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あの声、あのキャラ、あの作品
肝付兼太と『ギャートルズ』(2)


―― 肝付さんって本当に沢山のアニメに出てて、沢山の役柄をやられているんですけれど、主役と言われるものっていうのは、少ないですよね。
肝付 少ないです。人が敬遠しちゃうような役ばっかりというか。主役だと自分が認識しているのは『ジャングル黒べえ』ぐらいじゃないですかね。アニメーションでは。
―― 『おそ松くん』のイヤミも主役みたいな感じですけれど、違うんですね。
肝付 違うんです。あくまで主役は、おそ松君なんですよ。『ドカベン』も、やっぱり主役じゃないんですよね。ただ、幸いな事に、みんなの印象に残るような変なキャラクターが多いんですよ。僕はね、そういう役をやってきて、良かったなあと思いますね。本当に主役はないんですよ。
―― 『ギャートルズ』が放映されたのって、その『黒べえ』の翌年なんですよ。
肝付 あー、そうですか。『黒べえ』も音響監督は千葉さんです。『黒べえ』の時は、主役だと言われて、そのせいで妙なプレッシャーが(笑)。最初は『黒べえ』で主題歌を唄いなさいと言われていたんですよ。ところがテンポが速くて、当時はあの歌が唄えなかったんです。音譜が分からない僕が、あんな早い歌を唄えませんよ。それで「合いの手だけで勘弁して下さい」と言って。
―― あ、そうなんですか。あの「ウラッ!」というやつですね。
肝付 結局、大杉久美子さんが唄ったんですよね。それで「ウラ!」って合いの手を入れたんですが、ワンテンポ遅れるんですよ。傍にコロムビアのディレクターがいて「ウラ!」と声を入れるタイミングで、僕の頭を叩いてくれたんですが。
―― 声を出すタイミングを教えてくれたんですね(笑)。
肝付 叩かれてから「ウラ!」って出るもんだから、遅いんですよ。「すいません、あの間合いをはかって叩いてください」なんて言ってやりました。
―― 一度は主題歌を吹き込んだんですか。
肝付 いや、吹き込まないです。最初からダメだと思って(笑)。
―― ああ、今初めて明かされる主題歌の秘密が。ひょっとしたら『黒べえ』の主題歌を唄われていたわけですね。
肝付 もしも、ずうずうしければね。でも、その後でNHKの「おかあさんといっしょ」という番組(内の「にこにこ、ぷん」というコーナー)で、ああ、これもまあ主役ではないな。じゃじゃまる君というキャラクターをやったんです。これは毎週3本唄ったんですよ。まあ、短い歌ですけど。越部信義という先生が音楽をやられていて、越部先生の歌の調子が分かってくると、唄えるようになるというか、生意気に譜面が少し分かるようになって。「おかあさんといっしょ」は16年やったんですよ。最初の2、3年は苦労しましたけどね。
 ある時、武道館で、生でやる事になったんです。「森のくまさん」という歌を唄うんですが、その歌の唄い始めが難しくて。伴奏するお姉さんが、「うん」と頷いたら唄い始めればいいと言ってくれて。だけど、本番になったら(彼女がいる場所が)遠くてよく見えない。「あれ、首を上げたか下げたか? おい、ちょっとあまり首を動かすなよ!」って(笑)。なんてやっているうちに、あれは誰だったかな。中尾隆聖君かな。彼が(唄いだす合図に)肩をポンと叩いてね。「もう遅いよ」と思ったけど、唄いだしたら伴奏の方でちゃんと合わせてくれて。まあ、そんなふうに、歌じゃずいぶん苦労しましたよ。でも、後に、僕がじゃじゃまる君で唄った歌を、全部ノートにまとめてもらった事があって。それが2000曲ぐらいあったんですよ。だから、今は「唄える声優」と名乗ってもいいかなって(笑)。
―― 今、肝付さんのお話を聞いていて、普段の声がアニメのキャラクターの声に近いと思いました。だけど、ある程度は作ってらっしゃるんですよね。
肝付 作ります。作りますっていうのも変なんだけど。でも、声を変えるだけでは、やっぱりダメなんでね。もちろん、声は作るんですが、例えば子どもの声をやる時に子ども声を出すだけだと、納得されないんですよ。そこは子どもの目線でやらないと。だから、若い頃には、研究をしましたよね。じっと子ども達が遊んでいるのを見てね。こいつら喋り速いなあとかね、テンポがいいなとか。子どもって、分かりがいいんですね。会話で変な間を空けるのは大人なんです。子どもはポンポンやりあう。要するに子どもの目線になって、どんな気持ちでしゃべるのかというのを想像するわけですよね。声は多少は作ります。でも、喉をつめちゃうとね、声に広がりがなくなっちゃうんですよね。だから、つめないで、子ども声を出すという事ですかね。
―― つめるというのは?
肝付 つめるっていうのは「何とか何とかで〜(喉の奥からしゃがれ声のような声色を出してみせる)」ってやると、もう声が広がらないし。つまり、台詞の抑揚がなくなっちゃうのね。
―― 無理に作りすぎてはいけないんですね。
肝付 ええ。ちょっと変えればいいんですよ。
―― 『ギャートルズ』以外の作品についても、もう少しうかがいたいんですが。
肝付 (リストを見ながら)『カリメロ』『小さなバイキング ビッケ』……思い出すなあ。僕ね、アニメーションの中で、おばあさん役を2回やってるんですよ。1本目が『赤き血のイレブン』だったかな。水戸のババアという、ここ(こめかみ)に梅干しを貼ったね。それがサッカーのオーナーなんですよ。当時は、まだサッカーが盛んじゃなかったけど、今だったら(『赤き血のイレブン』も)きっと受けるんじゃないかと思うんだけれど。それと『タイムボカン』で、おばあさんが指令を出すボスのシリーズがあって。そのおばあさん役をやりましたね。
―― 『(逆転)イッパツマン』のコン・コルドー会長ですね。だけど、男性でおばあさん役というのも珍しいですよね。
肝付 そうですね。……あ! あと、それからね、『いじわるばあさん』の時も、隣のばあさんをやってた。金持ちのばあさんを。僕は自分が貧乏なくせに、意外と金持ち役が多い(笑)。で、この『樫の木 モック』でコオロギをやったんですけど、それをやったおかげで、ディズニーの『ピノキオ』に出てくるジミニーというコオロギの、オーディションを受けさせてくれたんですよ。そのオーディションは通りまして、今でもジミニーは演っているんです。そのコオロギが名曲を紹介するCDがあったり、横浜アリーナとかでよくやるディズニー・オン・アイスで、ジミニーの着ぐるみが司会をやる時に、その声をアテたり。ディズニーシーでも、そのコオロギが活躍してるんですよ。僕がディズニーシーに行った時に、コオロギの側に寄って「おい、おめえの声をやってるの俺だよ」とか言ってやったんですよ(笑)。なんの事だろうと、思っただろうけど。
―― 『ギャートルズ』の頃の東京ムービー作品だと、やっぱり『元祖 天才バカボン』の本官さんが印象的ですね。
肝付 今でも、はっきり印象に残ってるのが、高速道路をSLが走ってくる話ですよ。「止まれー、止まらないと撃つぞ!」って叫ぶんです。弾なんて、当たったってどうしようもないのにね。すげえ発想だなあと思いましたね。『バカボン』では、雨森(雅司)さんという人がバカボンのパパをやっていましたが、あの方は、もうまったくあの親父をやるためにいたような人ですよね。
―― (笑)。
肝付 本当にね。雨さんに「やっぱり、親父を演る時は、多少は役を作るの?」と訊いたら「もちろん、作るよ」っていうんだけど、作ってないよ(笑)。そのままだよってね。それから、山本圭子さんね。バカボンの。
―― 山本さんも、ああいった役をやらせれば日本一ですよね。
肝付 それから、パパの奥さんが美人でね。「どうしてあのオヤジに、あんな可愛い奥さんがねえ」って、そんな話をよくスタジオでしてましたよ。
―― それは僕達も不思議に思っていますよ。後の『おそ松くん』でも、最初の頃に本官さんが出てるんですよね。だけど、肝付さんはイヤミを演られていて、確か本官さん役は千葉繁さんだったんですよ。僕は『元祖』の本官さんが好きだったので、複雑な思いでした。
肝付 (笑)。イヤミもね、オーディションを受けたんですよ。で、イヤミに関して言えば、僕は10年前にこの役をやれたら、もっとテンション上げられたのにって思っていましたよ。それでもね、収録が終わると、「はあ、今日は毛細血管が7本切れた」って。
一同 (笑)。
肝付 というぐらいね、あれはテンション高かったですよね。高くなきゃ面白くないでしょ。「シェー!」なんていうのもね。
―― あれは、声優さんのお芝居を聞かせる番組でもありましたよね。

●あの声、あのキャラ、あの作品 肝付兼太と『ギャートルズ』(3)に続く

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(05.07.15)

 
 
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