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赤根監督に訊く「メイキング・オブ・ノエイン」
第2回 量子論と岸田隆宏の活躍


―― 今回、赤根さんと大野木(寛)さんが、2人でシリーズ構成としてクレジットされていますが、どのように作業を進めているのでしょうか。
赤根 大野木さんには、フォローやアドバイスをしてもらっています。シナリオの作業も後半になると、自分が最初にあらすじを話して、大野木さんに脚本にまとめてもらって。それをコンテ段階でまた、自分が再考していくみたいなパターンでやっています。大野木さんが、昔『(超時空世紀)オーガス』をやっていたじゃないですか。
―― ああ、なるほど。『オーガス』も複数の時空が絡む話でしたね。
赤根 最初に、大野木さんに「大野木さん、並行宇宙ものに詳しいよね」と言ったら、「うーん、よく分からない」って言われましたけどね(笑)。
―― 量子論を取り入れたのは、どなたのアイデアなんですか。
赤根 あれは自分ですね。
―― 僕は量子論についての知識ってほとんどないんですけど、劇中で言ってる事は裏づけのある事なんですか。
赤根 最新の量子論で言われている事を、作品中で使っています。(ロジャー・)ペンローズっていう、理論物理学の有名な博士がいるんですけれど、その人が書いている「皇帝の新しい心」(みすず書房)という本があるんです。アメリカでベストセラーになった本なんですけれど、これが面白いんですよ。映画にもなったマイケル・クライトンの「タイムライン」という小説があって、それも量子論を使っているんです。それが元ネタと言えば、元ネタなんですよ。ただ、映画の方では、量子論使ってタイムスリップやるのは難しいと判断したみたいで、量子論の部分はばっさり切られていました(笑)。そのせいで、原作に比べると味もそっけもなくなっちゃった。
 量子論では、存在というのは確率でしか表せられなくて、観測者が観測した時に初めて存在というものが確定して、どこにあるかが分かる。それまではどこにあるか分からない。それが面白いと思って、劇中のフレーズとして使ってみました。
――なるほど。
赤根 最近、若い人達に流行ってる「自分探し」ってあるじゃないですか。「自分とはなんなのか」を考えるという事ですよね。その辺にも通じるのかと思っています。別に若い人だけじゃないですよね。年とったって、自分なんて分からないところがありますから。
―― 先ほど「今の流行りから外れたものをやりたい」と岸田さんが言っていたという話題が出ましたが、赤根さんも現在のアニメの主流に不満があるんですか。それは内容面? 映像面? それとも、両方なんですか。
赤根 いや、映像面ではとてもクオリティが高くなって、自分が学生時代観てたものから比べると、ずっとよくなってますよね。アニメーターの腕も上がっているし、精度も上がっている。それは岸田さんも言っているんですよ。「画は凄いよね。でも、魂がないよね」って(笑)。そういう言い方をよくするんです。だから、少々画が乱れても、魂のこもったものを作れないのか、という事なんです。
―― なるほど。
赤根 言っちゃえば、売れるためには何してもいいのか、という事です(笑)。まあ確かに、自分達は商業アニメを作っているのだから、売れるための要素は入れないといけないんだけど。次のステップというか、次の時代に対する挑戦をしていかないといけないんじゃないか。「今、これが売れてますよ」「じゃあ、これを入れて、これも入れて」とやりながら作っていくのもOKだけど、新しい事にチャレンジをしていかないと、どんどんアニメが閉塞状態に陥ってしまう。「だから、宮崎アニメの1人勝ちになっちゃうんですよ。『ガンダム』を越えられないんだよ」という事なんです。特にオリジナル作品なら、本来はそういったチャレンジがしやすいはずなのに、みんな、なぜ、チャレンジしないんだよ、というところがあるかな。なんとか突破口を開きたい。業界の人は、結構臆病になってますよね。業界と言っても、俺達、クリエイターサイドですけれど。
―― いや、メーカー側も臆病になっていると思いますよ。
赤根 (笑)。
―― 営業的に失敗しない企画になっているのは、そのためでしょう。ところで、1話に中屋了さんという方が、作画監督としてクレジットされていますよね。この方が単独で作監をされているんですか。
赤根 中屋さんが作監です。ただ、クレジットには出てないんですけれど、岸田さんが9割のカットにレイアウトの時に手を入れています。
―― 岸田さんは、クレジットではキャラクターデザインだけで、総作監やアニメーションディレクターではないですよね。実際にはどういうかたちでの参加になっているんですか。
赤根 本当は、アニメーションディレクターですよね。そういう事になっているのも、岸田さんの性格のためなんです。俺は最初、岸田さんにアニメーションディレクターとして立ってほしいと言ったんですけれど「自分は仕事をやり切れるかどうかまだ分からない。やり切ってから(クレジットに名前を)入れてくれ」と(笑)。
―― やり切ってからじゃ、DVDの1巻が出ちゃってますよね(苦笑)。
赤根 そうそう(笑)。間に合わないんですよね。そういう男気のある人なんですよ。やり切ってから、役職を出してほしいそうです。
―― 岸田さんはアニメーションディレクターをやり切れないかもしれない、と思われたわけですね。
赤根 ひょっとしたら、岸田さんは、業界に役職名だけの人が大勢いる事に対して、腹立たしく思っているのかもしれませんね。
―― オープニングもクレジットだと、演出と原画しか名前が出ていませんでしたが、オープニングの作監は誰なんですか。
赤根 だから、岸田さんですよ。あれもほとんどレイアウトに手を入れています。ただ、原画に修正を入れてないカットもあります。少々自分のキャラと違ってても「これは巧い、面白い」と思ったら、そのまま通しています。松本憲生さんがやってくれたカットは、原画のままでいっています。
―― 松本さんが描いたのは、ハルカが回って服が替わるところですね。
赤根 あのクルクル回るカットもやってもらいました。
―― 最後にハルカとユウがいて、ユウが立ち上がるところは、誰なんですか。
赤根 立ち上がるところは、佐藤(雅弘)さんかな。
―― それは原画は残っているんですか。
赤根 残ってますね。岸田さんが手を入れて、タイミングは直っているかもしれません。佐藤さんも上手な人ですよ。
―― 岸田さんは、その後、1話以降もレイアウトに目を通してるんですね。
赤根 レイアウトに目を通してるだけじゃなくて、各話で原画もやってますよ。重要なシーンとか、ちょっとキャラクターが入り組んだ芝居をするところは、岸田さんにやってもらったり、レイアウトが難しいやつをやってもらったり。それからグロスと呼ばれている、外の会社に1話分頼む事があるじゃないですか。その時は総作監みたいな感じで、レイアウトにキャラ修正を入れてもらっています。
―― 第4話「トモダチ」で、8人が作画監督としてクレジットされていましたよね。ああいう回も、岸田さんは参加しているんですか。
赤根 あれも岸田さんが重要なところは入れてますよね。実はもう1人、高田晃君というアニメーターがいて、彼が岸田さんの知り合いで、岸田さんの画にも馴れているんです。彼と岸田さんが、重要なシーンにかなり手を入れました。あの話は、ちょっとクレジットの出し方を間違っちゃって。大勢名前が出ているのは作監補を、作画監督として出してしまったためなんです。
―― 1話の仕上がりは、相当に話題になりましたよね。1話冒頭のバトルは、どなたの設計になるんですか。
赤根 あれは大久保(宏)君ですね。彼が1人で原画やってます。
―― 全部ですか。
赤根 うん、全部。それに関しては岸田さんも、キャラのアップにちょっと修正入れたぐらいで、動きのタイミングからレイアウトまで、全部彼のものです。
―― 達者な方なんですね。
赤根 彼は面白いですよ。俺は、彼の描く原画がもう大好きで。今、彼も参加している12話がもの凄い事になってますね(笑)。
―― その回は大久保さんの役職は何になるんですか。
赤根 12話は作監で入ってますね。ただ、自分でも60カットくらい原画を持ってますから。
―― いくつぐらいの方なんですか。
赤根 36歳になったかな。凄まじいですね。今度、話を聞いてあげてください(笑)。



●話題になっている第1話冒頭のバトルより。大久保宏の原画

―― ぜひお願いしたいですね。1話とかで、パースのきついレイアウトがあったじゃないですか。あれは岸田さんの味になるんですか、それとも赤根さんの?
赤根 あれは岸田さんですね。僕の方でも、一応広角レンズの指示はしますけれど、それ以上に岸田さんがパースを効かせていますよ。それから、俺が、コンテで物を沢山入れ込んだレイアウトを描くんですよ。「これとこれとこれを入れたい」と言うと、岸田さんが「これは広角でないと入らないじゃん」と言って、ギュっと広角に収めるという感じですよね。それは岸田レイアウトですよ。
―― コンテ段階でも、作画の頑張りを期待して描いているようなところがありますよね。「え、これをTVでやるの?」と思うようなカットを見かけるんですが。
赤根 (笑)。
―― それはどのあたりを基準にしているんでしょうか。
赤根 うっ! 会社的には怒られちゃうんだけれど、とにかく「やるときゃやる」と(笑)。だから、見せるカットは徹底的にやろうや、その代わり楽なカットも作るよ、と話して始めたはずなんですよ。だけど、楽にしたつもりのところを、原画さんが頑張って動かしてしまったりして(笑)。

●第5話より。ボールと戯れながら話をするイサミとアイ。アイのリフティングがお見事!

―― 5話で、サッカーボールと戯れながら話をするところがあったじゃないですか。コンテでもああいった指示になってるんですか。
赤根 一応「リフティングしながら」とか指示が入っていますが、あれはコンテ以上に、原画さんが手を入れましたよね。原画の中武学さんがサッカーの好きな人だったらしくて、かなり膨らませてやってくれました。ああいうのを観ると嬉しくなりますよね。でも、通常にやってもそんなに楽なカットじゃないんで。
―― そうですよね。手を抜いて描いたら、大変な事になる(笑)。
赤根 そうそう(笑)。その辺は、コンテ段階ではちょっと無謀だったかもしれないですけれど、いい原画さんがやってくれて、制作の方もいい人あててくれたんでよかったですね。

●赤根監督に訊く「メイキング・オブ・『ノエイン』」第3回 張り切り原画マンとキャスティング に続く


●関連サイト
『ノエイン もうひとりの君へ』公式
http://www.noein.jp/

バンダイチャンネル『ノエイン もうひとりの君へ』特設サイト
http://www.b-ch.com/cgi-bin/contents/ttl/det.cgi?ttl_c=425


●TV放送情報
ちばテレビ/毎週火曜25:30〜
テレビ埼玉/毎週金曜26:00〜
テレビ神奈川/毎週木曜25:15〜
テレビ愛知/毎週火曜27:58〜
サンテレビジョン/毎週木曜26:05〜
キッズステーション/毎週金曜24:00〜
         (再放送)毎週金曜28:30〜、毎週日曜24:00〜

●DVD情報
「ノエイン もうひとりの君へ」第1巻(全8巻)
ZMBZ-2441/カラー/約90分(本編73分+特典映像約17分)/ステレオ(リニアPCM)/片面2層/16:9スクイーズ映像(一部映像特典4:3)
価格:6300円(税込)
現在発売中(第2巻 2月24日発売)
収録内容:第1話「アオイユキ」、第2話「イエデ」、第3話「オワレテ・・・」
特典映像:「函館紀行 vol.1」 (出演:工藤晴香)
初回特典:岸田隆宏描き下ろし収納BOX(4巻収納)
発売元:東芝エンタテインメント
販売元:メディアファクトリー
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(06.02.14)

 
 
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