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リニューアル記念放談 佐藤竜雄×小黒祐一郎
その4 ネガティブ・キャンペーンと通俗性


小黒 この前のアニメスタイルイベントでも、ショートアニメを上映したんだけど、吉松君のやつが凄かったんだよ。
佐藤 ん?
小黒 ロスから帰国する飛行機の中で作画したんだって。いちばんパラパラマンガに向いてる分厚い本を買って、余白に作画して。で、飛行機の中で終わらなかったんで、帰りの電車の中でも描いて。日本に帰ってきたのがイベントの前の日で……。
佐藤 ああ、それでイベントまでに撮影したんだ。それはいいねえ。アニ研連の上映会みたいだね。
小黒 仕上がった作品も面白かったんだけど。
佐藤 実は、そういうノリを経験しないで、プロになった人って多いでしょ。「最近の作品は大人しいですね」なんてよく言うけど、そういうバカな事を経験した人が、少なくなっているんだろうね。最初からシステムとしてのアニメ制作を経験してしまって、自分でフィルム作るという事を経験した事がない。これからはそういう人が増えていくんだろうけど、そういう子達に「アニメを作るのが面白い」と思ってもらわないと困るんだよね。つまんなそうに作ってても、しょうがないからね。
小黒 アニメの仕事が、普通の職業として成り立つようになってきたんだろうね。
佐藤 仕事についての話だと、俺がちょっと強調して言っておきたいのは、以前のネガティブ・キャンペーンについてなんだ。
小黒 何!? ネガティブ・キャンペーンって?
佐藤 ほら、「アニメの仕事ってこんなに貧乏なんですよ〜」っていう。
小黒 ああ、はいはい。
佐藤 何度かやったじゃないですか。
小黒 マスコミとかで取り上げられていたよね。そういう事を訴えているWEBサイトもあったよね。
佐藤 労働条件とか、労働量に見合ったお金が入らない、といった実態を知らしめたという意味は大きいのかもしれないけどね。世の中の人に「ああ、こんなに大変なんだ」という事を分かってもらえたんだから。だけど、やる気があってアニメ界に入ってきたのに、その人が業界にいるだけで「負け」みたいなかたちに思われてしまう風潮を作ってしまった。それはどうなのかな、と思うんですよね。もうちょっと頭がよければよかったのに。
小黒 え? キャンペーンを張る時に?
佐藤 うん、キャンペーンを張る時に。
小黒 でも、誰か個人がやったわけじゃないからね。
佐藤 全体の流れとして「俺の話を聞いてくれ!」というかたちになっちゃったからね。世の中の人は同情してくれたかもしれないけど、同情と軽蔑は表裏一体なんだよね。「同情を買う」という事は、その人が、周りの人達よりも下に降りるという事だから。みんなが胸を張って「アニメ作るぜ!」というかたちに持っていけるといいな、と思っていたんだけどね。
小黒 キャンペーンが、かえって制作に関わる人を卑屈にさせたかもしれないって事ね。
佐藤 『BECK』とか観てるとね。あれは、やりたい人間が集まってる感じだったよね。下を向いて作られているアニメが多い中で、前を向いて作ってる気がして。それで異彩を放っていたよね。
小黒 なるほどね。
佐藤 そういった作っている人達の気持ちよさって、やっぱり作品のカラーに出ちゃうんだよね。それから、「マンガやアニメは今や文化的にも素晴らしいものです」なんて発言を時々、目にするけれど、ちょっと違和感を感じちゃうというか。評論をされる方が言うのはまあいいとして、作り手の方までその気になっちゃうのはちょっとね。アニメや漫画っていうのは、基本的に下世話なもんじゃないですか。下世話だから見たい! 読みたい! みたいな興味が湧く。下世話だから親は「そんなもの見てないで勉強しろ」とか「いいかげん卒業しろ」と子供達に言うわけで。昔、宮崎(駿)さんが「自分達がやっているのは大衆芸能だ」とか言ってたけど、実際そういうものだと思うよ。通俗下劣ではあるけど卑屈になっちゃあいけない。むしろ「大人には分かんねえんだこんな面白いモノが。ざまあみやがれ」って裏で舌出してればいいんで。確かに文学性のあるマンガも数多く出てるけど、それはマンガのジャンルとしての広がりであって、「なんでマンガを読むの?」という本質的なところは変わってないと思うんだ。その辺はアニメも同じでしょ。でも最近、年かさのアニメファンで「子供のための作品がいい作品なんだ」と言っている人がいるじゃない。
小黒 いるね。多数派じゃないと思うけど。
佐藤 アニメファンと呼ばれていた人達が大きくなって、おっさんになったという事ですかね。昔は通俗性を肯定して、「アニメなんか観るんじゃないよ!」と言っていた大人に腹を立てていた人達が、自分が大人になって、もっとタチの悪い事を言い出したって感じで。なんというか。子供にしたら大きなお世話というか……。
小黒 えーと、それは『コメットさん☆』とか『おジャ魔女どれみ』を絶賛している人達の事だよね。
佐藤 な、なんて露骨な事を(笑)。ああいった反応は、作ってる人間も認められてるんだから確かにうれしいんだろうけど……うーん、何かね。
小黒 まあね。誉めたい気持ちは分かるけど、子供向けだから優れているわけではないよね。
佐藤 俺がオタクアニメを作ってる人だから、こんな事を言っても「何言ってやんでえ」と思われるかもしれませんけどね。見る方は原則的には何言ってもいいんだし。ただし作る側の人間がそんな事を言い出したらおしまいかなあ。洒落でアレコレ言う分には芸の内だろうけど。作り手と受け手の温度差ってのはあって然るべきというか……。
小黒 とにかく通俗性を忘れないようにしようと。
佐藤 きれいにまとめたなあ(笑)。

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(05.06.22)

 
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