりしても、長いシリーズのものって、なかなか全部は見られないものね。まあ、忙しいのもあるし。
―― 他にも見たいものもあるし。
井上 そうそう。現在進行中の作品も、それなりにチェックしてるからね。その中で過去のシリーズを見ていくのは、なかなか大変なことだよ。だから、このひと月は、外食とか買い物に行ったりする時間を削って『ギャートルズ』を見る生活をしていました(笑)。小林治作画を久しぶりに見ることができて、非常に嬉しい日々だった。歳をとったら、ああいう作画をしてみたいなと思う。
―― (笑)。
井上 いや、本当に。巧くないとできない作画なんだよね。巧さを1ポイントに凝縮させている感じの作画だから。フルアニメ的な仕事をやった後に、ああいう作画ができたらいいなと思う。老後の楽しみに。

●熱烈再見『ギャートルズ』メインへ


●関連記事
初のビデオソフト化『はじめ人間 ギャートルズ』
DVD-BOXの予約締切日迫る(05.07.11)


あの声、あのキャラ、あの作品 
肝付兼太と『ギャートルズ』(1)(05.07.14)



(05.07.19)

 
 
  ←BACK ↑PAGE TOP
 
   

編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
Copyright(C) 2000 STUDIO YOU. All rights reserved.