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■『グレンラガン』
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今こそ語ろう『天元突破グレンラガン』制作秘話!!
第17話 あなたは何もわかっていない



第17話 あなたは何もわかっていない
脚本/中島かずき
絵コンテ/鶴巻和哉
演出/大塚雅彦
作画監督/錦織敦史、中村章子
原画/大塚健、名倉智史、西位輝実、馬場充子、薗部あい子、河野紘一郎、伊藤智子、大河内忍、岩滝智、いまざきいつき、林明美、後藤望、富田浩章、福元敬子、横井将史、雨宮哲、菊地大輔、平田雄三、中村章子、錦織敦史

●テッペリン陥落から7年、新たに建造された地上都市・カミナシティ。螺旋王の残したテクノロジーをもとに、人々は爆発的な勢いで文明を築き上げていた。新政府総司令となったシモンは、公務に忙殺される日々を縫って、ニアにプロポーズ。その時、新たな敵が姿を現した! これまでと趣をガラリと変えた世界観でスタートする『グレンラガン』第3部。成長したシモンやニア、ロシウらのドラマを軸に、再び過酷な戦いの物語が幕を開ける。『フリクリ』『トップをねらえ2!』の鶴巻和哉がコンテを手がけ、大塚雅彦が15話に続いて演出を担当。


── 第3部は、今石監督の中でどういう位置づけになるんでしょう。
今石 位置づけですか……やっぱり、大河ものとして主人公の成長物語をやっていく上で、栄光と挫折を描きたかったという事がいちばん大きかったですね。普通なら、物語としては第2部で終わってもいいと思うんだけど、それだと今まで何万回と作られた話と同じになってしまうので、その先の物語も観てみたいなあ、と思って。それと第3部は、僕自身にとってのチャレンジみたいな意味合いが強かったと思います。第2部までなら、作る前からどういうアニメになるか分かるけれども、第3部以降は、今の自分達が作ってどうなるのかよく分からないまま作る。それは凄く楽しかったです。
── 年代記的な構成になるというのは、最初から決まっていたわけですよね。
今石 そうですね。
── 7年後という設定は最初から決まっていたんですか?
今石 そこは結構、何回か変わりました。最初は20年後と言ってたり、それじゃ行き過ぎだというので5年後にしてみたり。そんな行ったり来たりがあって、なんとなく7年後に落ち着いたと思う。最終的に7年と決めたのは、中島さんですよね。
大塚 うん。気分的には、もっと経ってる気がするけどね。
今石 15年くらい経ってる気分ですよね。(シモン達が)完全に大人になっているという事にしたかったんだけど、さすがにみんなついてこれないんじゃないかと思って。
── ヨーコの年齢もありますし。
今石 そうなんですよね。男どもは老け込んでてもいいんだけど、ヒロインが老け込んでしまうのは切ないから(苦笑)。


── キャラクターデザインも一新されますね。
大塚 第3部の時は、今石君の方からラフを出したんだっけ?
今石 うーん、合宿の時にみんなで描き合いながら、イメージ案みたいな感じでは描いてましたけど。シモンぐらいはラフを出したかもしれない。でも、キャラの顔はやっぱり錦織が作ったという記憶がありますね。
大塚 第1部の時には、よく今石君が元の画を作って、ゴリ君がそれをクリンナップしたという感じがあったけど、第3部は確かにゴリ君のキャラだというイメージがあるなあ。
今石 僕としても、わりとすぐに錦織の方から「うん、なるほどな」って納得できる画が上がってきた、という印象があります。でもロシウは迷ったかもな。「もっとゴツくしてほしい」とか注文して、「これじゃオッサンになり過ぎだ」とか言って(笑)、行ったり来たりしてた記憶がある。
── で、女性キャラに関しては、あまり老け込ませないように。
今石 うん。でも結構、錦織が容赦なく骨太な画を描いてくるんですよ。
大塚 ハハハ(笑)。
今石 「いや、これはちょっと戻そう」「もうちょっと軽くしよう」みたいな事を、こっちから言った覚えがあります。
── 第3部のサブタイトルは、このインタビューにも登場してもらっている真鍋さんがデザインを担当されてますね。
真鍋(広報) そうです。
── かなりシンプルなものになってますが、これはどうしてなんですか。
今石 まあ、カミナ、ニアときて、次はロシウの台詞となると、やっぱり落差を出すには無機質な感じがいいだろうと思って。だったらいっその事、既存のフォントを使っちゃうくらい無機質にしようと。でも、結構いじくってたよね。そのまんまというわけにはいかなくて。
真鍋 元々オーダーされていたのは、横書きじゃなくて縦書きだったんです。でもタイトルになった台詞は長過ぎて、3行くらいにしないと収まらないんですよ(笑)。だから文字を小さくしたり、平たく潰したりしてたんですけど、結局、横にするしかないと。
── 本当にデザインの仕事だったんですね。
真鍋 ええ。でも視聴者の方の感想などで「サブタイ普通になっちゃったよ」とか書かれたりして、ちょっとショックだったり(苦笑)。ショックというか、ごめんなさい! という感じでした。
今石 いやいや、そういうコンセプトだから(笑)。
真鍋 他のタイトルが凄く凝ってたから、自分でも見ていて「ホントにこれでいいのかな?」と思っていて。監督ともいろいろ話をしたんですけど、でも監督は「これでいいんだ!」って。
今石 ハハハ(笑)。そういう話はだいぶしたかもね。「いや、第3部で番組が変わってるんだから、これでいいんだ」と。
真鍋 ちなみに劇中テロップも、第3部からフォントを変えてます。第2部ではゴシックだったけど、今風という事で明朝体に。
── あれは「今風」なんですね。
今石 まあ、90年代に入ったから明朝にしてもいいだろうと。「……やっぱり落ち着くなあ、明朝」って思いましたね。
一同 (笑)
── それはなぜなんですか?
今石 普通のゴシックだと、TV局が入れたテロップみたいに見えるんですよ。バラエティ番組かよ、みたいな微妙な感じがしていて(笑)。明朝だとやっぱり画面が締まるなあ、と。
大塚 第3部はわりと、イメージとしては今時のアニメに近い感じだよね。
今石 うん。(年代分けしていく)順番で言うと90年代なんだけど、気分的にはもう2000年代かもしれないですよね。


── さて、17話の話に入りますが、まず絵コンテが鶴巻和哉さんですね。
今石 そうですね。鶴巻さんにはわりと早めに振ってたんでしたっけ。
大塚 相当早かった。美術設定が何もない状態で振ってるから(苦笑)。だから「世界観込みで考えてくれませんか」みたいな、無茶なお願いをしていました。
── イメージボードはあったんですか?
大塚 ボードはありました。キャラのラフも上がってたけど、それぐらいしかなくて。かなり設定が押していて、上がりを待っていたらコンテに入れないという事で、第2部の後半をやってた時期ぐらいに、もう鶴巻さんにお願いしてたと思うんですよ。なかなか上がってこなかったですけど、まあ当然ですよね。設定込みでお願いしてるから。
今石 いきなり第1話を作れと言ってるようなものですから(苦笑)。
大塚 しかも、ムガンのサイズ対比とかも出してなくて。最初に上がったコンテでは、グレンラガンとムガンの大きさがかなり違ってた。
今石 すっごい巨大でしたね、ムガンが(笑)。イメージ的には、グレンラガンより頭ふたつ大きいぐらいだったんだけど、3倍ぐらいの身長になってた。
大塚 完成品にもその名残があって、ムガンの初登場カットとか、そういうレイアウトで捉えている部分もある。
今石 最初、鶴巻さんにはもうちょっとユルい、1話完結の話をやってもらおうとしてたんでしたっけ? ヨマコ先生のエピソードを振ったらいいんじゃないか、という話もありましたよね。
大塚 元々2本ぐらいやってほしくて、その時は鶴巻さんも「2本ならできるかなあ」という感じだったんだけど。
今石 まあでも、「ヱ」の付く巨大な作品が動き始めてたから(笑)。これじゃ後の話数はとても頼めない、という事が見えてきたので、じゃあいっその事17話を……と。
── ああ、時期的に『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』と被ってるんですか。
今石 ちょっと被ってますね。入り始めの頃かな。
大塚 向こうが佳境に入る前には、上げてもらったんですけどね。
── それでも17話は、鶴巻コンテの錦織作監という、GAINAXフル出力という布陣になるわけですよね。
今石 そうですね。普通、ここは監督がコンテをきらなきゃいけない回だと思うんですけど(笑)。平気で明け渡してました。第2部も第3部も、コンテは1本も描いてないかな。
── 17話は、直しの度合い的にはどのくらいだったんですか?
今石 ほぼ直してないです。第3部ではもう、直せる時間が減っているので、直しの量も自動的に減ってる(苦笑)。
大塚 でもやっぱり、鶴巻さんのコンテは「さすが!」って感じでしたよ。面白いわー、と。
今石 うん。
大塚 それに、ちゃんと歩留まりを考えてくれてるので、そんなに動かさなくても大丈夫な仕掛けになってるんですよね。やっぱりレイアウトがいいと、最低限の事で何とかやっていける。どちらかというと『グレンラガン』では異色だよね、そういうのは。
今石 いつもは描くだけ描いて考えよう、みたいなスタンスですからね(笑)。
大塚 原画的にも、そんなに苦労する事なくできたんですよ。17話は実質的に15話の次の回で、かなりの戦力が前回に投入されていた。だからゴリ君も原画のメンツ的にあまり期待できないと思っていて、自分でなんとかしようとしてたみたい。けど、いざやり始めてみたら結構いい人達が入ってくれたんですよね。だからコンテもよかったし、作画もよかったし、15話なんかに比べれば全然時間はないんだけど、それでもいい出来に仕上がった。


── 作画的な見どころは、どのあたりですか。
今石 僕的には、いまざき(いつき)さんですかね。でも、この時はちょっと最後までやりきれなくて、わりと2原に撒いたんです。
大塚 平松(禎史)さんとか、雨宮(哲)とか。
── 豪華メンバーですね。
今石 ええ。グラパールが銃をバッと出して、脚を広げてダダダッと2丁拳銃で撃つところは、平松さんが珍しくメカを描いてます。
── でも、2原なんですよね?
今石 いやまあ、2原なんだけど、ほぼ“ただの平松さんの原画”みたいになってましたよ(笑)。レイアウトとかは違うけど、画そのものはまるっきり平松さん。
大塚 あと、後半の名倉(智史)さんの原画もよかったよね。カミナシティの街の上を、グラパールがビームを避けたりしながらアクロバティックに飛んでいるところとか。
── イメージボードの菊地大輔さんの名前が原画に入ってますが、どのあたりを描かれてるんですか?
今石 アタマの2カットめぐらいからカミナシティの全景が見えて、高速道路とか広場とか、町の点描に入っていくところを、設定込みでやってくれないかという事で描いてもらいました。あの辺も設定を作るのが間に合わなくなってきてるので、いっその事もう(原画を)描いてみたらどうだ、と。
── 普段は原画を描くポジションではないわけですよね。
今石 本人は描きたがっていたんだけど、やっぱりボードの仕事の方が先だからという事で、なかなか描かせてあげられなかった。
大塚 『グレンラガン』ではあそこだけかな。
今石 そうですね。あと、久保っち(久保田誓)が『王立(宇宙軍)』カットの煙を描いてましたね。ロケットの発射シーンで、絵コンテにもう“参考:『王立宇宙軍』”と書いてあるカットがあるんですけど(笑)。煙がカメラに向かってバーッと出てくるところ。あの2カットだけでしたっけ。
大塚 だね、うん。14話の作監が終わってから入ってもらった。


── ムガンのデザインは『DEAD LEAVES』『OVAL×OVER』でも組んだ今井トゥーンズさんですね。
今石 ええ。ムガンも仕込みだけは早かったですね。第3部から敵が3Dになるというのは決めていたので、1話を作っている頃から打ち合わせをしていた気がする。
── その時から、ああいう定規とコンパスで作ったような、いかにも3Dというデザインにするつもりだったんですか。
今石 そうですね。絶対に作画で描きたくない! と思うようなデザインにしたかった(笑)。やっぱり作画のキャラとかメカと絡むところは、CGも作画にしましょう、みたいな事になるじゃないですか。それは今回、1カットたりともやらないようにしようと思っていて。実際ひとつもないはずですよ。
── 人間っぽいデザインとかにすると、つい作画したくなってしまうけど……。
今石 そう。こんなの作画してもしょうがないよ、という気持ちにさせるデザインにしたかった。
大塚 最初から「ポリゴンぽくしよう」って言ってたもんね。
今石 でも、なかなか落としどころが難しかった記憶がありますけどね。僕の中ではもう『(SF新世紀)レンズマン』とか「トロン」でいい、とか思ってるんだけど、それは作画の人に何も描くなと言ってるのと同じで(笑)、3Dの人も何も描くなって言われたら困るんだろうなーと思いつつ。


── 17話は、色調やライティングの面でかなり作り込まれていた印象があるんですが。
今石 それもやっぱり、イメージボードをたくさん出してもらってたので、そこでだいぶ設計ができていたんです。ここからガラッと世界観が変わるというのを印象づけたかったので。キャラ全体の色のトーンも、基本的に今までよりはちょっと発色を抑えるというか、色味を落とした感じにしていました。今までの『グレン』第1・2部でいえば、曇り空の下にいるぐらいの感じで統一してます。
── なるほど。
今石 いやー、シリーズ途中で設定を変えるというのがこんなに大変な事だとは(笑)。頭では分かっていたけど、やってみると「ああ本当だな」って。身に沁みましたね、いかに無謀だったか。
大塚 ハハハハ(笑)。
── 他に17話で印象深かった事はありますか?
今石 村長役の玄田哲章さんは、あのためだけに来てもらいましたからね。音響の浦狩(裕樹)さんも、まさか17話でまた出てくるとは思わずに玄田さんを1話でキャスティングしていて。でも、ちゃんと出てくれたので、せっかくだからTVから流れる歌も歌ってもらった(笑)。
大塚 あれ、アドリブだもんね。凄いなあ! と思ったよ。その場で拍手が起きたもんね。
今石 ええ。さすがに歌までは歌ってもらえないんじゃないかと思っていたんだけど、あそこまでやってくれて、嬉しかったです。

●第18話へつづく!!


●『天元突破グレンラガン』公式サイト
http://www.gurren-lagann.net/

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(08.02.01)

 
 
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