アニメスタイルイベント特別企画
『カイバ』湯浅政明監督・公開インタビュー(3)

小黒 シリーズの前半は、いろんなゲストキャラクターが登場する各話完結スタイルの話があって、後半はメインキャラクター達の入り乱れる連続ストーリーになるじゃないですか。元々、どっちをやりたかったんですか?
湯浅 両方ですね。やってて楽しいのは前半の1話完結ものの方なんですけど、後半のまとめに入る時も、普通に気軽にやりたいなーという気持ちがありました。なるべく想定どおりにまとまるように。前回『ケモノヅメ』をやっている時は、よく「お話がまとまってない」と言われたので。
小黒 そうですか。
湯浅 ええ。僕としてはよく分からなかったんだけど、でもまとまってないように見えるんだあ、と思って。だから、もっとまとまって見えるようにしたいな、とは思ってました。まあ、ホントは1話完結の方が楽しいんですよ。『(天才)バカボン』の最初のシリーズみたいに、普通にずーっと1話ずつ同じようにやって、最後にバカボン一家が引っ越していって「さよなら〜」みたいな。そういう最終回ができればいちばんいいと思うんだけど、みんなダメだって言うんですよね(笑)。

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▲第8話より。物語後半の重要な鍵となる回想シーン

小黒 実際、全て1話完結で行こうとスタッフに言ったことがあるんですか?
湯浅 やりたいなーって言ったら、反対されました。
小黒 首尾一貫した主軸も必要だ、と。
湯浅 そうそう。だからまあ、「お話というものはなんだろうか?」というのが、僕のテーマなんですけどね。気持ち的に。
小黒 制作的なテーマとして。
湯浅 ええ。『ケモノヅメ』の時に、「お話ってのはこういう風に終わるものじゃない」って言われたんです。僕的には全然OKだったんだけど、じゃあ、どういう風に終わればいいんだ? と思って。観る人は何を求めてるんだろう、どういう風にすればみんなに観てもらえるんだろう、どうすれば嬉しいんだろうというのを、自分のできる範囲でちょっと分かりたいな、と。
小黒 『MINDGAME』の時も、確か「ストーリーがない」って言われたんですよね。
湯浅 言われましたね(苦笑)。
小黒 で、『ケモノヅメ』でも同じ事を言われたと。今回はどうだったんですか?
湯浅 「また投げたな」とも言われました。
小黒 ハハハハ!(爆笑)
湯浅 でも、前回よりはいいんじゃない? っていう感じですけど。
小黒 僕も『カイバ』を観ていて、最終話の手前あたりでは「おっ、凄く綺麗にまとまりそうだぞ」と思ったら、最終回でチビワープとか出てきて。膨らませすぎ! と思いましたよ(笑)。
湯浅 ああ、そうなんだ。そういうのが自分では分からないですね。多分、情報量が多いんですよ。もうちょっとシンプルにした方がいいんだろうな、とは思うんですけど。

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▲第12話より。クライマックスに登場するチビワープ

小黒 多分みんな、結末までのドラマの流れをなんとなく想像しながら観るじゃないですか。でも『カイバ』は、その向こう側に行っちゃってるんですよね。
湯浅 あ、そういう事を言ってるのか(笑)。
小黒 だから、カイバとネイロとポポの話で終わっていれば、おそらく「よくまとまりましたね」って言われると思うんだけど、終盤でポポがフェードアウトしていって、違うスペクタクルの方へ行くじゃないですか。そこで結構、面食らうと思うんですよ。「あっ、そうなるんだあ!」という驚きはあるけど、単純にまとまっているかどうかの話でいうと、違うという人もいるんじゃないかな。
湯浅 それとか、気持ちいい流れを期待しちゃうという事ですよね。「こうなってほしいな」っていう。
小黒 そうそう。多分、理想的なのは「こうなるだろうなー」っていう予想を、ほどよく裏切る感じ。
湯浅 みんなが思ったところの、ちょっと上ぐらいがいいんでしょうね。
小黒 でも『カイバ』は相当、想像の上を行っちゃってますから、なんだこれは!? っていう事になるんじゃないですか。
湯浅 そうなんですかね。それがよく分からないんですけど(苦笑)。もっと普通に終わればいいのかなあ……難しいですね。
小黒 でも、湯浅さんは別にそういうものは作りたくないんですよね。
湯浅 まあ、どっちかというと、作りたくない(笑)。

カイバ場面写3_3

▲第10話より。宮殿の上に佇むカイバとネイロ

小黒 お話という事で言うと、今回、とにかくいろんな伏線を張り巡らしているじゃないですか。最初に1話を観ると何がなんだか分からなかったのに、最終回まで観てからもう一度観ると「こういう事だったんだ!」と分かるような仕掛けが随所にある。それも、しっかりとお話を作ろうという意欲の表れなんですか?
湯浅 いや、それはストーリーとは別に、観ている人に体感してほしい部分です。最初はとにかく何も分からないまま放り込まれて、だんだん分かっていくみたいな。まあ、元々分からない世界なんで、いちから説明しちゃうと大変だから、観ている人もカイバと一緒になんとなく世界が見えてくればな、と思ったんです。でも、今はTVのアニメって、たくさん観る人は最初の1話だけとりあえず観て、最後まで観るか観ないか決めるらしいので、もうちょいツカミがないとダメだったんだろうな、とは後から思いました。1話は普通に分からないままでいいな、と思って作ったので。
小黒 むしろ、その「分からなさ」がフックになっている。
湯浅 ええ。すぐには分からなくても、それがこの世界では普通の事だという。そういうのが『カイバ』の世界観なので。伏線が多いのも、特にたくさん仕掛けてやろうという意識はないんですけど、まあ、そういうのが好きなんでしょうね。
小黒 湯浅さんが思う「分かりづらさ」「分かりやすさ」って、どんなところにあるんですか?
湯浅 まあ、情報を丁寧に、時間をとって説明する事が「分かりやすい」という事だと思うんですよ。
小黒 今回のように、何度か観てやっと分かるような部分というのは、わざと少し分かりづらくしている?
湯浅 いや、分かりづらくというよりは、よく観てると分かるように作ってる、という感じですね。僕としては、それぐらいの方が好きなんです。
小黒 ハードル高いですねえ。
湯浅 (笑)

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▲第5話より。パッチの過去に現れるキュートな女性科学者

小黒 いきなり細かい話になりますけど、第5話で、売れっ子デザイナーのパッチの過去が映されるシーンがありますよね。眼鏡っ子の科学者が出てきて、実は彼女がパッチの世話をしていた事が分かる。で、最後にパッチの体がグチャグチャになってしまって、パッと場面が変わると、いきなり眼鏡っ子が肉体を取り戻して「私がなんとかしましょう」とか言うじゃないですか。
湯浅 ええ。
小黒 彼女の身体はどこから出てきたんですか?
湯浅 あれは写真とかをもとにして、あの赤ん坊にボディを再生してもらったという設定なんです。
小黒 ……まあ、それはなんとなく分かるんですけど、その描写はすっ飛ばしてるじゃないですか。ああいう分かりにくさも狙いなんですか?
湯浅 ああー、なるほど。そこが分かりづらかった、という事に気がつかなかった(笑)。
小黒 ええー!?
湯浅 分かりやすくやろう、とか言っているわりに、意外と気がつかないんですよ。なんとなく分かるだろうなーと思ってて。でも、言われないと分からないですよね。『ケモノヅメ』の時は、小黒さんにも手伝ってもらって、ミーティングで「ここ分からないです」って指摘される事もあったんだけど、今回はあんまりそういうソフトチェックみたいな機会がなかったので。
小黒 (笑)。あと、三原さんがやった4話で、最後にお婆さんの2人の孫がいきなり死んでいて、「灯台星でずっと暮らしていると、そこから離れては生きていけないんだ」みたいな台詞であっさり締めちゃうじゃないですか。あれはあれでいいんですか?
湯浅 うん、深くは説明しないんです。……なんか疑問に思った事があるんですか?
小黒 いや、唐突だなあと思って(笑)。
湯浅 ああー、そうなんだ。なんかね、『(銀河鉄道)999』でそういう話があったんですよね。あの2人が死んじゃう理由に関しては、重力が軽い星という設定にしてあるじゃないですか。冒頭からカイバ達がボヨーン、ボヨーンと凄いジャンプしながら歩くっていう。あれは僕が言ったんじゃなくて、三原さんから出てきた設定だと思うんだけど。で、そういう場所で長く生きているから、骨も華奢なんだという事だと思うんですよ。
小黒 ああ、なるほど。ロケットの重力に耐える体ではなかった、と。そういう部分は、観ている人が想像で補えばいい?
湯浅 そうですね。
小黒 そこは、今のお客さんには難しいところかもしれませんね。よく観てないと分からないし、観てる人が積極的に考えないと分からない、という。

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▲第6話より。全話を観てから再び観返すと、なおさら切ないエピソード

湯浅 まあ、自分でも忘れてたりするんですよね。シリーズ通してネタを振ってるのに、オチをつけるのを忘れてるとか。「やろうと思ったのに、この話数、もう終わっちゃってるな」とか。結構、忘れっぽいんです(笑)。
小黒 どのあたりを忘れてるんですか?
湯浅 まあ、マッドハウス公式サイトのコラムにも書きましたけど。キャラクターそれぞれの仕草にクセをつけて、ボディがいろいろ変わっても、クセは変わらないから誰か分かる、みたいな事をやろうと思ったんですけど。ネタを振り忘れてて、あんまり使ってなかったりとか(苦笑)。
小黒 ポポが鼻をこすったりするところは分かりやすいですよね。
湯浅 そうですね。
小黒 6話でカイバがお茶を注ぐシーンとかは、注ぎ方が伏線になってるんですよね。
湯浅 そうそう。それを見て(ネイロが)「おっ」ていう顔をしてるんです、一応。
小黒 でも、こういうのは2廻り目じゃないと分からない描写ですよね(笑)。じゃあ『カイバ』の分かりづらさの匙加減というかバランスは、ほぼ湯浅さんの思った通りなんですか?
湯浅 そうですね。前半とかは分かりやすい話もあると思うんですけど、あんまり説明してない部分もある。でも、表層の分かりやすい部分だけで、なんとなく観ていられるという作りにはしてるつもりです。TVアニメだし、あんまりやりすぎるのも違うなーとは思うので、「藤子不二雄みたいに分かりやすくしないと」とは思うんだけど。昔の『ドラえもん』とか観ると、もの凄く分かりやすく作ってある。やっぱり、これぐらいじゃないといけないんだなーって。前の『ケモノヅメ』でも、だんだんと人間が変化していくみたいな事が、あんまり伝わらなかったらしくて。ここで変わった、という瞬間がコツンコツンとないと、観ている人は分からないんだという意見を聞いて、「ああ、なるほど」と思ったり。今回も、いろいろ勉強しながらやってる感じです。

●『カイバ』湯浅政明監督・公開インタビュー(4)へつづく

●関連サイト

『カイバ』公式サイト
http://www.wowow.co.jp/anime/kaiba/

マッドハウス公式サイト
(湯浅監督コラム「カイバ←湯浅政明←ケモノヅメ」連載中)
http://www.madhouse.co.jp/

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(08.10.17)