『キャシャーンSins』を戦い終えて……
山内重保監督・馬越嘉彦インタビュー(3)作監修正による山内タッチの徹底

小黒 そういえば第1話のキャシャーンのアクションで、空中をスーッと滑るように迫っていくところがありましたよね。あれはどういう……?(笑)
山内 あれはジャンプしてきてるんですよ。
馬越 やっぱり気になる人は気になるみたいですね。
小黒 ジャンプというよりは、空中浮遊みたいな。
馬越 来てましたね、スーッと(笑)。その辺はもう、完全に雰囲気ですよね。
山内 でも、第1話はさほど気にならないと思う。キチッとできてますよ。ジャンプした後、その勢いで手前に来る。そこから左右に動くとしたら、本当はどこかに物理的な力が働いてなきゃいけないんだけど、そこでキャシャーンが画面に見えない感じで腰を振って、その勢いで横にスウッと動いたとも解釈ができる。特にキャシャーンは、ああいう柳腰のようなプロポーションだから。だから第1話は大丈夫なんだよ。でも22話(放映21話)以降はやりようがなくて、空中で動かしちゃったけども。なんで空中であんな風に動くんだ(笑)。
馬越 シリーズの途中で、また中途半端にジェット噴射みたいなのを使っちゃいましたからね(笑)。単純に「もっとあれを使えばいいのに」って思うじゃないですか。玉川さん(伊藤達文さん)の話数とか、なんかエラい事になってましたね。
山内 ごめんねー。あれはボンっと出すだけでもよかったんだよね。本当に困った時、途中でボッと噴射煙だけ出てグルンと回るとか。
馬越 俺も最初はそのぐらいのイメージだったんですよ。
山内 玉川君のやった8話は、ジャニスを助けなきゃというキャシャーンの必死さを出さなきゃいけなかったから。だけど玉川君、うるさいんだよー(笑)。このフォルムがいいのかとか、色はこれがいいのかとか、ホント大変だったんだから。まあ、真摯にやってくれたから文句は言えないけども。
馬越 ハハハハ(笑)。煙も極力使わないでいこう、と言ってましたよね。
小黒 そういえば、『キャシャーンSins』のアクションは全般にそうですね。爆発なんかほとんどなかったような。
馬越 ええ。それも結局は統一感というか、ああいうのも逆になければ必要ない。巧い原画マンが描いてくれるなら、煙や爆発があってもいいんですけどね。
小黒 たまにスペシャルな爆発シーンもありましたよね。タツノコがやった11話とか。
馬越 (羽山)賢二さんの回ですね。
山内 煙もそうだけど、飛び道具とか光線とか、透過光もなるべく使いたくなかった。メインは、ウマの描いたキャシャーンとロボットの物理的な力勝負がやりたかったんです。まあ、もの凄い高さを飛んだりするのはアニメーションの世界だから許してもらうとして、あとは身体の動きをしっかり見せていければと思った。最初、小林さんの書いた2話のシナリオに、村に来たら周りを銃で囲まれて云々という描写があったんだよね。そこは、銃を出してもいいけど、できれば何か別のやり方で……という話はした覚えがある。
小黒 この世界では飛び道具を使うのはやめようという事ですね。
山内 銃で撃ったら身体で戦う必要がなくなっちゃうから(笑)。まあ、銃弾を避けながら相手に突っ込んでいくのも面白かったかもしれないけどもね。
小黒 肉体アクションを徹底させるために他のものを削っていった、という事ですね。でも、煙を立てたくないというのは別の理由ですよね。
山内 ゴチャゴチャしちゃうからという理由もあったし、巧い人が煙を描く事に集中するんだったらば、違う事に集中してほしいな、というのがあったんですよ。
小黒 そういえば、松本憲生さんがやった6話とかは、もの凄く盛大に煙が上がってませんでしたっけ。
馬越 凄かったですね、ええ。
小黒 それはもう描いた人の持ち味だからいいんですね。
馬越 ま、たまにはいいんじゃないかなあ、という感じですね(笑)。変化球というか。ただ毎回ああいうアクションだと、イメージしていたものとは少し違うのですが。
山内 ちょっと違うね。
小黒 あの回を抜きにしても、『キャシャーン』の作画のクオリティと画作りの統一感は、かつてないほどのものだったと思いますよ。
山内 ウマが全部に手を入れてるからね。フレームに対するキャラの置き方とかレイアウトとか、全部修正して押さえてきてくれたから。画面に対してキャシャーンがどう立つか、みたいなところでね。
小黒 全編を通じて、構図内のキャラの収まり方が非常に綺麗ですよね。もちろん山内さんのコンテもそうなってるんでしょうけど、あれはむしろ馬越さんの手柄なんですか。
山内 だと思います。
馬越 いや、山内さん本人のコンテならいいんですけど……他の人のコンテだと、やっぱり普通の画になっちゃうと言ったら変ですけど、それを俺がレイアウトを見る時に修正してたんです。
小黒 ああー、なるほど! そういう事だったんだ!!
馬越 多分、原画の人たちは各話のコンテから正解のレイアウトを描いてくれてはいると思うんですよ。けど、こちらで山内テイストをプラスアルファしていかないと全体を統一できないよな、みたいな意識はありました。
小黒 じゃあ、あれは山内さんが各話のコンテをバンバン描き直してるわけじゃなくて……。
山内 いや、コンテでも直してるけどね。
小黒 そこからさらに、馬越さんが総作監的にレイアウトを直して、今のかたちになってるわけですね。
山内 そうそう。いや、僕がウマにやれって言ったわけじゃないよ(笑)。
馬越 やっぱりこう、山内さんは「(キャラクターが)前に来い来い!」みたいな画を必要としてるから。
小黒 どアップなのにちゃんと構図が決まってる、という。
馬越 ハハハ(笑)。かなり無理矢理でしたけどね。両目を見せて口も入れて……となると、かなり変形させなきゃいけない。
小黒 今、TVが大画面になって、アニメも大画面対応で作らなきゃいけなくなってきて、どちらかというとカメラを引いた画作りになってると思うんですよ。でも、今回の『キャシャーン』は逆に寄る事によって大画面をもたせられないか、という新たな回答を出してましたよね(笑)。
馬越 あれはまた特効さんとか、撮影の処理とかが綺麗なので、そこでも凄く助けられてるんですよ。

小黒 『キャシャーン』のアクションは、フレームの中での遠近のつけ方が凄く変わってるじゃないですか。人体を描く時に顔が手前にニューッと出てきて、手が遠くの方にあるとか。ああいう特徴的な描き方は、元々コンテにあるんですか?
馬越 基本的にはそうです。
山内 コンテにもあるけども、今回は倍増しで作ってるから。
馬越 いや、コンテの画がああじゃないと、なかなかああいう風にはならないと思うんですけどね。
山内 ウマがやってくれると分かってるから、そう描いてる部分もある。コンテ段階だとバランスも何もとれてない、無理くり収めてる画なんですよ。でも「ウマなら多分大丈夫だろ」って知らんぷりして(笑)。
馬越 そこから整合性とかバランスをとろうとして、結果的にああいう画面になるんじゃないかと思います。
小黒 今まで『ストリートファイター(ZERO -THE ANIMATION-)』とか『(甲虫王者)ムシキング(森の民の伝説)』とかで何度かコンビを組まれてると思うんですけど、今回みたいなハッタリ系というか、デフォルメ系のアクションで組んだのは初めてになるんでしょうか。
馬越 ああ、『ストリートファイター』の時とは確かに全然やり方が違いましたね。山内さんの中ではそんなに変わってないのかもしれないですけど。
小川 『キャシャーン』は久しぶりに、僕らが思う山内アクションが出てきたという喜びがありました。
山内 いや、『ストリートファイター』の方が、いつもの持ち味ですけどね。
小黒 えっ? あの作品はどちらかというと『DRAGON BALL』に近いじゃないですか。あっちが山内さんにとっての普通なんですか?
山内 うん、そうですよ。だから、さっきも言ったじゃないですか、元々どちらかというと須田さん系、タツノコリアル系のしっかりとした、デフォルメをあまりしない画の方が好みなんです。
馬越 そうなんですか?
山内 そうですよ。あれえー?
一同 (笑)
小黒 じゃあ『星矢』とか『キャシャーン』はむしろ変化球なんですか。
山内 まあ、それも自分の持ち味になってるというのは分かってるから。ケレン味を出すというか。逆に、ウマからインスパイアされたのは『花男(花より男子)』の時ですよね。牧野つくしの顔が自然とデフォルメされてたんですよ。
馬越 ああ……あの時は、俺はなんにも分かってないですから。もう必死すぎて。
山内 わざとらしくじゃないけども、自然にデフォルメがされていた。「そうか、こんな風に描いてるんだなあ」と思いました。特に印象に残ってるのは、山吉(康夫)君が演出したリンチに遭う回(第32話)。
馬越 ああー。あんなの今じゃ朝の8時半に絶対できないですよね。
小川 つくしが監禁されたり、道明寺がバットで殴られたりする話ですよね。
馬越 絶対ムリだ(笑)。
山内 あと僕が演出をやったやつでは、つくしが車につながれて引き回される回(第16話)と、みんなで別荘に行く回(第43話)。別荘の話は好きですね。
小黒 僕は、馬越さんの『花男』だったら、最終回のカッ飛んでる作画が好きでした(笑)。『キャシャーン』に話を戻すと、馬越さんとしてはシリーズを通じて、作画的には大体当初のイメージどおり最後までできた?
馬越 まあ、そうですね。
小黒 今回、わりと古典的というか、太くて濃い線をグリグリと描く劇画タッチの画でしたよね。今まで馬越さんは、ああいう感じのものはあまり描いてなかった?
馬越 ずっとやりたかったんですけど、やっぱり「難しい」という話だったんですよね。動画仕上げをやってくれる人が、なかなかその線を再現できないだろうと。でもまあ、止め画中心だったら可能だろうという事で(笑)。あとはだんだんシリーズが進んでいくにつれて、無理くりできればラッキーみたいな感じでやってました。逆に、そのノリで行ってしまったがために、思いどおりの線にできてるところと、できてないところの差が出ちゃったりしましたね(苦笑)。
小黒 ディオとかレダとか、もの凄い画になってたところがありましたよね。
馬越 あれも全部、自分でもう動画見本を作って、動画の人に「この線の感じに合わせて割ってください」と言ってやってました。動画の人もかなり頑張ってくれたりしたんですよね。だけど、まだ色々ちょっと難しいみたいです。やっぱり塗りが……。
小川 線を2本引いて、その間を塗りつぶすというやり方なんですか。
馬越 それだと多分、ただの太い線になっちゃう。はみ出した線というか、擦れた線みたいなニュアンスはなかなか……。
小黒 でも、あのオープニングに関しては理想的というか、完成度的には問題ないんですよね。
馬越 ああ、はい。思ったとおりの仕上がりです。

●第4回につづく

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(09.06.17)