絵コンテの一部を抜粋(2)

 映画の大半を占めるドラマ部分の絵コンテは、監督である押井守が描いている。押井監督のコンテは、絵的にはシンプルだが、この段階で、人物の配置、カメラ位置、レンズの種類といった画面の基本設計はなされている。むしろ、演出意図を読み取りやすい絵コンテと言えるだろう。
 『スカイ・クロラ』の演出的なポイントは、まず、2時間を超える長さでありながら、800カット強と、総カット数が非常に少ない点。時間の感覚が独特で、時が停滞しているかのような濃密な雰囲気が表現されている点も重要だ。その濃密な雰囲気が『スカイ・クロラ』を、より映画的な作品にしている。また、カット数の少なさと時間の感覚はリンクしており、絵コンテは、その秘密を読み解くための重要なアイテムとなるはずだ。
 押井監督自身は、今回の絵コンテではあまり情報量を詰め込んでいないと語っているが、それでも様々な演出的な意図が書き込まれており、絵コンテを読む事で初めて気がつく事は少なくない。そんなところも、彼のコンテを読む悦びだ。

▲優一が、初めて司令室屋を訪れた場面。「自然光です」「デスクでキーボードに手を置いてPCあることにします」「レンズ反射あり」「コツコツと優一の足音」「軍隊でないのでビシ!としてません」等のト書きに注目

▲基地の談話室。朝帰りの土岐野が窓の外に張りつく。これが彼と優一との初対面だった。ト書き「意味ありげに笑う」の後に「ホントに意味があります」。その意味は、後にならないと分からない

▲映画後半のレストラン。Cut629は、ここに掲載しただけでも33秒! さらにこのカットは、次のページに続く

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