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リニューアル記念放談 佐藤竜雄×小黒祐一郎
その2 『学園戦記ムリョウ』と製作委員会


小黒 最近、メーカーの人と仕事をしたり、話をしたりして感じるのは、余計な事をする人が少ないって事かな。周辺の展開にしても、最低限の事しかやっていないというか。
佐藤 まあね。作品の数も多いし、みんな、忙しいでしょ。メーカーによっては、音楽プロデューサーが本業である人が、映像プロデューサーを兼任したりしているわけだし(苦笑)。
小黒 パッケージにするのが精一杯で、どうやって売るか、というところまで気が回ってない場合が多いような気がする。
佐藤 (パッケージにする作業が)終わった瞬間に疲れちゃってるからね。そこから先、作品を売っていかなくちゃいけないのに、作り終えたところで仕事がおしまいになってしまう。アニメのDVDの売り上げが、初動でおしまいになっているのは、それ以降(メーカーが)追いかけるのが面倒くさいから放りっぱなし、というのが大きいよね。
小黒 ちょっと話は違うけど、そもそもアニメって放映中に儲からなくても、何年も再放送を続けたり、海外に売ったりして、それがプロダクションの財産になったわけじゃないですか。
佐藤 はいはい。
小黒 作った時は儲からなくても、いいものを作っておけば、後々お金になるって事は、今までの多くの作品が証明しているよね。タツノコなんて、いまでも『ガッチャマン』で色々な展開をしているじゃない。
佐藤 そうだね。それはいい事だよ。
小黒 だけど、最近は「今、売れないとダメだ」という風潮になってしまっている。
佐藤 ヘタすると、売れないものは存在抹消ですよ。そんな作品はなかったみたいな事になってしまう。それもあるんで『学園戦記ムリョウ』を作った時に「これは恐らくメーカーが想定している枚数よりは確実に落ちる」と思ったんで……。
小黒 DVDやビデオの売り上げね。
佐藤 うん。1巻あたり数千本だろうな、と思ったら、その読みが当たってしまった。国内でのDVDの売り上げがあまりよくないと、メーカーさんはそこで商品展開をやめてしまうんだよね。それもあって、二手三手先、売れなかった事も考えて、製作委員会にフィルムの管理を任せる事にしたんです。だから、今でも海外などで『ムリョウ』の営業は続いてるんで。
小黒 ああ、そうか。そういう問題もあるんだ。ビデオメーカーさんだと、作品のその後の展開を活発にやってもらえない可能性があるのか。
佐藤 いい作品を作っても、マスタールームにしまい込まれちゃって、「あの作品どこ行っちゃったかな」って感じになっちゃうし。だから、売れなかった事も考えて(苦笑)、一応色々考えたんだよ。製作委員会方式はダメだと言われる事が多いけど、「フィルム自体を守る」という意味では、あのやり方は間違いじゃないんだよね。
小黒 ええっと、ここで読者に説明すると。
佐藤 あ、今回も説明するんですね。
小黒 『ムリョウ』に関しては、製作委員会という組織が本当にあって、ちゃんと事務所もあるんですよ。事務所には「学園戦記ムリョウ製作委員会」の看板も出ている。他の製作委員会って、いくつかの組織がお金を出し合ったチームなんだけど、組織としては曖昧だものね。
佐藤 組織という事で言うと、俺も驚いたんだけど、製作委員会って登記しないんだよね(苦笑)。『ムリョウ』を始めた時には、ちゃんと登記しようとしたんだけど。
小黒 ああ、製作委員会って会社なんだ。
佐藤 会社っていうかね、あれはね「組合」(笑)。
小黒 へえ、組合なんだ。
佐藤 いろいろ調べてもらって、製作委員会っていうのが、組合と同種な組織である事が分かったんです。同時に法制度上、登記は無理だってことも分かったので、予算から事務局運営費を出してもらってね。なるべく実体のある製作委員会にしていこうという流れになって。登記はできないから法人格は持てないけども、契約上の主体になるのは可能なんだよね。だから事務所も製作委員会名義で借りてたし、バイト君の給料の源泉とかも製作委員会で税務署へ……。ただ、海外に行って商売とかはできないので、実際の窓口業務はエージェントに依頼してて。
小黒 なるほど。ここは突っ込むべきところだろうから、突っ込むよ。さっき「二手三手先、売れなかった事も考えて」と言っていたけど、その前に、売れるようにする事を考えるべきだったんじゃないかと(笑)。
佐藤 (爆笑)勿論、売れた時の事も考えたよ! ただこの内容は即、大ヒットはしないだろうってのも──
小黒 あ、そうか。売れた時と、売れなかった時の事を両方考えたわけね。
佐藤 『ムリョウ』については俺が企画者であり、原作者であり、フィルムの制作スタッフでもあるわけ。「これが売れれば」と希望を託す俺がいる一方で、「売れセンにしちゃったら企画した意味がないじゃん」という俺もいて。そんな中で「作品として残るしっかりしたものをまずは作ろう!」と妙に真っ直ぐな俺が達観して脚本書いてたから……。あの当時かなり精神バランスを保つのに苦労した覚えがあるよ。でも、そうは言っても放映が衛星放送だと決まった段階で、「これは(セールスは)ヤバイかも」と全てのオレが思ったんだ(笑)。で、覚悟したと。
小黒 ここで俺が『ムリョウ』の事を持ち上げてもしょうがないんだけど、あれはエバーグリーンな作品を目指したわけでしょ。10年後、20年後に観ても楽しめるものにしたかったわけだよね。
佐藤 まあ、そうですね。とりあえず、ようやく北米の方でも売り始めたんですよ。国内もCSとかへの営業はこれからって感じで。今は、そういうゆっくりしたスタンスでやれる機会ってあんまりないでしょ。

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(05.06.20)

 
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