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『かみちゅ!』倉田英之×舛成孝二インタビュー(4)
若い原画マンに、ある程度の暴走を許す


―― 原作として、ベサメムーチョという名前がクレジットされていますが、舛成さん、倉田さん、落越さんの3人という事ですね。これは企画者という事ですか。
舛成 まあ、監督、シナリオ、プロデューサー……。
倉田 企画を立ち上げる時に、最小限必要な人数ですね(笑)。とりまとめるやつと、お話を作るやつと、金を出すやつというね。他に迷惑がかからない人数で動かしていたので。だって、立ち上げた時は、海の物とも山の物とも、作れるのかどうかすら分からなかった。
落越 そもそも、やっていいのか、みたいな(笑)。
―― 合同のペンネームというよりも、チーム名なんですかね。ヘッドギアみたいな。
落越 まあ、最初イメージしたのはそんな感じだったんですよ。オリジナルのアニメーション作る時に必要なのって個人の力だけではないでしょう。スタートの時点って、色々あると思うので、それを吸収できるようなかたちにしたいなあと。気持ち的には、企画に関わったみんなを代表するような名前であればいいかなと。
―― ネーミングとしては、みんなを代表するかのような名前ではないですけど。
舛成 これもずっと、仮だったもんね。
倉田 いつのまにか、それが本決まりしてしまい。
舛成 『かみちゅ!』だって、ずっと(仮)だったじゃない。
倉田 そうですね。『かみちゅ!(仮)』でした。使ってると慣れるんですよ。『R.O.D』だって、仮題だったんです。
―― ベサメムーチョの意味は?
舛成 ベサメムーチョって、なんだっけ。スペイン語で「もっとキスして」だっけ。
倉田 スペインなんて、どこにあるかすら知らないのにそんな名前をつけて。
舛成 いや、俺は知ってるけどね(笑)。
倉田 ヨーロッパのちょっと端の方みたいな。
落越 昔は(「ベサメムーチョ」というタイトルの)曲もあったんだけどね。
―― その名前をつけた事に、意味はないんですね。
落越 特にないです。何か音がいいなあと思って。

▲ 4話「地球の危機」より

―― 少し細かい事を訊きますね。1話で書道やってる少年が出てくるところがあるじゃないですか。あそこの作画はどなたなんですか。
舛成 あれは、竹内哲也ですよ。
―― 『ハチクロ(ハチミツとクローバー)』の7話をやった人ですか。
舛成 そうです。
―― ちょっと画風が独特ですが、元々ああいう原画なんですか。それとも、作監の修正が載っている?
舛成 ああいう原画でした。あそこは、ほぼ修正は入ってないんじゃないかな。顔をちょこっと直したぐらいで。最初から彼をあそこに当て込むつもりだったし、本人もあそこをやりたいと言ったんで。あれをやりつつ『ハチクロ』もやってたんです。
落越 (1話の作画していた頃)彼の机に行くと、『かみちゅ!』よりも『ハチクロ』の原画が乗ってる事の方が多かった。
舛成 多かったよね(笑)。
倉田 あかんやん。
舛成 まあ、僕もやってましたけどね(編注:『ハチクロ』7話の絵コンテ・演出は、彼が担当)。
―― あのぐらいの作画のハッチャケは、OKなんですね。
舛成 ああ、OKですよ。
―― 1話の最後で「夢か」みたいな感じで起きるところがあるじゃないですか。あそこの原画はどなたですか。
舛成 あそこは藪野君です。さっき言った、冒頭の卵焼き食うシーンを描いたやつです。2話の作監ですね。
―― なるほど。藪野さんは他にはどこやってるですか。
舛成 冒頭の教室を出るまでと、布団から起き上がるところまでです。
―― 布団から起き上がるところは、その数カットだけ担当なんですね。
舛成 ええ。
―― やっぱりそうか。
舛成 布団から起き上がって「昼!」と言うところで終わりですね。今回の企画の(目的の)ひとつにあるのが、若い原画マンに、ある程度の暴走を許すという事なんです。で、許した上で作品観を崩させないという。
倉田 いやあ、巧い人はいっぱいいますね。
舛成 いるよねえ、うん。
―― つまり、芝居の見せどころのあるコンテにして、ちゃんと描かせる余裕を与えるという事ですね。
舛成 そうですね。で、描けるやりたい人はそこまでやっていいよ。時間もないし大変だと思ったら、最低限の事をクリアしてくれればいいよ、という雰囲気でやっているんで。演出としては無茶苦茶に楽をしてる。
一同 (笑)。
倉田 びびりますよね。スタジオとかのぞいても、みんな、年下ですもん。
舛成 そうだよね。
―― ベテランの巧いアニメーターじゃなくて、若くてやる気のある人達が頑張ってる感じなんですね。
舛成 そうですね。頑張ってくれているんですよ。
―― 1話を観て、「うわ、よく描いているなあ」と思って、エンディングを見て「うわ、知らない人ばかりだ」と驚きました。
舛成 『R.O.D』で一緒にやってくれた子の中から、ちょっとピックアップして声をかけているんですよ。
―― なるほど。じゃあ、今後もどんどん隠し球みたいな若手が。
舛成 いや、もうないです。
―― 打ち止めですか。
倉田 まあ、どこも巧いアニメーターは奪い合いですからね。
舛成 今の『かみちゅ!』で出てきた子達は、このシリーズだけでなく、ちょっと次の舞台に上がってもらわないといけないし。
―― 次の舞台というのは、上のランクって事ですか。
舛成 ランクですね。まあ、例えば(Production)I.Gに行って何かをするのでもいいし、ジブリやボンズ、サテライトに行って何かをやるでもいいし。
一同 (笑)。
倉田 今、名前を挙げたスタジオっていうのは、何なんですか(笑)。
舛成 いやいや、かっこいいオサレアニメを作ってる会社ですよ。
落越 オサレなんだ。
倉田 ああ、オサレアニメ。
―― 実際にその会社にいる人達は、自分ではオサレアニメを作っているとは、思ってないですよ。
舛成 そういった作品の中核に入っていくような人達に、育ってくれりゃあいいなあ。で、いずれ俺を食わしてくれれば。
落越 舛成さんの口癖ですね。
舛成 そうそう。俺が65ぐらいになって、誰からも仕事もらえなくなったとしても、お前らだけは俺にくれるよなと。
―― 65歳になってもコンテを切るんですね。
舛成 それまで生きていて、仕事があれば。
倉田 65歳になって、中学生の女の子が出てくるコンテ切ってたら凄いですね。「俺の心の中学生」のコンテを。
落越 絶対に切ってると思いますよ。
―― しかも瑞々しいものを。
舛成 そんな(笑)。
倉田 65歳になって『かみちゅ!』の2を作ってたら凄いですね。
落越 間が20年空いてるのに(笑)。
舛成 どこかの感想サイトを読んだらね。「『かみちゅ!』は舛成孝二が、お爺ちゃんが孫を愛でるように作ったフィルムだ」と書いてあって(笑)。
一同 (笑)。
倉田 うーん、間違ってはないと思う。
舛成 まあ、間違ってはないけど、せめてお父さんにしといてくれ(笑)。
―― 確かに20代の熱い魂で作ったフィルムではないですよね。
倉田 ああ、そうですね。不惑の年の、色んなものを経験した人間が作った感じですよね。
―― 枯れるほどでもないけど、脂っこくもない。
倉田 そういう視点のアニメっていうのは、そんなにないんじゃないかな。
舛成 僕らだけだと、枯れる可能性がある。でも、そこにやっぱ20代の……。
倉田 千葉(崇洋)さんとかの。
落越 若い人のエネルギーがね。
倉田 今回は若いアニメーターさんのパワーが、上手い事入ってるんじゃないかなあと。
―― で、今3話まで放送されていて、かなりいい感じできているんですが、残りはどんな塩梅なんでしょうか。
舛成 いやあ、もうそれはTVシリーズですよ。
一同 (笑)。
―― (笑)。えーと、それはいいところもあれば、そうでない事もあるぐらいに、とればいいんでしょうか。
舛成 まあ、そういう事ですね。
―― プロデューサー的には、今の発言はいいんですか(笑)。
落越 (笑)。いや、まあそうでない事を望む感じですか。
舛成 いや、そうならないように頑張ってはいるんですけどねえ。なんせまだ完成してないので、分かんない。
落越 でも、頑張って充分持ちこたえているというか。
倉田 4話も凄いですよ。この話からオープニングもつきますし。
―― あ、そうなんですね。じゃあ、この記事が載る時には、もうオープニングつきが放映されていますね。
舛成 オープニングは、石浜真史ですからね。
倉田 石浜真史は、変質者のくせにセンスがあるので(笑)。
―― スタイリッシュな感じなんですね。
舛成 そうですね。びっくりするような、オサレアニメに仕上がってますよ。
一同 (笑)。
倉田 かっこよくて、可愛らしいという。
舛成 俺には絶対描けないコンテになっています。いや、だから発注したんだけど。
―― で、4話からオープニングがつくというのは、何か理由があるんですか。
舛成 ないですよ。単に間に合わなかっただけです。
―― ぶっちゃけてますなあ(笑)。

●『かみちゅ!』倉田英之×舛成孝二インタビュー(5)に続く

●公式HP
http://www.aniplex.co.jp/kamichu/

●TV放送情報
テレビ朝日/毎週火曜日26:40〜
朝日放送/毎週木曜日27:01〜
名古屋テレビ/毎週水曜日27:08〜

●DVD情報
「かみちゅ!1」
ANSB-1031/カラー/本編約50分/リニアPCM(本編)、ドルビーデジタル(コメンタリー)/片面1層/16:9
※本編は、TV放映+追加カットも収録された「ディレクターズカット版」とも言うべき内容になっている
価格:5250円(税込)
発売日:2005年8月24日(全8巻・毎月リリース)
収録内容:1話「青春のいじわる」、2話「神様お願い」
音声特典:全話オーディオコメンタリー
初回特典:羽音たらく描き下ろし特製ピンナップ
発売元:アニプレックス
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(05.08.04)

 
 
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