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渡辺歩・小西賢一が語る『のび太の恐竜2006』
(1)「一言で言えば『描ききるぞ』と」


 2004年の『のび太のワンニャン時空伝』までに25本の新作が作られてきた『映画ドラえもん』シリーズ。1年の休みをはさんで発表された新作が、今春の『映画ドラえもん のび太の恐竜 2006』だった。TVシリーズ『ドラえもん』に続くかたちでスタッフやキャストが一新されており、『映画ドラえもん』リニューアル第1作という位置づけの作品となる。
 内容は『映画ドラえもん』の第1作『のび太の恐竜』のリメイクだ。劇場短編『のび太の結婚前夜』『おばあちゃんの思い出』等を手がけてきた渡辺歩が監督、『ホーホケキョ となりの山田くん』『TOKYO GODFATHERS』の小西賢一が作画監督を担当。盛りだくさんなエンターテインメントに仕上がっており、また、ビジュアル的にも大健闘。作画マニア必見の作品だった。
 今回は渡辺歩(写真・右)、小西賢一(写真・左)のお2人に、たっぶりとお話をうかがう事にしよう。



●プロフィール
渡辺歩(WATANABE AYUMU)
1966年9月3日生まれ。東京都出身。血液型A型。1986年、スタジオメイツに入社し、同社で原画デビュー。それ以降、ほぼ藤子アニメのみに関わっている。1988年にシンエイ動画へ。TVシリーズ『ドラえもん』には原画、作画監督、絵コンテ、演出等の役職で参加。代表作は劇場短編『帰ってきたドラえもん』『のび太の結婚前夜』『おばあちゃんの思い出』(監督・作画監督)。『Pa-Pa-Pa ザ★ムービー パーマン』(監督・脚本)、『映画ドラえもん のび太とふしぎ風使い』(総作画監督)、『映画ドラえもん のび太のワンニャン時空伝』(演出・総作画監督)など。

小西賢一(KONISHI KENICHI)
1968年6月23日生まれ。埼玉県出身。血液型A型。1989年、研修第1期生としてスタジオジブリ入社。1999年にフリーとなる。主な作品に映画『ホーホケキョ となりの山田くん』(作画監督)、『海がきこえる』『総天然色漫画映画 平成狸合戦ぽんぽこ』『耳をすませば』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』(原画)。今 敏監督の『千年女優』では原画と作画監督(共同)を担当し、続く『TOKYO GODFATHERS』でキャラクターデザイン(今監督と共同)と作画監督を務める。他にペンネームで『メダロット』『ワイルドアームズTV』等にも参加。

2006年3月17日
取材場所/東京・シンエイ動画
取材・構成/小黒祐一郎

●関連サイト
『映画ドラえもん のび太の恐竜 2006』公式
http://dora2006.com/

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【情報局】春は劇場アニメのシーズン!(2) 渡辺歩、渾身の力作! 『映画 ドラえもん のび太の恐竜 2006』

―― 『のび太の恐竜2006』が公開されて、しばらく経ちますね。もう落ち着かれた頃でしょうか。
渡辺 そうですね。小西さんはどうですか?
小西 ええっ、いきなり僕に振らないでよ(笑)。
―― 渡辺監督から答えてくださいよ。
渡辺 そうですか。観てくださった方達が、どういう感想をお持ちになったのかが気になりますよね。それで、今はビクビクしているところで。
―― 業界関係者の感想が耳に入ったりしているんじゃないですか。
渡辺 それはほとんどないです。僕のところに入ってくるのは、この作品のスタッフも含めて、現場の人達の声だけですね。まあ、嘘でも「よかった」と言ってもらって、その一言一言に救われる日々を送っているわけです。
小西 (笑)。
渡辺 で、(興行側の)調べによると、この映画の観客の半数以上が、旧作の『のび太の恐竜』をよく知っていたんだそうです。で、その中で「よかった、面白かった」いう方が93%かな。この高い数字が、興行収入とは別の意味での成果かなと思っています。僕個人としては、そういったところがちょっとこだわった部分だったんです。今回の映画はリメイクですから、旧作のよさを知っている人達が納得できるかたちで、新しいものとして成立させられるかというのを心配してたもんですから。何とか許していただけたのかな。もっと言ってしまうと「今の日本、まだまだ捨てたもんじゃないかもな」という感じですね(笑)。
小西 旧作を観ている人の事を考えると、旧作のイメージとの戦いみたいなものでしたから(笑)。ただ、観た人の中で「昔の方がよかった」という人もいたけど、「最近(旧作を)観返した?」と聞きたくなるよね。
一同 (笑)。
―― 企画の話からうかがいたいんですけど、そもそもどんなかたちでスタートした企画なんでしょうか。
渡辺 劇場『ドラえもん』をリニューアルをする。そして、原点回帰という事で、1本目をリメイクするというところから始まりました。
―― 渡辺さんのところに監督の話がきた時には『のび太の恐竜』のリメイクである事は決まっていたんですね。
渡辺 そうですね。僕のところに話がきた段階で、それはすでに決まっていました。あとは、どういう風にリメイクするか、という事ですよね。勿論、時代性で変わる部分もあるんですけども、それだけじゃなく、どこか新たに掘り起こす部分もいるのかなと。僕は今回の映画を作るにあたって、旧作の映画を改めて観返したわけじゃないんですよ。旧作については当時観た記憶のままで留めておいて、原作を読み返してみました。読んでみて、自分がやるんだったらこういう感じにしたいと思う部分もあったんですよ。それでシナリオも自分で書くのを前提でやらせてもらいました。
―― 脚本は、楠葉(宏三)さんと連名になっていますけれど、具体的にはどういうかたちで?
渡辺 前半部分の最初にピー助を原始時代に送るところまでは、楠葉さんが原作に沿ったかたちで脚本化したんです。後半に関しては、僕の方が具体的な脚色を入れながら、脚本化していきました。ほんとは僕が全部書きたかったんですけど、物理的にちょっと難しかった。前半部分も、原作に足したい部分はシナリオで入れておきたかったんですけど、結果的に前半部分は原作のまま。それはコンテ作業の時に、もう一度脚色するかたちにはなりました。
―― 物理的に難しかったというのは、早い段階で一度シナリオをまとめる必要があった?
渡辺 そうですね。『ドラえもん』の映画は1年休んでいるわけですから、作品の基本を固めて、関連各所の意思統一をしておきたいというのが(周囲には)ありましたね。
―― 原作と違って、最後にのび太達が目的地に向かっていくのを、タイムパトロール隊が見送りますよね。ああいった部分は脚本の段階で決まっていたんですか。
渡辺 悪党の基地でのバトル以外は、大体脚本どおりですね。原作を読んだ時に、最初に手を加えたいと思ったのが、そのタイムパトロール隊の部分だったんです。子供達が、自分達の意志で生きていくようにできないのかという事と、理想論としての子供と大人の関係みたいなものを、親以外との関係でも描きたいというのがあったものですから、ああいった部分を入れちゃったんですけども。
―― 全体のプランとして「映像的に見応えのあるものにしてほしい」というオーダーは、関連各所からあったんですか。
渡辺 それは強くありましたね。やはりスケールアップとか、CGのような今の技術を使って見栄えのするものに、というようなオーダーは事細かにありましたね。恐竜を原作よりもたくさん出してほしいというのもありました。
―― なるほど。
渡辺 恐竜勉強会みたいなものも、やったんですよ。学者さんにきてもらって、最新恐竜学みたいなものをお話していただいて。勿論、それは参考になったんですけれど。例えばピー助は、海生爬虫類(の首長竜で)、本当は恐竜じゃないかもしれないんです。だったら、映画のタイトルはどうするんだとか、そんな話もあって。それと、ピー助は卵から生まれないかもしれないという話もあったんですよ。
―― え、そうなんだ(笑)。
渡辺 そうらしいんですよ(笑)。だけど、僕はこれをファンタジーにしたいという事で、最新の恐竜学の考察を入れるのは避けたんですけどね。むしろ、1人の少年が自分と違う生き物と出会って、一緒の時間を過ごして別れていくまで。そのドラマの基本的な部分を大事にした方がいいのかなって。
―― アニメーションの方向づけとしては、どういった風に?
渡辺 ご存じのとおり、『ドラえもん』はキャラクターがシンプルで、画的な情報量も少ないんですが、シンプルゆえにちゃんと描いてあげる事で伝わるものもあるんじゃないかと。デザイン的にも単純化されていますよね。それを動かす事によって、マンガ映画的に成立させよう。それで大変な方法を選ぶ事になったんだけど、「動かせるだけ動かしてやれ」と思いました。情景とか時間も含めて、使える情報を全て使って、そして動かしてやろう。実際にそれができたかどうかは別ですけど、一言で言えば「描ききるぞ」と。だから、コテコテの感じになっているんですけど。
―― 「描ききるぞ」ですか。
渡辺 ええ。それは自分とスタッフの技術力を使い切るという事ですね。
―― 作画監督が小西さんに決まったのは、どういった経緯で?
渡辺 いや、まさにその部分があったからですよ。手抜きなしでいくぞと。
―― それには小西さんしかないと!
渡辺 (力強く)ええ!
小西 そんな事はないでしょうけれど(苦笑)。
渡辺 制作が始まってから、具体的に僕が小西さんに指示を出したわけじゃないんですよ。最初に作画監督の仕事をお願いした時に、全体の方向についての話はさせてもらったんですけど、実作業においてはお任せしていました。
 小西さんに作画監督を依頼したいきさつを話すと、前作の『(のび太の)ワンニャン時空伝』で、小西さんに数カットの原画をお手伝いしてもらって、フォルムや表現の感じが素晴らしいと思ったんですよ。その前に『東京ゴッド(TOKYO GODFATHERS)』でのお仕事も観ています。今(『ドラえもん』の)このキャラクターでやるんであれば、根源的なところまで純化したキャラクターでやらなきゃ駄目だと思ったんです。『東京ゴッド』では、あれだけ密度の高いキャラクターで、あれだけの芝居をしていたじゃないですか。『ドラえもん』のようなマンガチックなキャラクターなのに、動きが少ないというのはどうなのかなと。そういったこの映画に欲しい部分を考えると、お願いしたい人は小西さんだという事になったんです。
―― 何人かいた作画監督候補の1人だったんですか。
渡辺 いやいや。小西さん一点張りでしたね。小西さんがやらなかったら、自分で作画監督をやるくらいの気持ちでした。
小西 (苦笑)。
―― 小西さんが『ワンニャン時空伝』で描かれたのは、スリがタッタッと走ってくるところですよね。
渡辺 そうです。それと盗った後で、のび太とどなり合うところですね。
小西 何て事のないところですけど。
渡辺 (笑)。こんなところをお願いして、もったいなかったですよ。
―― シーンは地味だけど、作画は目立っていましたよね。僕も「なぜここを小西さんが?」と思いました(笑)。
渡辺 そういった細かい仕事って、子供はちゃんと観ていますから。「あ、こんな喜び方するんだ」とか思ってくれる。そういうところをちゃんと描かないと駄目だなと思います。記号的に消化するのもいいんですけど、やっぱり観客の方々に1年待ってもらったというのもありましたし、自分的に描けるだけのものをこの『ドラえもん』1本で描いてみよう。「もうこれ以上は無理ですよ」というところまで描いてみようというのがあったものですから。
―― 小西さんは、声をかけられて、いかがだったんでしょうか。
小西 悩みましたね(笑)。引き受けてからも、作業に入る直前まで「ほんとに自分がやってよかったんだろうか」と悩みましたよ。ただ、『東京ゴッド』が終わって、次をどうしようかと思ってたんです。ディテールのあるキャラクターで劇場の作監という大きな仕事をした後に、そのままの流れでいっていいものだろうか、矛先を変えた方がいいのか。そういう事を色々悩んでいて。
 それから『東京ゴッド』をやりながら、渡辺さんの中編『ドラえもん』を観ていたんですよ。『おばあちゃんの思い出』を観て、泣きながら作監やったりしてたんですよ(笑)。『東京ゴッド』はアニメーションとして凄い芝居を要求される作品で、あの絵柄で動かすのは相当な負荷というか、やっぱり大変なんです。自分としてはリアルな絵柄でずっとやり続けたいわけでもないんですよ。どちらかというと、職人的にどんな画柄でも描きたいというのがありまして、次に何をやるかと言ったら、思いっ切りディテールのないやつがいいかなと漠然とは思っていたんです。
 そんなところで、渡辺さんの中編を観ていたら、動きがダイナミックというか、伸び伸びと動いているじゃないですか。勿論、作品の系統が違うといえばそうなんだけど、あのダイナミックさがいいなと思ったんです。リアルなキャラクターだと、どうしても細かい事に気持ちがいかざるをえないし、踏み外したくても踏み外し切れないんですよね。そういう時に中編『ドラえもん』を観て、隣の庭は青く見えるじゃないけど(笑)、あそこまで発散できたら気持ちいいだろうなあと。ただ、自分がやる事になって、それができるかっていうと、ちょっとあれはできないなとは思いました。あのダイナミックな動きには憧れるけれど、自分にはそこまでのドタバタはできないし、情緒的なシーンも凄く巧い。はっきり言って、渡辺さんの中編は自分にはつけ入る隙がないと思っていたんですよ。
―― 渡辺監督の一連の中編は、あれで完成品だという事ですね。
小西 そうです。自分で作監、演出もやっていて、中編という短い尺でひとつの完成したかたちだと思います。でも、長編になるとどうなるんだろうか? おそらく、長編ではあの作り方では作れないだろう。ドタバタし続けているだけでは成立しないだろうというのもありますし、もっと芝居でみせる部分が重きをもってくるんじゃないかなと。そういう事なら、もしかしたら、自分がお手伝いする意味があるんじゃないかな。渡辺作品のもっているダイナミズムと、自分の持ってるものを合わせたものが観てみたいと、ちょっと思ったんですよ。

●渡辺歩・小西賢一が語る『のび太の恐竜2006』(2)に続く


(06.04.17)

 
 
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