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  恐ろしい拷問

 アニメスタイルイベント「今石洋之特集」も無事終了しました。皆様、ご来場ありがとうございました。イベントでもちょっと話しましたけれど、僕は、今石君とは5年前に「アニメージュ」の「この人に話を聞きたい」で、彼が新人だった頃に取材して以来の付き合いです。その取材で、彼は「金田アクションを目指します」みたいな事を言っていて、正直こんなファン全開なノリで、大丈夫なのかなと思ったんですよ。だけど、最近の彼の活躍を見れば分かるように、その時の僕の心配は全くの杞憂でした。なんて事を、今回のイベントをやって思いましたよ。彼の監督作品『DEAD LEAVES』の公開はもう少し続くようです。まだ未見の方は、是非劇場へどうぞ。

 DVD−BOXのリリースに合わせて、このところTVで『機動戦士Vガンダム』のスポットが頻繁に流れていました(本放映開始時の数倍、力が入っているんじゃないかというくらいの勢いで)。『Vガンダム』は作品の濃厚さのわりにあまり話題になる事がなかった不遇な作品ですから、本放映当時からのファンの身としては、こんなかたちでも人の目に触れるのは嬉しい事です。
 短いものですが、DVD−BOXに原稿を書かせていただきました。高額商品ですので、買って下さいとは言いませんが、機会があったら目を通してみてください。以下、スペースの関係でDVD−BOXで書きそびれた『Vガンダム』に関するちょっと面白い話を。
 『Vガンダム』の主人公はウッソ・エビンという13歳の少年です。彼は敵に捕まり、第29話「新しいスーツV2」というエピソートでルペ・シノという女性士官によって、無理矢理一緒にお風呂に入れられる事になるんですね。それは色気も何もなくて、どちらかといえばコミカルなシーンなのですが、問題は、前の話についたこのエピソードの予告です。ヒロインのシャクティのナレーションが、そのお風呂シーンについて「ウッソは恐ろしい拷問を受けるのです」と言うんですよ。この「恐ろしい拷問」って、どういう意味なんだろうか。『Vガンダム』は、観る側に色々と解釈を求める作品でもあったのですが、この「恐ろしい拷問」についてはどう解釈していいのか、僕は全然、分からなかった。そういう人は他にも多かったんじゃないですかね。
 DVD−BOXの原稿でも書きましたが、僕は『Vガンダム』の放映終了直後に、ゲーム雑誌のアニメページの記事で富野由悠季監督に取材しました。その時に一番聞きたかった事が「恐ろしい拷問」の意味だったんですね。富野監督は「『Vガンダム』で描いたのは、今の皆さんの年代の男と女の関係です」という趣旨で、色々な話をしてくれました。で、「恐ろしい拷問」については「あれは、嫌いな女にセックスを強要されたようなもの。男性にとってこれ以上の拷問はないでしょう」との事でした。
 この言葉には合点がいきました。合点がいったのと同時に、ビビリましたよ。そうか、そこまで富野さんは考えていたのか! 恐るべき、富野由悠季。さっきも書いたように、ルペ・シノとウッソのお風呂はコミカルなものとして描かれています。普通に見れば、女性士官が子供をお風呂に入れようとして、結果、暴れられて逃げられてしまった、としか見えない。だけど、富野監督の中では、それはニュータイプであるらしい少年を、大人の女性が色気で篭絡しようとして浴室に誘ったシーンであったわけです。
 このシーンに関して、実際には富野監督が考えていた生臭さを、本編の描写から感じるのは難しい。多分、本編での描写がセーブしたものになってしまったため、予告ナレーションで「恐ろしい拷問」というフレーズを入れたのでしょう。
 富野監督の作品は、アニメで「人間の生々しさ」を描くのが創作上での目標であり、魅力でした。それが最も強く出た作品が『逆襲のシャア』であり、『Vガンダム』だったのでしょう。『逆襲のシャア』は表現上の抑制が効いており、作品としてまとまっているのですが、『Vガンダム』はそのコントロールがまるで効いていない。過剰な部分は限りなく過剰であり、それと同時に過剰な表現をセーブしようという力が働いている。そのチクハグさが『Vガンダム』の魅力なのだと思います。トバしているところは強烈にトバしているのだけれど、常にエンジン全開でトバしているわけではない。作り手の全開でトバしたいという気持ちと、それをやってはいけないのだという思いが錯綜して、他の作品にはない深みを生んでいる。その深みが良い。セーブしている部分があるだけに、迸っている部分が熱いんですよ。
 僕にとって『Vガンダム』は、『機動戦士ガンダム[ファースト]』『伝説巨神イデオン』『逆襲のシャア』と並ぶ富野作品です。『∀ガンダム』や『キングゲイナー』が富野監督の到達点だという事は理解できますが、それは別物です。本当に、色々と見るべきところのある作品です。シャクティのセリフを借りれば、「見てください」ですね。そう言いたい作品です。

(04.01.29)

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