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赤根監督に訊く「メイキング・オブ・『ノエイン』」
第3回 張り切り原画マンとキャスティング


―― 今回は、張り切って参加しているアニメーターが大勢いる感じなんでしょうか。
赤根 そうですよね。興味をもって、やってみたいという人がきてくれるようになったんです。若い人達が腕試しでやってくれているみたいですね。20代半ばぐらいで、面白い奴らが出てきてますよ。今、下の階のスタジオにも2人ぐらいいるんですけれど。
―― それは社内のアニメーターですか。それともフリーで。
赤根 フリーです。
―― どなたですか。
赤根 えーと、りょーちも君と、仁保(知行)君です。仁保君なんて、今年(2005年)になって原画やり始めたんですけど、彼は面白いですね。りょーちも君は、うつのみや(理)さんが、スカウトしてきた子なんですけれど、インターネット上で自分でアニメーションをやってたらしくて、彼も面白いですね。今12話で、100カット近く持っていってやってますけれど。凄まじいですよ(笑)。
―― うつのみやさん自身は、これから作画に入るんですか。
赤根 入りますよ。12話にちょこっと入ってます(笑)。りょーちも君は、松本憲生さんが面倒見てくれています。彼は才能があるから、面白いアニメーターになると思いますね。
―― うつのみやさんがスカウトして、松本さんが面倒というと、リアル系動かし屋なんですね。
赤根 そうですね。レイアウトも面白いし、それでデッサンもちゃんとしている。天才肌の人で、ちょっとビックリしましたね。多分、12話は凄い出来になりますよ。
―― サテライトといえば、やはりデジタルの印象が強いですが、今回もかなり積極的に?
赤根 いや、自分としては、抑え気味なくらいですよ。岸田さんがメインという事で、アニメーターが集まってくれたんで、なるべく手描きで勝負しようと思っています。勿論、手描きにプラスして、手描きに合うCGの使い方をやってみたいなあ、と思っていますけれどね。ただ、CGスタッフも手描きのアニメーションに触発されて、面白がってやってくれてますね。自分としてはまず、ハルカの家を3DCGでやってみたかった、というのがありました。背景描きのものは、なかなか動かせないじゃないですか。
―― あれを見た時には、チャレンジャーだなと思いました。「このカットは3Dじゃなくても成り立つのに!」みたいな。
赤根 そうそう(笑)。
―― 観ている人を、ちょっと驚かせてやろうみたいな感じですか。
赤根 そうですね。それから、子供にとって自分の家というのは、生活の中心じゃないですか。それをちょっと印象づけたかった。ハルカがこの家の中で育って、この家から外に出ていくという事を印象づけたかったんです。それで、ちょっと不自然でも、カメラを動かしてみたいなと。
―― そういえば、美術設定協力の役職で、ベテランの方がクレジットされていますよね。
赤根 (石川)山子さんですね。
―― 石川さんは何をされているんですか。
赤根 えっとねえ、シャングリラ時空界の美術設定を手伝ってもらったんです。
―― あ! そっちなんですか。
赤根 うん。だから、まだ出ていません。それと、公園だけやってもらった。元町公園という、1話でも出てきた公園の設定をちょっとだけ描いてもらいました。
―― てっきり、ハルカの家か、ユウの家をやっているんだと思っていました。
赤根 制作が始まってから手伝ってもらう事になったんですよ。手が早い方ではないので、沢山は描いてもらえないんです。でも、描いてくれるものは面白いですよ。山子さんは、りん(たろう)さんの作品などをやられていたんですよね。
―― そうですね。『(Manie-Manie)迷宮物語』とか。
赤根 とても好きな画なんです。もっと描いてほしいですね。
―― 山川さんが描いているという事は、シャングリラは、よくあるSF的な世界ではないんですね。
赤根 ちょっと違いますね。ちょっとファンタジックな色があるような。
―― メカメカしい世界じゃないんですね。
赤根 うーん。遊撃艇という、変な顔のついているメカがあったじゃないですか。あれがいる世界なので、メカもちょっと混ざっています。「ブレードランナー」風のSFではないですよね。ラクリマ時空界の方が「ブレードランナー」風で、もうひとつ別のファンタジックな世界がある感じです。今、それを組み立てている最中なんです。
―― 他に、活躍が目立っているスタッフはいらっしゃいますか。映像以外のスタッフでもいいですよ。
赤根 そうですね。美監の佐藤(豪志)君は凄く一所懸命やってくれてます。それから、音は面白い感じになってると思うんですよ。音楽もかなり面白いかなあ。声優陣は、かなりはまったかなあと思っています。主役の工藤晴香ちゃんは面白かったですね。久し振りに「ああ、キたなあ」という感じです。凄くナチュラルで、いいんですよ。声質じゃなくて、雰囲気というか、芝居がいいんです。変にアニメに慣れなきゃいいけどな、と心配ですけどね。
―― アニメアニメした芝居は苦手ですか。
赤根 自分的には、ちょっと駄目なんですよ。もう、これは趣味の問題ですけどね。あとは、ナチュラルに演じてくれる人の方が、芝居を組み立てやすいですよね。音響監督の明田川(仁)さん、今回の作品で(一緒に組むのは)3本目なんで、自分の趣味が分かってくれているんです。そういう(アニメアニメした)人は外して、ナチュラル系を揃えてくれるんで助かりますね。カラス役の中井(和哉)さんは、やっぱり巧いですよね。芝居を聞いて驚く事があります。そういう意味で、今回は役者陣には恵まれたかなあと。瀧本(富士子)さんも巧い人です。ユウは役的には暗くて嫌みなキャラクターに なりそうなところを、瀧本さんの芝居で少年らしい初々しさが出ていると思います。(長谷部アイ役の)千葉(紗子)さんは一緒にやるのが2回目なので、計算できる役者さんの1人です。彼女の芝居はナチュラルで嫌みがないところが自分の演出に合う感じがします。それなのでハルカの親友という重要な役をお願いしました。狙いどおり、世界観の肉づけに大変効果的に芝居を組み立ててくれています。上手い事やってくれてるなあと感謝してますよ。(向井ミホ役の)名塚(佳織)さんは、やってもらったのがああいうキャラだったので、独特のボケ具合がちょうどよくて面白くなりました。アトリ役の鈴村(健一)君も、やっぱり上手ですよ。今までとは違う芝居をやってみたいって言ってたんです。鈴村ファンからは、カミソリでも送られてくるかと思ったけど(笑)。本人も喜んでいるし、よかったなあと。
―― 話は全然違うんですけれど、僕は『新世紀GPX サイバーフォーミュラ』で赤根さんの名前を覚えたんです。あの時の赤根さんの演出って、赤い夕日の透過光とか、光りものの印象が強いんですよ。やっぱり、昔からこってりとした画面がお好きだったんですか。
赤根 ああ、そうですよね。元ネタを話しちゃうと、学生の頃から、出崎(統)さんが好きなんですよ。
―― やっぱり、出崎さんなんですか(笑)。
赤根 ハハハハ。そうそう。
―― 何か、赤根さんの回は斜めに光が入るなと思ってました。
赤根 (笑)。やっぱりアニメでは、現実と違う画を見せてほしいじゃないですか。美しい画面が見たいじゃないですか。まあ『サイバー』の場合は、一応色々状況もよくなかったので、光りものを入れてごまかしたりとか、画面が綺麗に見えるように撮影効果を入れていました。あの頃はよく「アニメは色ものなんだから、そんな上品な事をやってどこが面白いんだ。上品なもの観たかったら、実写観てるよ」とよく言ってました。美しいものならとことん美しく、暗い画面だったら思いっ切り暗くする。そういうコントラストのある映像が、やっぱりアニメには似合うんじゃないかなあ。そうすると、自然に光りものが多くなってきちゃう。
―― さらに話は脇道に逸れますが、『ヒートガイジェイ』でジェイのキャラクターに、なんとなく『宝島』のジョン・シルバーの面影がありますよね。あれは、てっきり結城信輝さんの味かと思ってたんですけど。
赤根 結城(信輝)さんも、俺が出崎さんを好きなの知ってますからね。それで入れてくれたのかもしれない。ただ、結城さんも、出崎さんは好きですから分からないなあ。その事について、結城さんとちゃんと話した事はないですけどね。
―― 別段「じゃあ、今回はこのラインで」とか言って決めているわけではないんですね。
赤根 そんな事はないんですよ。今回も、白土三平っぽいとかよく言われるんですけれど、これも別に岸田さんにオーダーしたわけじゃないんです。「赤根さんは、白土三平が好きなんでしょ」とか言って描いてくれるんですよ。
―― 白土三平風というと、カラスのフォルムとかですか。
赤根 あの髪型とか、バサッとした感じの線のラインとかですね。それを今風のアニメーションで、ちゃんとディテールが見えるようなかたちにしてるって感じですかね。
―― 最初の話に戻りますけど、最近のマニアックな作品の傾向でいくと、過去の自分と未来の自分が出てくる話なら、駄目になった大人が、しっかりしている子供に叱られるみたいな話になりがちな気がするんです。今のところ、逆ですよね。
赤根 ああ、なるほど。それはそうかもしれない。ただ今後、大人の方がグラッとくるところがあったりもしますよ。むしろ、子供の健気な様子を見て、「ああ、俺も、もう一回頑張ろうかな」という感じになるんじゃないかな。しっかりした子供に叱られるのも、話としては面白いけど、自分の中の基準では、リアリティからちょっと外れちゃうかな。子供が何か偉そうな事言ってきたら、殴りますよね(笑)。「うっせーよ、お前」みたいに。
―― (笑)。
赤根 でも、子供の健気さにほろっとする事はあるじゃないですか。「くっそー、こいつら、なんでこんなに可愛いんだ」みたいな。そういう方が好きなので、そういったエピソードはちょっと入れていこうかなと。
―― まだ制作は続くわけですが、今のところの手応えとしてはどんな案配でしょう。
赤根 フィルムの上がりは、自分的にはかなり手応えがあると思ってるんですよ。で、スタッフも喜んでくれているんで、これはいけるかなと思っています。マーケットに出して売れるかどうかは、分からないんですけれど(笑)。1人でも多くの人に、1回でも多くオンエアを観てもらえれば、というのはあります。キャラも、最初はちょっととっつきにくいかもしれないですけど、これは観れば観るほど味の出てくるキャラクターだし、“岸田キャラは動いてなんぼ”なので。


●関連サイト
『ノエイン もうひとりの君へ』公式
http://www.noein.jp/

バンダイチャンネル『ノエイン もうひとりの君へ』特設サイト
http://www.b-ch.com/cgi-bin/contents/ttl/det.cgi?ttl_c=425


●TV放送情報
ちばテレビ/毎週火曜25:30〜
テレビ埼玉/毎週金曜26:00〜
テレビ神奈川/毎週木曜25:15〜
テレビ愛知/毎週火曜27:58〜
サンテレビジョン/毎週木曜26:05〜
キッズステーション/毎週金曜24:00〜
         (再放送)毎週金曜28:30〜、毎週日曜24:00〜

●DVD情報
「ノエイン もうひとりの君へ」第1巻(全8巻)
ZMBZ-2441/カラー/約90分(本編73分+特典映像約17分)/ステレオ(リニアPCM)/片面2層/16:9スクイーズ映像(一部映像特典4:3)
価格:6300円(税込)
現在発売中(第2巻 2月24日発売)
収録内容:第1話「アオイユキ」、第2話「イエデ」、第3話「オワレテ・・・」
特典映像:「函館紀行 vol.1」 (出演:工藤晴香)
初回特典:岸田隆宏描き下ろし収納BOX(4巻収納)
発売元:東芝エンタテインメント
販売元:メディアファクトリー
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(06.02.15)

 
 
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