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■恩地日出夫監督
劇場版『地球へ…』を語る

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恩地日出夫監督 劇場版『地球へ…』を語る
第3回 リアルに歩かせるから、時間かかるわけだよ


―― ちょっと些末な事になりますが、フレームサイズについて教えてください。この作品は4:3のスタンダードで作って、劇場にかける時にビスタサイズにする形式だったはずですが。
恩地 えっ! それはどうだったんだろう? 全然憶えてないな。ビスタで描いてたんじゃないのかねえ。
―― いえ、フィルムは4:3のはずです。1980年代に一度ビデオソフトになっているんですが、その時には、ビデオマスターのチェックに立ち会われていますか。
恩地 いや、立ち会ってない。
―― そのフレームがおかしくてですねえ、ビスタじゃないんですよ。ビスタよりも細長いんですよ。そのビデオソフト版のフレームは、監督の意図ではないんですね。
恩地 全然、俺の意図じゃないなあ(苦笑)。(ビデオメーカーが)勝手にやったんだろうね。
―― これも1980年代の事ですが、地上波でTV放映した事があったんです。それがまた変な放映で。確か、通常場面は4:3なんですけど、宇宙船が飛ぶシーンなどで、突然ビスタになるんですよ。これも恩地監督の意図ではないんですね。
恩地 いやいや、俺は全く立ち会ってないから。本当は立ち会わなくてはいけないんだよね。監督には、同一性保持権があるからね。
―― ずっと『地球へ…』への画郭は気になってたんですよ。フレームの変化が監督の意図じゃないという事が分かったのも収穫でした。
恩地 それは意識していなかった。そういうのは統一しなくちゃいけないよね。ただ、スクリーンで観てもらうつもりで撮ってるものだから、TVで観られる段階で、本来の意図とは違うんだよね。DVDって字幕をいくつも入れられるし、好きな時に好きなところで観られるのは便利なんだけど、それはもう映画ではないような気がするんだよね。映画というのは、真っ暗なところで、たくさんの人と一緒に泣いたり笑ったりするのが嬉しいわけでね。DVDみたいなかたちになると、表現じゃなくて、情報になっちゃうんだよな。
―― 『地球へ…』はキャストも話題になりましたよね。実写の方が大勢出演していますが、これはどういった経緯で決まったものだったんでしょうか。
恩地 やっぱり僕のイメージで決めているね。だけど、それまでやった事のない人ともやってる。薬師丸(ひろ子)君なんて、まだ子どもだったしね。それと、アニメの声優さんが巧かったのは覚えているね。声だけで表現するのが巧い。特に、トォニイを演ってくれた古谷(徹)君がね、「この人は巧いなあ」と思った。コンピューターを岸田今日子に演らしてみたの。長年一緒にやってるからね、彼女なら大丈夫だろうと思って演らしてみたの。一番イメージどおりの声になったね。フィシスは秋吉久美子だったけど、声が抜けて、なかなかフィシスっていう自分の名前を言えないんだ。それで「お前、入れ歯じゃねえか」と言ったんだ(笑)。結果的には、みんなよかったけどね。僕がこだわったのは岸田君と秋吉君。あとは田宮君が連れてきたんじゃないかな。誰が出ていましたっけ。
―― 沖雅也さんも出演していますね。
恩地 沖雅也君にも、俺はこだわったんだ。彼はよかったな。キース・アニアンには、ちょっと人間っぽくない感じが欲しかったの、冷たい感じっていうのがね。
―― 薬師丸さんは、どうして出演する事になったんですか。
恩地 多分、田宮が連れてきたんじゃないのかね。だって、俺は全然知らなかったもの。売り出し中だったから、プロデューサーが名前入れたかったんじゃないかな。沖雅也と「随分と色の黒い子だねえ」と話したのを覚えている。
―― 物語の構成についての話に戻りますね。原作の長い話を、2時間にまとめてるわけなんですが。どのように構成しようと思われたんですか。
恩地 脚本を書いてもらった塩田(千種)君とのやりとりをして、脚本としてでき上がったものを、竹宮君のところへ持っていって、意見を聞いたり。ただ、さっきも言ったように、揉めるような事は一度もなかった。
―― 劇中で10年の月日が経ったりしますよね。その割には、あまり話が圧縮されている印象がないんですよ。
恩地 演出としては下手だったなあと思うところがあるんだ。「十年後」とかって文字を出したわけだよ。あれは、それまでTVの仕事をやっていた影響が出ているな。
―― 確かにそういったテロップが出てましたね。
恩地 テロップを出さないと、時間経過が分かんないんだよね。普通、あんなテロップは出さないよ。あれは演出ができてないという事だからね。あれを出さないで、ドラマの流れだけで10年の月日を感じさせればいいんだけど、それは難しかっただろうね。話をトントンと飛ばしていかなくてはいけなかったし、全体のテンポってものがあるからね。今やったら、もっと上手くやれるかなあ(笑)。
―― 全体としては物語が圧縮されているんだけど、個々のシーンはゆったりしているんですよね。それで、他にないバランスになってるのかなと思うんですけど。
恩地 スピードの事で言えば、例えばね、向こうから人が歩いてくるとするでしょう。アニメでそれをやると速いんだよ。動きを飛ばして、パッ、パッ、パッと来ちゃうわけだよね。そうじゃないとアニメじゃないという感覚があったわけだよね。俺はリアルに歩かせるから、時間かかるわけだよ。
―― 『地球へ…』だと、凄くゆっくり人が歩いていますよね。
恩地 あれは、ゆっくりじゃないんだよ! 普通はあんなもんなんだ!!(笑) アニメが速いんだよ。だって、数コマで手前まで来ちゃうような事があるからね。アニメの感覚は、作っている人達の慣れだね。どっちが正しいってわけでもないし、どっちがいいというわけでもないけども、あまりにも省略しすぎちゃうと、リアリティがなくなるよね。日常の描写で、目が覚めて、着替えて、顔洗って、歯磨いて、飯食うというのをやったとしたら、10秒でできるわけがない。普通の人間がやったら10分、15分かかるわけだよね。映画の中で、それに15分かけるわけにはいかないから、飛ばす必要がある。飛ばすのはカット割りで飛ばしていけばいいのであって、基本的にはカットの中で飛ばすべきではないんじゃないか。勿論、若い人には若い人の感覚があるから、速いテンポで歩かせてもいいんだけど、俺は自分の感覚を変えるつもりはないから。まあ注文は来ないだろうけど、もう一遍アニメを撮る事になっても、やっぱりゆっくりやるんじゃないかね(笑)。
―― 設定の説明などについてはいかがですか。
恩地 この間、たまたまTBSで今やってる『地球へ…』のTVシリーズを観たんだ。10分くらい観ただけなんだけど、設定をナレーションやセリフで説明していた。それについては、僕も凄く悩んだわけ。この設定を、頭の15分でお客に理解させなきゃいけない。成人検査とは何なのか、今の人類がどうなっていて、ミュウというのが何なのかを、導入部の15分で言葉で説明しようとしても無理なんだよね。論理的に理解させようと思ったらできない。普通にやったら、1時間ぐらいかかっちゃうと思うんだよね。だとすれば、感覚でいくしかない。だって、映画っていうのは画と音の表現なんだから。ライブであろうとアニメであろうと、音が50%、画が50%。勿論、論理や言葉は介在するけども、映画というのは、作っている人間の感性と観ている人間の、感性のコミュニケーションだから。
 だから、塩田が書いてきた色んな説明を切っていったわけね。「分かんなくなりませんか」と言われたけど、「分かんなくていいんだ」と言ってやった。音に乗って画面を観ていれば、観客は作品に入っちゃうって。入り込んで観てくれれば、感覚で分かるはずだ。本なら説明をいっばい入れてもいいよ。戻ってもう一遍読めばいいんだから。だけど、映画は時間を戻す事ができないんだから、感性で分からせろって事だよね。
 ただ、どうしても10年の月日が経った事は、感覚で伝えられなかったから「十年後」というテロップを出しちゃったけどね(苦笑)。俺、劇場で観ててね、あれが2度目に出るとね、ドッと笑うんだよね。
一同 (笑)。
恩地 「なるほど。笑うかあ、そこー!」ってさあ(笑)。
―― 当時、僕が観に行った時も、そこでお客さんが笑ってました。
恩地 そうだろ。笑うんだよ。あれは参ったよなあ(笑)。
―― 当時の記事で、田宮さんは『地球へ…』を青春物語として捉えて、青春映画を得意とする恩地監督を選んだとおっしゃっていましたよね。確かに仕上がった映画は、不思議と青春ものの雰囲気がありますよね。
恩地 やっぱり人間と人間の物語だから青春ものの部分もある。それから、メロドラマの部分もあるし、アクション物の部分もある。それでいいんじゃないかねえ。それが何年後の話であろうと、変わらない。これは人間が人間じゃなくなっちゃってる時代を設定しているけれど、人間が観る映画なんだから、やっぱり人間の話でいいんじゃないのかね(笑)。俺はやっぱり、どうしても人間にこだわっていたから。
―― 『地球へ…』という作品は、ご自身の中でどういった位置にある作品なんでしょうか。アニメーションではあるけれど、他の作品と同じように、自分の映画として作る事ができた作品なんでしょうか。
恩地 僕の作品ナンバーから外す気は全然ないし、アニメだから映画じゃないとは思ってない。アニメーションというテクニックを使った、僕の映画だと思っています。さっきDVDになると映画が情報になってしまうと言ったけど、DVDというかたちであっても、これをきっかけに観てくれる人が増えるのは、凄く嬉しいなと思いますよ。


[DVD情報]
「竹宮惠子DVD−BOX」
DSTD02698/片面1層(一部 片面2層)カラー256分(本編)、4:3 (一部 16:9 LB)、封入特典、映像特典
収録作品:『地球へ…』、『夏への扉』、『アンドロメダ・ストーリーズ 』
価格:12,600円(税込)
発売日:2007年6月21日
販売元:東映アニメーション株式会社
[Amazon]

「地球へ…」DVD
DSTD02696/片面2層カラー112分(本編)、16:9 LB、映像特典、ピクチャーレーベル
価格:4,725円(税込)
発売日:2007年6月21日
販売元:東映アニメーション株式会社
[Amazon]



(07.04.20)

 
 
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